目撃されるメイド
「ねえ、あれ、ミイじゃない?」
カシュールカと並んで歩いていたサクが、ふいに足を止めた。
サクの手には数本の酒。
大量に酒を買い込んだのだが、残りの酒は後で家まで運んでもらえるよう手配済みだ。
カシュールカがサクの示す方に目をやる。
大通りを挟んだちょうど反対側。
そこには確かにミイの姿があった。
あごで切りそろえられた濃いブロンドの髪が一歩進むごとにリズムよく揺れている。
ミイの青い瞳は、隣を歩く小柄な少年に向けられている。
「ああ、そうだな」
随分と親しそうに見える。
「一緒にいる男の子に見覚えはある?」
「ない」
サクの問いにカシュールカは即答した。
おそらく、この町の人間ではないのだろう。
「僕も見たことないな」
「そりゃあ、おまえはほとんど家から出ないんだから、知ってる顔の方が少ないだろ?」
「君も、人のことは言えないと思うけどね」
サクがさらりと切り返す。
用がなければほとんど外出しないのだから、どちらもどちらだということはカシュールカだって自覚している。
「ま、そうだな」
最後にもう一度だけミイに視線を向け、カシュールカは歩き出す。
その半歩後ろにサクが続く。
「いつまでミイをうちに置いておくつもり? もう一ヶ月経つけど……」
「あいつが出て行くって言い出すまでだろ。俺は特に不都合なこともないし。おまえだって、大分ミイにも慣れただろ」
「まあ、そりゃあ一ヶ月も同じ家の中で暮らしていればね」
積極的に声をかけるまでには至らずとも、声をかけられれば返事をできる程度にはミイの存在にも慣れてきてはいる。
「ま、ミイの目的が達成されるか、達成できないとわかれば出て行くだろ」
「それはそうだろうけどね。でも、なんだか頼まれたって言ってなかったっけ? あの男の子が関係してるんだろうけど……面倒なことにならなければいいね」
「俺たちは関与しないって前もって言ってあるんだ。自力でなんとかするさ」
サクはちらりと背後を振り返ったが、既にミイの姿は先ほどの場所から消えていた。
「大丈夫かな?」
「もしミイが失敗したところで、特に問題はないさ。気にかけるほどのことじゃない」
カシュールカはそう言ったきり、口を閉じた。