8.休息
「あぁ! また負けた!」
ステラがカードを撒いて、頭を抱えた。
ステラと秘密を共有してから、もうすでに一週間の月日が流れていた。
その間、ステラはいろいろ呼び出されていたが、俺はというと、刻印を持たないので機密性の高い会議には参加することができず、ただの付き人状態だ。
地味な活動は性に合わないが、ここは我慢。雑魚には我慢が必要だ。
俺が西女神領からの信用を得られなければ、ペネロペをぶっ殺すことも、東の女神をぶっ殺すこともままならない。
「あー、タクティクスでも勝てなくなってしまったかぁ」
ステラがばら撒いたカードを集めて、シャッフルしている。
ちなみに今何をしているかというと、ステラの家で遊んでいるだけだ。
俺の監視が最重要任務らしく、その他の仕事の量は減らされていて、こうして暇な時間に遊んでいる。
「てめぇもルール知ってるだけでほとんど初心者だったじゃねぇか。戦略系のゲームで俺に勝ち越そうなんざ、100年早ぇ」
特にやることが無く、ステラの家で待機することが多いが、ステラの家には遊べるものが大量にあって退屈することはなかった。
どうも、友達に憧れていたのは本当らしく、二人以上で遊べそうなものを50年かけてコツコツと集めていたらしい。
古びた新品だらけのおもちゃ箱を見た時は、正直笑いそうになったぞ。
「おっと、ちなみに100年早ぇってのは、慣用句として使ってるだけで、実際の年齢を――」
「はいはい、どうせ私はババアだよ」
俺が、年齢のことに触れると不機嫌そうに遮った。この一週間で少々いじりすぎたか。
ステラは散らばったカードを集めるとそのままシャッフルし、山札を配り始める。
今、俺たちがやってるゲームはタクティクスっつー、トランプとチェスを組み合わせたようなゲーム。
駒は全部カード、初期状態でボードに配置されているのはキングだけで、その他の駒は自分のターンを消費して手札から出していく。
相手の駒をとると、山札からさらに1枚カードを引いて手持ちを補給することができ、とられた駒を取り返せなかったら一気に差が開く。
これがなかなか面白く、ボードゲームに運要素が絡んで、多少実力差があってもお互い楽しめるようになっている。
ちなみに、昨日から一日中やってるが現在13勝4敗。4連勝中。沢山勝てて、気分が良い。
「さあ、もう一戦だ」
一緒に生活しててわかったが、ステラは相当な負けず嫌い。
負ければ負けるほど勝負を挑んできて、負けが込みすぎるとふて寝する。
負けが込んでるときに勝つと、大層喜んでくれて見てるこっちまで嬉しくなるが、あいにくその嬉しさよりも負けた悔しさが勝るので、わざと負けたりはしない。
「そういやよ、不思議だよな」
ゲームが中盤に差し掛かり、待ってる時間暇なので適当に話しかけてみる。
「何がだ」
ステラが自身の手札とにらめっこしている。
そんなに睨み付けても、良い手札には変わらないぞ。
「ほら、例えばトランプとかチェスは超常界にあるし、中央界にも霊獣界にもあるんだろ?」
長考しそうなので、手札を浮かせて背もたれにもたれかかる。
「それがどうした?」
「いやだからよ、超常界から中央界へは召喚で輸入できるのはわかるけどよ。超常界と霊獣界は女神の能力で繋がってねぇだろ? なんで同じもんがあんのかなぁ、と」
「さあな、もしかすると私たちが知らないだけで超常界と霊獣界にも繋がりがあるのかもしれんな」
ステラはカードとにらめっこして目を離さない。
相当負けたくないらしい。
「つーかさ、女神の刻印って“四神”だろ? ほら、龍鳥虎亀の神話。
この世界の在り方の根幹に係わってるもんが、俺の世界にも神話としてあるってのもおかしくねぇか?」
「確かに、不思議には思うが、それを推理するには情報が足りなさすぎないか?」
ステラの反応がちょっとだけそっけない。
『次の手を考えているんだ、集中させてくれ』と言わんばかりだ。
「つーか、霊獣界にも四神とかあったかのよ?」
だが、俺はそんなこと気にせず話を続ける。
「ああ、あったぞ。というより私が本当の名を名乗ったときのことを忘れたのか?」
「本当の名? えーっと確か……」
霊獣界フェルガウを治めていた五人の霊獣の一人、青龍。本当の名は――エルフリーデだ
青龍? つーことは何だ?
