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かつて出会った少女と、今求めている彼女と

 ミイは、あの少女なのだろうか。

 優しいルミナ。


 イルソンはミイのことをルミナと呼んでいた。

 ――そう、確かにルミナと呼んだのだ。


 死んだと聞かされていた。

 そう、盗賊団に襲われたのだと。


 襲った盗賊団がゾルショワナで、ルミナがそこで捕らわれていた。


 その可能性がないとは言い切れない。


 自分に好意を寄せていたと言った。

 あの頃、自分がルミナになにかをしてあげた覚えはない。

 好意を寄せてもらえるような自分ではなかったはずだ。


 ルミナは優しい少女だった。

 当時泣き癖のあったカシュールカだったが、ルミナは呆れることなく話をきいてくれた。


 ……そんなルミナの顔も、今では、はっきりとは思い出せない。

 あの頃はまだ幼かった。

 たとえ顔を覚えていたとしても、成長していて気づかないということももちろんあるだろう。


 ルミナたちの一家が頻繁にラクドット家を訪れていた時期というのは、今から十年ほど前まで遡る。


 その後交流は途絶えがちになり、五年ほど前に死亡の報を聞いた時には既にルミナは思い出の中の少女でしかなかった。


「カシュールカ。今は考え事をしている場合じゃないよ」


 すぐ横を走るサクに注意され、我にかえる。

 そうだ。今からミイを助け出さねばならない。

 それから直接訊けばいいのだ。


「悪い」


 短く詫びる。


 作戦は至って単純。

 まず、サクとカシュールカ、そしてゾルショワナ盗賊団の中から立候補したムウルの三人が先行して突入する。


 サクはロークを目指し、カシュールカとムウルはイルソンを探す。

 サクとロークが対峙し、カシュールカ・ムウルとイルソンが対峙する。


 今、ゾルショワナ構成員は二人だけだ。

 その隙にハーダッシュたちが侵入し、指輪を回収する。


 その過程でミイと遭遇したら、ミイも救い出してもらう。


 もちろん、カシュールカは自力でミイを助け出したい。

 助け出すつもりだ。


 しかし、ミイには一刻も早く逃げ出して欲しい。

 もしもサクがその力を発揮した時、巻き添えにならないために。


「で、どっちに行けばいいのか、わかってんのかよ」


 先頭を走るカシュールカとサクを数歩遅れて走るムウルが問う。

 道案内はサク。

 サクの能力によって、ロークの、そして印を持つミイの居場所を探りながら進むことになっている。


 しかし、とりあえず隠れ家と思われる屋敷内にいることは間違いない。

 近づくにつれ、その屋敷が予想以上に大きいことがわかる。


 サクとロークの戦いは激しいものになるだろう。

 それまでにミイを見つけなければならない。


「心配するな。おまえの出番は、屋敷についてからだ」

「よおし。屋敷についたら、思う存分やってやるぜ」

「じゃあ、俺はその隙にミイを探しに行くよ。後は頼むわ」


 カシュールカがムウルを振り返り、片手を上げた。

 よろしく、というアピールだ。


「おい待てよ。オレだってミイを探すぜ。助けに来たオレに、きっとミイは感動してくれるはずだ」


 ムウルが、うしっ、と気合を入れる。


「勝手に盛り上がるな。ミイを見つけるのは俺だ」

「いや、俺だぜ」

「ちょっとちょっと、相手に気取られるのは遅ければ遅いほどいいんだから、静かにしてよ」


 サクが眉根を寄せて注意する。


「悪い」


 カシュールカとムウルの声が重なった。


「一応、目晦ましの術を使ってるけどね。近づけば、ロークほどの術者相手だと気づかれるから」


 屋敷まであと少し。


 待ってろよ、とカシュールカは心の中でミイに呼びかけた。

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