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「ここはセオリー通りに馬車がよろしいかしら?」
質問形式のハズなのに、「かしら?」を聞きながら強制的にどてかい門の前まで飛ばされていた。
男爵家の門と思われる所で呆然としていた私の前に小さな紙切れがヒラヒラ舞いながら落ちてきた。
なんとなく拾い上げたソレには、
・拾われてからここまできた経緯についてお前は何も言うな
・美少女が話した事を誰かに話したらどうなるか分かってるな?
・私に起こっている現象を誰にも話すな
まぁ、一言で言えばお前は余計な事は一言も発するな、という事のようだった。
ちなみに、この紙切れを誰かに見せても誰も読めないぞ。
というご丁寧な説明まで書いてあった。
今だ反応に困っていた私はとりあえずキョロキョロと辺りを見回してみた。
そこへ、ガラガラと門の内側から音がした。
「アンタが光の令嬢から言われた嬢ちゃんかね?」
この家の使用人だというおじいさんが、屋敷専用の小さな馬車で門まで迎えに来てくれていた。
ワシの事は使用人と呼んでくれ。と言ったおじいさんはその小さな馬車に私を乗せて屋敷へ誘う。
お名前はないんですか?と問うと、余計な事は言うなと言われているんでな、と眉尻を下げて話してくれた。
んー、この屋敷の住人のみなさんもあの美少女の息がかかってるみたいだなぁ。
あの誰もいない原っぱみたいな場所で気づいてからそう時間が経っていないだろう事には想像に難くないが、最大限の警戒心を発動させた。
まずは屋敷の外観からだだっ広い庭と思われる場所をキョロキョロする。
屋敷はでかい。
庭は広い。
だからどうした。
使用人のおじいさんを観察する
真っ白な髪と立派なあご髭、目は優しそうに前を見つめている。
馬車を操ってるんだから当たり前だ。
空を見上げる。
ああ、澄み切り青く晴れ渡っている。
布団干したら気持ちいいだろうなぁ。
いや、違うから。
脳内で1人会話していると玄関に着いたようで使用人のおじいさんに馬車から降ろしてもらった。
そしてその手は温かかった。
その時タイミングを見計らったように、
「ようこそ我が家へ、お客人。」
深みのある落ち着いた声が聞こえた。
ただ、顔は俯き加減で上目遣いのその目からは想像もできなかったけど。
「そう警戒しなくて大丈夫だと思いますわよ、お父様。それともお父様はあのオンナに屈してしまわれるのかしら?」
これまた美少女が後ろからやって来た。
凛とした中にも儚げな雰囲気のその美少女、過度な装飾を一切省いたそのドレスは美少女を引き立てるためにあるようだった。
私の事はとりあえず美少女とお呼びくださいな。と言いながら手を差し伸べてくる。
思わず手に取ってしまったけど、自分で言うんだ、美少女って。と脳内でツッコミ入れていたのは秘密だ。