「お前、もしかして四神?」
「そうだ、四神そのものだ。霊獣界は青龍である私を含めた、白虎・朱雀・玄武・麒麟の五人で治めていた世界だ」
つまり、向こうの世界での女神ポジション
「あー……、お前ってすごかったんだな」
「だから言っただろう、生まれながら偉かったと」
もともと霊獣界のナンバー1で、今はこの領のナンバー2。
出世の鬼だな、こいつ。
「……そこだ!」
長考に長考を重ねたステラが気合を入れて札を出す。
気合を入れても駒の強さは変わらねぇぞ。
「はい、オープン。ドラゴン」
「な!? 初手からドラゴンを伏せていたのか!? さっきオープンしなかったから、てっきり大型の駒ではないと……」
ちなみに駒は、特定の条件を満たすと伏せて場に出すことができる。
次に動くまで表にする必要がないので、動く・動かないでどの駒かを予想する駆け引きが発生する。
「ま、切り札は隠したもん勝ちだからな。はい、詰み」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛、また負けたぁー!!」
ステラが頭を抱えて立ち上がった。
「あ? どうしたよ?」
このままふて寝するパターンか?
「そういえば、フランが注文していたものが届いていた。渡す!」
ステラが涙目で言った。見た目もあいあまって、年上って感じがしねぇな。
ステラは家の奥へ行くと、いくつかの道具を取り出してきて、机の上に並べた。
「ほら、これでいいか?」
丈夫な刃物、投擲用のナイフ、灰、ペンチ。
全て俺が指定した通りのものだ。
「おう、俺のイメージを正確に汲み取ってくれていたみたいで、安心したぞ」
一つ一つ、品物を手に触れて確認していく。
まずは重くて丈夫な刃物。
片面だけに刃がついている大型の刃物で、重量は2kg以上ありそうだな。
刀、というよりは鉈を延長したものと言ったほうが、イメージしやすいだろう。
「それは、大型の霊獣能力者が、力で無理やり断ち切る用の武器だ。フランの体格だと少々扱いづらいと思うが、大丈夫か?」
「問題ねぇよ。俺の能力忘れたのか」
『念動落下』で、太刀を浮かして見せた。
「ああ、なるほど」
「ま、重さゼロだと力入れにくいから手元に200g位は残すけどな。で、攻撃するときは手で勢いをつけてあとは進行方向へ加速。そうすりゃ、ここのパワータイプにも引けをとらない威力になるだろうよ」
「なるほどな。だが、戦闘中はそれでいいとして移動中も常に超常能力を維持するのか? 精神的に疲弊してしまいそうだが」
「複雑な操作をするならともかく、重力を相殺し続ける程度じゃ疲れねぇよ」
俺は幼少のころから能力を使い続けているおかげで、脳が能力に適応して、そのくらいのことならほとんど意識しなくてもできる。
刀を置いて、次は投擲用のナイフを手に持つ。
「これが投げナイフか、実物見んのは初めてだが、ま、扱えるだろ」
弱体化した『念動落下』と投擲物が相性いいのは、熊男との対決で実証済み。
また、本来なら相当な訓練が必要なのだろうが、俺は投げてから軌道修正ができるのでその必要もあまりないだろう。
「訓練したいのなら、訓練施設くらいは用意できるぞ?」
「そうだな、まあ時間が空いた時に頼むわ」
とはいっても、最低限の練習はしておいたほうがいいか。
次は、灰を手に取る。
「おー、粒子が一定で細かい。指定通りの良い灰だな」
袋を開けて指でなぞる。
「うむ、言われた通りに用意したが、それは何に使うんだ?」
「あー、まあ、見てろよ」
『念動落下』で灰を宙に浮かせて、天井付近で拡散、また集めて袋の中に収めた。
「ん? だからどうだというんだ?」
能力持ってないやつには、この意味がわかりずらいか。
「能力にはな“発動感覚”ってのがあって、能力者は能力が今どんな風に発動してるかがわかんだよ。
例えば俺の能力なら、“どこにある”“どんな形のものに”“能力によってどれだけの力が加わっているか”がわかるわけだ。
この発動感覚のおかげで、能力を適応している物体を見失っても、能力が維持できる。
で、灰の話だが、俺が灰の粒子を一つ一つ操作して飛ばせば、灰の移動を妨げられる発動感覚で、目に見えない位置にあるものも把握することができるっつーわけだ」
「なるほど、それで危険を冒さず探索できるというわけか」
「そうだ、弱体化前の『念動落下』なら周りの物砕いて作ればよかったんだけどな。今はそうはいかねぇ。
だから、操作用に軽くて細かい灰を持ち歩くってわけだ」
「なるほど、理解した。ところで、そのペンチは何に使うんだ?」
「ああ、これか? これはしばらく使う予定はねぇよ。いざ欲しいときになかったら困るから、今貰っとくだけだ」
「ん? どういうことだ?」
「内緒っつーことだ。心配すんなよ、別にステラの不利になるようなことには使わねぇよ」
「そうか。言いたくないなら深くは聞くまい」
ステラが、納得したようなしていないような、微妙なトーンで答えた。
「さてと」
一通り品物の確認を済ませると、ステラは再び椅子へと座った。
そのまま山札を手に取り切り始める。
おい、まさか。
「さて、一息ついたところっでもう一戦だ」
ほんとに負けず嫌いなんだな。




