禁じられた料理のお時間
暇だ。
ミイはベッドの上で、ごろりと寝返りをうった。
もう、既に日は出ている。
朝寝坊しても、一日中なにもしなくても、カシュールカとサクはなにも言わない。
ミイが動かなければ、ふたりもやらないか、気が向けば自分たちでやってしまう。
ミイが役に立つことを期待していないから、怒りもしない。
だが、それでは雇われている身としてミイが納得できない。
飼われているわけじゃあ、ないんだから。
よいしょ、と気合を入れて起き上がる。
掃除洗濯と買い出しが主な仕事だったけれど、外出禁止令が出て買い出しに行けなくなった以上、あとは掃除と洗濯を極めるしかないのか。
けれど、掃除洗濯といっても、洗濯物が毎日たくさん出るわけでもないし、掃除といっても日々それほど汚れるわけでもない。
この機に、あれをやるか――。
ミイは寝巻を脱いで着替え、髪をまとめると、部屋を出た。
※※※
ガチャガチャという賑やかな音で、カシュールカは目を覚ました。
またあいつか。
今度はなにをやっているのかと、自室を出て音の出所を探る。
時間をかけるまでもなく、音は台所から聞こえているのだとわかる。
大量に溜まっていた食器類は、既にミイが来て数日のうちにはきれいに片付けていた。
その後、使われることはほとんどなかったはずだ。
それなのに、いったいなにをしているんだ?
「おい!」
声をかけながら台所へ踏み込むのと、きゃあ、という悲鳴が聞こえるのと、白い粉に包まれるのが、ほぼ同時だった。
えほっ、えほっ、とミイが咳き込んでいる。
「おい、大丈夫か?」
手で顔の前を仰ぎながら、状況を観察する。
調理台の上に、ごろごろと転がっているのはジャガイモ、キャベツ、玉ねぎと豆、その他諸々の野菜。
あと、口の開いた紙袋。・
床の上には、しゃがみこんだミイと、その手から落ちたと思われる容器、その中に少し残っている白い粉。
白い粉を被って髪が白くなったミイを見下ろして、カシュールカはため息を吐いた。
「あれほど、料理はするなって言ってあるのに、おまえは……」
「でも、外出禁止令のおかげで、時間はたっぷりあるんだもの。だから、あなたとサクさんに気に入ってもらえるような料理を習得するための時間に充てようかと思って。ていうか、絶対に美味しいって言ってもらえるようなものを作ってみせる!」
ミイが胸の前で、グッと握りこぶしを作っている。
この惨状の中で。
「……はあ。とりあえず、立て」
カシュールカは、ミイの髪についた粉を、ぱんぱんと軽く払ってから手を差し伸べた。
むぅ、とミイは小さく唸ってから、カシュールカの手をつかむ。
ひょい、と引き上げられた拍子に、スカートの上に溜まっていた粉がふわりと舞った。
ミイが、けほ、と小さく咳き込む。
「作って見せるっつったって……」
カシュールカは呆れながら、考える。
このまま、ミイを放っておいたら、次はなにが起こるかわからない。
今だって、火でも使っていたら、あやうく大爆発を引き起こしていた可能性だってある。
「迷惑はかけないわ。すぐに片づけるから……」
「パンを焼いて、ジャガイモを茹でるんだな? あとスープか。このキャベツは?」
「それは今日はまだ食べないんだけど、せん切りにして、数日置いておけば発酵していい感じになるの」
仕方がない、とカシュールカは腕まくりをした。
「わかった。おまえはまずさっさと片づけろ。そのあいだに、俺が生地を作る。片付いたら、竈に火を入れろ。わかったか?」
「え? あ……うん。……って、えぇ!?」
「なんだ」
「カシュールカが、手伝ってくれるの?」
ミイが目を丸くしている。
「仕方がないだろう。放っておいて、この家を吹っ飛ばされたんじゃたまったもんじゃないからな」
それに、こんなことに時間を使える機会は、これが最後になるかもしれない。
だから、一度くらい、ミイにつきあってやるのも悪くないかと、そう思ってしまったのだ。
「ほらほら、さっさと動け」
カシュールカはミイを急かしながら、調理台の上にある紙袋に手を伸ばした。




