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送られた塩と休息の終わり

「俺は……、俺も、納得できたわけじゃない。ミイにはこれからもここで働いて欲しいと思ってたんだ」


 カシュールカがぽつりと言う。


「それがわかってりゃ簡単じゃねえか。力ずくでもいいから連れ戻せばいい。それがまずけりゃ、後でおとなしくミイに叱られればいいんだよ。それだけの話だ。まあ、ミイの剣幕はすごいから多少の覚悟は必要だけど、会えねえよりは全然ましだ」


「なるほど。随分とわかりやすい」


 サクはくすりと笑った。


「確かに。目から鱗が落ちた」


 頭をかきながらカシュールカが身を起こす。


「そりゃあ良かった。じゃ、頼むぜ。ミイの行方を捜すんだろ? オレもあちこちあたってみる。他の仲間だって、行動を開始してる。おまえらにもしっかりしてもらわねえと困るんだ。オレのミイの為にもな!」


「おまえのミイってわけじゃないだろ」


 カシュールカが即座に指摘する。


「いつかオレのものになるかもしんねえだろ? 夢を見るのは自由だからな! じゃ、頼んだぜ」


 ムウルはカシュールカの肩をぽんと叩くと、振り返った。

 サクに向かって片手を上げると、そのまませわしなく出て行ってしまった。


「なんだ、あいつ」


 カシュールカが額を押さえてくっくっと笑う。


「カシュールカの様子をハーダッシュから聞いたんじゃないの? それで、気合いを入れるためにわざわざ来てくれた、とか」


「だとしたら相当いい奴だ」

「いい奴だよ、きっと。だからミイだって彼と一緒にいたんじゃないのかな」


「なるほどね。一理ある」

「復活したみたいだね」


 サクがカシュールカに向かって微笑む。


「また、俺の前から消え去ったんだと思ったんだ。やっぱり俺は何かに執着したらいけないんだと思った。執着してしまったから、だからミイは消えたんだって。そう思ったらなにもできなくなった。……でも、なんだかあいつの話を聞いてたら、阿呆らしくなってきた。だってあいつ、すっげえ単純。なんだあれ。でも、それもありなのかな、って思ったんだ。なあ、俺も、ああいう風に生きてもいいと思うか?」


「いいんじゃないの。そろそろ僕たちの休息の時間も終わる頃なのかもしれないね。カシュールカ、執着できるものができるのはいいことじゃないかな。確かに、執着してしまうと失った時に辛いよ。それは僕もカシュールカも経験済みだ。でも、なんにも執着できないままっていうのは寂しいよ」


 三年前、二人だけでここに閉じこもることを選んだ。

 そうして、負った深い傷が癒えるのをただ待っていた。

 これ以上傷ついてなるものかと、自分たちを傷つける可能性のある外界との接触を可能な限り絶った。


 そう、それは自分を守ることでもあったし、カシュールカを守るためでもあったのだ。

 でも、そんな生活をいつまでも続けていていいわけがないこともわかっていた。


 これが契機になるだろうか、とサクは考える。

 サクは復讐をするために、カシュールカはミイを連れ戻すために。


「そうだな」


 カシュールカは伸びをして立ち上がった。

 そんなカシュールカの様子を見て、サクはほっと胸を撫で下ろす。


 もう、大丈夫だろう。

 とりあえずゾルショワナの元からミイを連れ戻すまでは。

 その先はどうなるかわからないけれど……。


 その時、サクはある気配を感じた。

 アルコール絶ちをしてから、感覚は随分と鋭くなっている。


「カシュールカ、僕は少し出てくるよ。帰りはそんなに遅くならない」


「わかった。俺も準備を始めておく」


 頷くカシュールカを残して、家を出る。

 気配を感じた方を見ると、ゆっくりと近づいてくるひとつの小さな影が見えた。


 数歩、その影に歩み寄る。

 作り物ではない笑顔で、サクはその影を迎えた。


「ミイ」

「サク……」


 ミイは、やや緊張した面持ちで足を止めた。

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