指輪の在り処
ミイの話を聞いて、マリアールは明らかに動揺していた。
「……というわけなのですが、ノーモルの言っている指輪に心当たりはありますか?」
ミイは一息に説明を終えると、そう訊ねた。
「いえ……あの……」
マリアールは落ち着きなく視線をきょろきょろとさせて口ごもる。
「心当たりが?」
ミイの隣に腰掛けていたムウルが重ねて問う。
ミイが視線でムウルに黙るようにと合図した。
急かすと、つい焦って嘘をつくかもしれない。
人は一度嘘をつくと、なかなか真実を言えなくなってしまう。
その嘘を突き崩していくやり方もあるが、今回はその必要はないだろう。
マリアールの様子から、心当たりがあることは間違いない。
それを本人の口から聞けるかどうかで、今後の仕事がスムーズに進むか否かが決まる。
ミイはゆっくりと目の前のティーカップに手をのばした。
一口飲み、閉じていた目を開けると、マリアールと目が合った。
「あの……。わたくし、そのようなものは存じませんわ」
ミイはふっと小さく息を吐いた。
「そうですか。わかりました。では、強制的にあの男を排除するしかないようですね」
ゆっくりとカップをソーサーに置き、ミイは静かに告げる。
「排除、ですか?」
「はい」
「それは……、あの、それは、身に危険が及ぶとか、そういうことはございませんの?」
「それは、マリアール様にも何らかの被害が出るかという質問ですか?」
「いえ、そのノーモルとかいう男自身のことです」
「……手段はこちらに一任下さい。ですが、例え彼に何が起ころうとも、特に問題はないのでは?」
「それはそうですが……」
「もう一度、あの男を問い詰めてみましょう。それでもまだ指輪がどうしたこうしたという嘘をつくようであれば致し方ありません、いささか手荒な真似をする必要も出てくるかもしれないですね。ああ、マリアール様は、どうぞご安心なさってください。あの男にはもう二度とマリアール様の周辺をうろうろさせたりしませんから」
ミイは極上の笑みを浮かべて、マリアールの目を見ると強くうなずいた。
マリアールの目に困惑の色が浮かぶ。
あと一押し必要だろうか? と考えながらも、ミイは腰を上げた。
「では、失礼いたします。今度こちらに伺う時には、よい結果をお知らせできると思います。ね、ムウル」
「え? あ、ええ。もちろんです。ご安心ください、マリアール様」
部屋の中の調度品を観察していたムウルは名を呼ばれたことに気づくと慌てて立ち上がり、ミイに同意した。
「それでは」
一礼してドアへと向かう。
ミイはわざとゆっくりと歩き、ドアの取っ手に手をかけた。
「お、お待ちください!」
ドアを開けて廊下へ踏み出したその瞬間だった。
マリアールがミイを呼び止めた。
「どうなさいました?」
「あの……。もう忘れろと、他言無用と言われておりました。ですが……ですが、全て話します。どうか、聞いてください。指輪もお渡しいたします」
ミイは心の中でよしっ! と叫んだ。
こんなに簡単にことが運んでもよいのだろうか。
「指輪をお持ちなのですか?」
マリアールが首肯する。
「わかりました。お話をお聞きいたしましょう。いいわよね、ムウル」
「もちろんです」
ムウルは深くうなずいて言った。