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ご主人様のおいしいお料理

 結論。

 カシュールカは、やればできる子だった。

 

 ミイが自分だけで作るよりもはるかに手早く、そしてカシュールカに手伝ってもらって――というかほとんど作ってもらった料理のほうが、美味しかった。

  

 なるほど、確かに、これと比べたらわたしの料理は確かに劣る。


 ミイは料理を食べながら、納得してしまった。

 要は生きてゆくだけの栄養が摂れればいいわけだけど、どうせ食べるのなら、やっぱり美味しいほうがいい。


 カシュールカの細長い指は、野菜をちょうどいい大きさに切り、火にかける時間もおそらく的確で、出来上がった料理をよそる手際もよかった。


 出来上がったスープの野菜はどれもきちんと火が通って柔らかく、かといって型崩れするわけでもない。

 煮込んでいるうちに芋の姿が消え去ってスープに溶け込んでしまったり、口に入れてみればコリっと野菜の歯ごたえがあったりするわたしのスープとは、全然違った。

 料理とは、どれほど食材に気を配れるかが大事なんだな、とミイは学んだのだった。


 それと、調味料。

 よくわからないから手当たり次第に使っていたけれど、それを上手く使えばまるで魔法のように料理をおいしくしてくれるものだった。


「どうだ」


 カシュールカが、このくらいなんてことない、という顔をしてミイに問う。


「感服しました。ご主人様」


 もう少し、料理の勉強をしよう。

 と、ミイは思うのだった。 

 


 外出禁止令が出てから一週間。

 ミイは言いつけを守って、家で大人しくしていた。

 ミイが料理の練習をしていても、カシュールカはなにも言わなくなった。

 その代わり、あの日以来、手伝ってくれもしないけれど。


 ミイは干したばかりの洗濯物が風にはためく様子をぼんやりと眺める。

 ミイが着ているメイド服のスカートの裾も、同じように風にはためいている。


 空には輝く太陽と白い雲。

 風は心地よく、ミイは思わず目を細めた。


 このまま寝てしまいたい……。


 洗濯はこれで最後だった。

 掃除は昨日もしたから、今日は別にしなくてもいいのではないだろうか、などとついつい考えてしまう。


 仕事だからやるけれど、やっぱり家事は好きじゃない。


 物干し場の端の手すりに寄り、そこから下の通りを眺める。


 今日はなんの料理の練習をしようか……などと考えていたら、通りを歩いてゆく見知った顔を見つけた。


「ムウルー」


 大きな声で呼びかけたが、どうやら気づかなかったようだ。

 ムウルはそのまま通り過ぎてゆく。


 ミイは物干し場を飛び出した。

 そのまま廊下を走り階段を駆け下りると、ロビーにはいつものようにごろごろとしているカシュールカの姿があった。


「外出禁止はまだ解除されてないぞ」

「ムウルの姿が見えたから。ちょっとそこまでよ。すぐ戻るから」


 ミイはそれだけ言い残し、カシュールカの返事を聞く前に家を飛び出した。


「ムウルーッ」


 ムウルが歩いていた方向へ向かって、走りながら呼びかけると、小柄な少年が立ち止まった。


「ミイ!」


 ムウルの顔に笑顔が浮かぶ。


「ムウルってば、呼んだのに止まってくれないんだもん」

「え? 呼んだ?」

「呼んだよ、上から」

「上?」


 ムウルが空を見上げる。

 ミイもつられて顔を上げた。

 視界には物干し場がしっかりと見えている。

 ミイはそこを指差した。


「あそこ」

「え? どこ?」

「あそこの手すりがあるところ」

「手すり?」


 ムウルが空を見上げながら首を捻っている。

 どうやらよくわからないようだ。


 ムウルって、目悪かったっけ?

 そんなことは、なかったと思うけど……。


 ミイは、不思議に思いながら、口をぽかんと開けて空を仰ぐムウルの横顔を見つめた。

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