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剥がれた化けの皮と、はだけた胸元

 あとちょっとで鼻先が触れる……。


 そのとき、カシュールカの動きが止まった。


「おまえ、ちょっとは抵抗しろよ」


 押し倒している張本人が抵抗を促すとはどういうことか。

 ふっとミイは笑った。


「こんなあたしでも襲いたいって言うんなら、どうぞ。そんなに相手に困ってるんなら、別にいいわよ。その代わり、あたしの問いに答えてもらうわ」


「なんだ、それ」


「ひ弱な女が抵抗したって、痛い目みるのがおちだもの。大人しくしろって言って、殴られるのよ。それって、ただ損するだけじゃない。同じ目に合うなら、できるだけ損害を少なく、それを有効に利用できれば儲け物ね」


「おまえ……」


 カシュールカは顔を背けて、ひとつ大きく息を吐いた。


 拘束されていたミイの両腕が自由になる。

 カシュールカはミイの上からおりると、ベッドの端に座った。


「やめたやめた。勝手に人の部屋に入り込んで泥棒みたいな真似してるからちょっとお仕置きしてやろうと思ったのに、ぜんっぜん堪えないとはな。やってられない。しかも態度も言葉遣いもいつもと全然違うときたもんだ。すごいネコっかぶりだ」


 ミイは肘をついて上半身を起こした。


 カシュールカはミイに背中を向けてわしわしと髪をかきむしってる。


 広い背中だ。

 いつもごろごろしているくせに、カシュールカの体は随分とかたくて重かった。

 ミイが潰れてしまいそうな程に。


 隠れて体を鍛えているのかもしれない、とそう思った。

 ミイの知らないカシュールカがいるということだ。

 そこにミイの知りたいことが潜んでいる可能性がある。


 しかし、ひとまず今夜の捜索はここまでだ。


「残念」


 ミイはベッドの上から床へと下りる。

 床がひんやりとしていて、裸足の足に気持ちが良い。


「なにが?」

「色々と。勝手に入ってしまってごめんなさい。おやすみなさい」


 ミイが自分の首筋に触れたのは、無意識だった。

 サクの魔術を見て以来、微かにうずくことがあるのだ。


 カシュールカはその動作を見逃さなかった。


「おい」


 声をかけるなり、立ち上がったカシュールカはミイが首筋に触れた手を掴んだ。


「あっ……」


 まずいと思った時には、カシュールカの腕はミイの腰に回されていた。

 逃げられない。カシュールカに触られた腰がぞくりとする。


 カシュールカはミイの首筋に顔を近づけた。


「これは……」


 首筋にカシュールカの視線を感じる。

 息がかかる。


 カシュールカはミイの襟の高い寝間着の、胸元をわずかばかりはだけさせる。

 カシュールカの動きが止まった。


 見られた。


 どう誤魔化そうかとミイが考えをめぐらす。


 トントン。


 ドアがノックされた。

 返事を待たず、ドアは開かれ、サクが姿を現した。


 ミイはカシュールカに腰を抱かれた格好のままだった。


「呆れた。君たちは一体なにをやってるわけ?」


 サクが目を丸くして腰に手を当てた。


「ミイが俺に夜這いをかけたのさ。応えてやるのが男ってもんだろ?」


 カシュールカが腕に力を込める。


「ま、僕は止めないけどね。最中にザックリやられるようなことがないように充分気をつけることだね」

「しないわよ、そんなこと!」


 ミイは強く否定した。

 少なくとも、今カシュールカを殺してしまうわけにはいかないのだ。


「あれ? 化けの皮が剥がれたの?」


 サクが小首を傾げた。


「化けの皮とは失礼ね。でも……バレちゃったならしょうがないわね。じゃ、また明日。おやすみなさい」


 ミイは力の緩まったカシュールカの腕の中からするりと脱出して、胸元を合わせる。

 この機を逃す手はない。


 サクに微笑を投げかけて、そのままカシュールカの部屋を後にする。

 普段あまり動じないミイにしてはめずらしく、心臓がばくばくと大きく鳴っていた。

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