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過去の出会いと、この先のこと

 ミイと出会ったのは二年前。


 その頃、ムウルは既にハーダッシュの元で盗賊業に従事していた。

 盗賊といっても、無差別に悪行を働くような悪質な盗賊団とは一線を隔している。


 ――と自分たちでは思っている。

 ハーダッシュ盗賊団はそういう盗賊団だ。


 狙うのは悪人、金持ち。

 義賊を気取るわけではないが、ハーダッシュには一般の人間に害をなすような行動を律する戒律がいくつも存在する。


 一方、ミイは独りだった。


 そう、あの日、たまたまムウルはミイの仕事現場に遭遇した。

 その時、ミイは情報屋をしていた。


 当時、ムウルと同じ十三歳。

 けれど小柄なミイは、まだ十歳だと言っても充分に通用する外見をしていた。


 そんな子供が情報屋をするなど無理だと、誰もがそう思うだろう。

 けれどもミイはその先入観を逆手に取り、持ち前の素早さで危険を潜り抜け、情報を切り売りしていた。


 その日、ムウルはある屋敷に忍び込むための下調べをしていた。

 裏路地に入り、逃走経路の確認をしている時に、もめている男女の声が聞こえてきたのだ。


 物陰からそっと覗くと、そこには小さな少女と、その少女の倍近い大きさの男が言い争っていた。


 顧客とのトラブル。

 よくあることだ。本当に、よくあることだ。


 客商売をする限り、避けては通れない。


 だから、相手が子供でなければ、ムウルだって手出しをしたりはしなかった。

 他人のトラブルに自ら進んで関われるほど、自分に余裕がないことは重々承知している。


 小さな子供相手に大層な剣幕で食ってかかる男が、あまりにも救いようのない奴に見えた。

 少女はうんざりした顔をして深く息を吐き、なにか言い置くと、その場から去ろうとした。


 そうして背を向けた少女の肩を、男がぐいと掴んだ。

 あまりにも細いその少女の肩が砕けるのではないかとムウルには思えた。


「待てよ」


 ムウルはそう声をかけていた。


 話し合いでは解決せず、結局はその男と乱闘になった。

 男を気絶させてから少女に微笑んで見せると、少女は笑ってこう言ったのだ。


「謝礼は出ないわよ」


 ※※※ 


「ムウル? どうしたの?」


 はっと我に返る。

 真正面には現在の……十五歳のミイの顔があった。


「え?ああ、ミイと出会った時のこと思い出してた。謝礼は出ないわよ、ってヤツ」

「ああ。だって、無料でなにかをしようってヤツがいるなんて思わないじゃない。頼んでもないのに勝手に介入してきて恩着せがましく謝礼を要求されるとばかり思ったんだもの」


 確かに、そういうヤツらが多いことは否めない。


「結局、あの後半年位してミイは町を出て行ったんだよな」

「うん。あたし、あんまり長く同じ場所に居るのって好きじゃないもん。顔見知りが多くなると、色々やりにくい」

「まあな。でも、俺があんなに引きとめたのに、お前、全然気にしてくれねえからかなりショックだったんだぜ」


 一目惚れだった。

 その後の半年でミイと親しくなるのに必死で、やっとミイが笑顔で話しかけてくれるようになったと思った矢先だったのだ。


「でもムウルたちだって同じ町に長期滞在しないでしょう」

「だから、俺はミイをあの町に引き止めたかったんじゃなくて、俺のところに引き止めたかったんだ」


「物好きは変わらないのね。あたしには、あなたの気持ちに応えるつもりなんて更々ないって知ってるくせに。あたしの周りをうろうろしてると、こうしてあたしに利用されるだけだって、わかってるくせに。それでもまだ懲りないのね」


「迷惑ってわけじゃないんだろ?」

「そりゃあね。あたしには得なことばかりだもの」

「じゃあ、いいさ」


 そう、いくら一緒に居たくても、常に一緒に居られるわけじゃない。

 同じ町で仕事をする機会などめったにないのだ。

 普段はそれぞれ別の場所で、別々の仕事をしているのだから。


 正面ではミイが呆れたように溜め息を吐いていた。     


「この街を発つ日が決まったら連絡して。この街での仕事が終わったあとの予定は、まだ決めてないの。ハーダッシュさんたちの旅に途中まで同行させてもらえると助かるわ。みんなによろしく伝えておいて」


 同じ街で仕事をしていたことがあるだけに、ハーダッシュはミイの情報屋としての腕を知ってる。

 そしてミイのそれ以外の能力についても買っているようだ。

 実はムウルがミイと出会う前から、互いに面識があったらしい。


「本当に!?」

「うん。ここでの仕事がちゃんと終わればね。もう一頑張りしなくちゃ。さ、行きましょう」


 ミイが立ち上がる。ムウルも慌ててそれに続く。


「送ってやるよ」

「ありがと」


 ミイが微笑む。

 もし、ミイも一緒に旅に出れたら、それはどれ程幸せだろう。

 ミイを怒らせることも多いだろうが、ミイの笑顔を見ることのできる回数だって増えるのだ。


 そんな幸せがあって、いいのだろうか。

 ムウルは顔が緩むのを抑えられずにいた。

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