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届かなかったのかもしれないし、無視されたのかもしれない、わたしの声

 大声を上げたら誰かが助けてくれるだろうか。

 しかし、助けが来るまでに殺されたら話にならない。


 ともかく、相手の正体や目的がわからないと、こちらがどう対応するのが得策かの判断ができない。


 ……襲われる理由に関しては、身に覚えがありすぎる。


「あの、どういうこと? あたしになにか用?」


 前後の影は先日、ムウルと一緒の時に襲ってきた連中とは別のようだ。

 前に二人、後ろに二人。

 それぞれ男同士のペアだ。


 一見したところではその手に武器は持っていない。

 ということは、ミイを問答無用で殺すことが目的ではないようだ。

 身なりは意外ときちんとしているので、大きな組織に属する連中なのかもしれない。


 もちろんその組織が真っ当な組織ではないだろうことは男たちの人相から知れる。

 厄介極まりない相手だ。


 前から歩いてきた男の手がミイの左肩にのびる。

 その手の触れる瞬間を想像して、ミイはゾクッと身震いした。


 と、その時、男のわき腹あたりから、今となっては果てしなく遠く感じられる大通りを歩く人の横顔が目に入った。


 こんな裏道には目もくれず、酒瓶を両腕に抱えて歩くあの横顔は……。


「サクーッ」


 ミイは大声を上げていた。

 男たちが慌ててミイの口を塞ごうとする。

 ミイはそれに抵抗して暴れる。


 持っていた紙袋が地面に落ちた。

 ――ああ、もったいない。

 しかし、今はそんなことにかまっている場合ではない。


「サクーッ」


 二度目にしてやっと、サクがちらりとこちらに目を向けた。

 目が合った。


 気づいてくれた!


 しかし、サクは無表情のままふいと視線をそらせると、そのまま歩き去ってしまった。

 その姿は壁へと隠れて見えなくなってしまう。


 そんな馬鹿な……。


 誰なのかわからなかったのだろうか。

 確かにこの裏道は薄暗くて、大通りからは様子が伺いにくい。

 でも、確かに目が合ったはずなのに……。


 大きく、汗ばんだ手のひらに口を覆われる。


「ふぬーっ! ふーっ! うぅーっ!」


 ミイの叫びは、誰にも届かない。

 突然、みぞおちに重い衝撃を受けた。

 あまりの痛さに気が遠くなる。


 殺されないだけ、ましか……。


 ミイはそのまま意識を手放そうとした。

 その時。


「ミイーッ!てめーらっ、ミイになにしやがったっ!」


 自分の名を呼ぶ声に、ミイははっと顔を上げた。

 遠のきかけていた意識を手繰り寄せる。


 投げ込まれたのは聞き慣れた声。

 駆けてくるその影は、見慣れた影。


「ムウル……」


 乱入者に気を取られたのか、ミイの口を塞いでいた手のひらが離れていた。

 男は慌ててミイを肩に担ぎ上げ、後方へ逃走を図る。


「待ちやがれーっ」


 ドス、バキッと鈍い音が響いている。

 仲間を見捨ててミイを担いだ男は走り出す。

 それ以外の男はムウルと乱闘を繰り広げているに違いない。


 なんとか気を失わずに済んだが、みぞおちに激痛がはしる。

 まだ体を思うように動かすことができない。


 ミイには痛みに耐えながらもぞもぞと体を動かすのが精一杯だった。

 そんなことをしても効果がないことはわかっている。


 背後からはムウルがなにやら叫んでいるのが聞こえるが、男三人を相手になかなか追って来られないのだろう。

 なんとか時間稼ぎができれば……。


 そう考えているあいだに、男はわき道へと駆け込んだ。


 ドンッという衝撃。

 男が角を曲がった瞬間に何かにぶつかったのだ。

 ミイは男と共に後ろへと吹っ飛んだ。


 そしてガラガラと崩れ落ちる木箱の山。

 わき道を塞ぐようにして木箱が積まれていたようだ。


「そんなバカな……。ついさっきまでは……」


 男が呻く。


「あいたたたた……」


 頭から一回転して尻を地面にしたたかにぶつけたミイは片手で殴られた腹を、もう片方の手で尻をさすった。


「ミイ、大丈夫か?」


 すぐそこから声が聞こえた。ミイが顔を上げると、追いついてきたムウルが立っていた。


「うん、なんとか」

「よしっ。しばらくそこで待ってろ」


 ミイにそう言い置き、男と向かいあったムウルは手の関節をぽきぽきと鳴らした。

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