X.一方:湖のほとり
西の女神領の首都、ハンプールの北のはずれにある湖。
そのほとりに、二人の人影が立っていた。
一人は全身焦げ茶色の毛でおおわれ、大きな体は人間のものからは遠く、2足歩行で歩いてはいるものの、姿勢はかなり前かがみで、狼のような顔立ちをしている。
もう一人は、背丈140cm程度の比較的小さな体躯の男で、肩から先は羽に覆われており、足も鳥の鉤爪のような形をしている。
顔立ちは背丈の通り幼いが、その表情は非常に落ち着いており、立ち姿も子供のそれと言うには大人びていた。
「チのニオいがする。アーノルドのニオいもトギれてる、おそらくここでアーノルドはコロされた」
狼男が地面を嗅ぎながら、鳥男へと報告をする。
声帯が発音に向いていないのか、その声は掠れていて、聞き取りづらい。
「他に人間の臭いはするか?」
鳥男が姿に似合わない低く落ち着いた声で、狼男に尋ねると、狼男はさらに注意深く周囲の臭いを嗅いだ。
「アーノルドのホカに、フタリのニオいがする。ヒトリはオトコ、カいだことがナいニオいだ。チのニオいがマじっているからオトコもおそらくケガをしている。もうヒトリのニオいは……」
そこまで言って、狼男の口が止まった。
「……どうした?」
「もうヒトリのニオいは、ステラサマのニオい」
その報告を聞いて、鳥男の表情が怪訝なものへとかわる。
「アーノルドが死ぬ前に、ステラ様がこの辺りを通っていたということか?」
「そうかもシれない。だけどオカしい。ステラサマともうヒトリのオトコのニオいは、イッショになってマチへむかっている」
「ステラ様と男が一緒に……?」
鳥男の頭の中には、ステラと行動を共にしていた超常界から来た男の事が過っていた。
「超常界の男が、アーノルドを殺した後、そのことを隠して、ステラ様に拾われたということか……?」
「どウする?」
「アーノルドの死体は、湖の中か?」
「たぶんそう。ここでニオいはトギれてる」
「そうか」
鳥男は思案するような姿勢をとる。
「オトコのこと、オってみるか? イマならたぶん、オえるとオモう」
「……いや、わざわざ追う必要はない。だが、その臭いはしっかり覚えておけ。いったん帰って、ヴィヴィア様の指示を仰ぐ」
「わカった」
「あと、この事は他言するな。ただでさえ西南戦線のことで緊迫している状況だ、不要な混乱を招きたくない」
「……わカった」
鳥男と狼男は、湖のほとりを立ち去った。




