平穏な日々と僅かな酒
ミイにはまた平穏な日々が戻ってきた。
掃除、炊事、洗濯。この三つがミイの仕事だ。
――炊事に関しては、ご主人様と少し考えが食い違ってしまっているけれど。
いつの間にか用意されていたメイド用の服を着込んだミイは、洗濯物を干しながら大きなあくびをした。
家事は大嫌いだけれど、これほど他にすることがないとなると、やってもいいような気がしてくるから不思議だ。
いや、本当は、やらなければならないことは他にあるのだけれど、カシュールカとサクが家を留守にすることがほとんどないために、捜索が難航している。
故に仕方なく、家事のスキルアップに励んでいるわけだ。
家中をさっさと漁ることができれば、今頃は既にこの街にはいないかもしれない。
もしくは、この家を出て別の場所にもぐりこんでいたのではないかと思う。
あくびに続いて、ミイはひとつ深い溜め息を吐いた。
洗濯物を全て干し終わり、一階に下りるとそこにはいつもの光景。
長椅子の上に転がっているカシュールカと、自分の席に座って酒をあおるサク。
「お昼ご飯は、なにが食べたいですか?」
なんでもいいという答えが返ってくるだろう事はこの一ヶ月で学んだのだが、それでもついつい聞いてしまう。
「なんでもいいよ」
そして予想通りのサクの返事。
「カシュールカさんは?」
「なんでもいいが、おまえは作るな。外でなにか買って来い」
「ええぇ」
ミイが納得しかねるという気持ちをたっぷりこめた声を上げると、カシュールカが片眉を上げた。
「おれはおまえの主人だ。主人の言うことには従えるな?」
それが働くということだし、仕えるということだ。
「……はい」
ミイには、うなずくという選択肢しかない。
「わかればいい」
「それでは、適当に何か買ってきますね」
カシュールカが差し出した硬貨を受け取る。
「あ」
そのとき、サクが声を上げた。
「え?」
「ああ?」
ミイとカシュールカはそろってサクを見る。
サクは中身が底から数センチほどしか残っていない酒瓶を軽く持ち上げていた。
「これで酒が最後だった……」
サクが無念そうに残り僅かな酒を眺めている。
カシュールカは軽く息を吐いて、目を閉じた。
「おまえら、一緒に買い出しに行って来たら?」
目を閉じたまま、とっとと行って来い、という風にカシュールカが手をぷらぷらと振った。