あっけなく明らかになる動機
「悪かったな。で? 調査の成果は?」
仕事中のムウルが両手に荷物を抱え、ミイの横を歩きながら問う。
ムウルが抱えている荷物はもちろん果物で、配達の途中なのだ。
今日は仕事を抜け出せなかったムウルの代わりにミイがひとりで調査を行った。
もちろん、報酬のわけまえをきちんともらうつもりだ。
「ばっちりよ。というか、いともあっさりと判明しちゃった……」
「そりゃあすげえ。助かるぜ」
そう、不審者の正体はさして労せず明らかになった。
聞き込み調査を行うまでもなく、ミイが不審者本人に遭遇してしまったのだ。
犯人はノーモル・ハイウォンといういかにも人の良さそうな人物だった。
そのノーモンはかつてマリアールとは秘められた恋愛関係にあったらしい。
しかし相手は豪族の一人娘。庶民であるノーモンとの身分の差は歴然。
必然、その恋は成就しないことになる。
さて、その元恋人が何故不審者などをしているのか。
まだ未練があるのかと思えば、そうではないのだという。
ではますます理由がわからない。
そうミイが告げると、ノーモルはいともあっさりと理由を答えた。
曰く、ノーモルの母の形見である指輪を返してもらいたいのだ、と。
恋人同士であった時にマリアールに渡した指輪は、この世にひとつしかない大事な指輪。
将来、ノーモルのもとに嫁いでくれる女性に渡したいのだが、マリアールは一向に話を聞いてはくれず、ノーモルは往生していたらしい。
良い策も浮かばず、マキュベスト邸の周辺をただうろうろとしていたと言うのだ。
「へえ。じゃあ、やっぱり指輪はマキュベスト家にあるんじゃねえか……」
ムウルがぶつぶつとなにやら呟いている。
ミイはそれを無視して続けた。
「それで、そのノーモルは指輪さえ返してもらえれば今後一切マリアールの周辺をうろつかないと約束したわけよ。いい? 指輪はノーモルに返すのよ」
「え、返すのかよ!?」
ムウルが目を剥く。
「指輪がムウルたちの求めているものだったとしたら、それはマリアールの元から盗るんじゃなく、ノーモルの手元に戻ってからにするのよ。そうすれば依頼をめでたく完遂することができるでしょう。報酬ももらえて、指輪もゲットできて一石二鳥じゃない」
「え? あ、ああ。そういうことか。そりゃあ、そうするつもりではいるさ。でもその前に実物を見ないとなんとも言えねえよな。ミイも、その指輪を見たわけじゃないんだろ」
「そりゃあそうよ。万が一、見ることができたとしても、あたしじゃあ本物か贋作かの見極めができないもの」
宝石の鑑定はムウルの本職だ。
ミイは美術品の類とは縁が薄く、知識もほとんどない。
「だよな。でもま、これでターゲットがはっきりしたんだ。明日にでもまたマキュベスト邸に行かねえとな」
「そうね。とっとと終わらせちゃいましょう」
「それが本物だったら、本職の方も楽に片付くってもんだ。指輪の鑑定ならオレに任せろ」
ムウルたちが探しているのはエメラルドの指輪。
およそ百年の昔に、大陸随一の腕をもつと謳われた伝説の職人・ガトゥーシャの失敗作。
失敗作であるから、かのガトゥーシャの作品とはいえ値打ちはそれほどない。
しかし、その失敗作が欲しいというコレクターもいるのだ。
「ノーモルは本物だと思ってるみたいだったけどね。嘘をついている様には見えなかったけど」
「ま、贋作掴まされた人間だって、それを本物と信じて疑っちゃいねえわけだからな。本人の証言なんてあてにならねえ。信じられるのはオレのこの目だけだ」
ムウルは果物の入った籠を抱えたまま胸を張った。