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7.ステラの正体

「さてと、時期を見て私から切り出すつもりだったんだがな。どうしてわかった?」


 ステラの家に戻ると、そう話を持ち出した。

 やはり、虎の刻印者ではなかったのか。


「根拠はいくつかあるけどよ、刻印した時点で命令って形でいくつもの制約を強いられるんだろ?

 そん中には、『味方を攻撃するな』とか、『国営関連で嘘つくな』とか、『軍の不利益になることをするな』とか、『重要な情報を意図なく味方に隠すな』とか、まあその辺が絶対あるはずだ」

「ふむ、それで?」


「それでもなにも、てめぇはそれに抵触しすぎだ。

 ペネロペのニュアンスだと、“刻印されたら絶対逆らえない”って感じだったぞ。

 逆に、逆らえているなら刻印されてない。そういうことだ」


「私は、そこまであからさまな行動をとっていたか?」

「馬鹿かよ、決定的なやつでいけば、俺がアーノルドを殺したことの隠滅。

 女神から俺への信頼を落とさないようにやったことだろうけどよ、マジで綱渡りだぞ。あれ」

「うっ」


 ステラとしては“刻印されていない能力者”である俺を、なんとしても手元に置いておきたかったのだろう。

 俺が、アーノルドの殺人容疑で捕まっていたら、今みたいにはいかないからな。


「あと、俺の能力を聞いてこないのもおかしい。

 最初は“聞いても嘘をつく可能性があるし無駄”って思ってるのかと解釈してたが、そうじゃねぇよな。

 俺と熊男の戦い最初から最後まで見てたんだろ? 俺が大声で解説してたのも聞いてたんだろ?

 虎の刻印者なら加勢しないわけがない。

 本気で非虎の刻印者であることを隠すなら、知らないふりして能力を聞いとくべきだ」

「そ、そうだな。うかつだった」


 ステラがどんどん小さくなっていくように見える。


「『対等に話せる者がいなかった』って発言も違和感がある。

 いくら地位が高かろうと、ガキの頃なら遊び相手くらい用意されただろうし、同僚だっているはずだ。

 てめぇから見たらここは敵地で、周りが敵だらけだから、てめぇは表面上でしか人と付き合うことができなかったんだろ?

 使用人がいねぇのも、そのせいだ。」

「さ、さすがだ」


「あとついでに言うと、『刻印を受けるか受けないか自分で選べ』ってのもおかしな話だ。

 ペネロペの部下としては、刻印を受けさせるように説得するくらいだろ普通。

 俺に刻印者になってほしくなかったから、そんな中途半端な言い方になったんだろ?」

「そ、その通りだ」


 ステラはどんどんと押し込まれ、もうねずみ位まで小さくなってしまった。あくまで印象だが。


「あー、もう。全くマジで。

 ……ありがとな」


「え?」


 ステラが、驚いたように顔を上げた。


「俺がアーノルドを殺したとき、危険を冒してまで庇ってくれなきゃ、俺はきっとぶっ殺されてたか、良くて独房行き。

 独房から出るには、刻印者になることを条件にされたはずだ。

 ペネロペの性格上、仲間を手にかけた奴は絶対に許さないだろうしな。

 刻印者となった俺は、戦闘人形として生涯を終えてただろうよ」


 俺にとって、ステラに会えたことは幸運以外のなにものでもない。


「そうか。……礼にはおよばんさ。私は、私の目的のために、フランを助けたのだから」


 ステラは少しだけ安堵したように笑った。


「で、そこなんだがよ。お前は結局“なに”なんだ?

 その刻印が偽物ってわけでもねぇんだろ? 刻印を受けて抗う術でもあんのか?」


 ペネロペの話だと、女神は刻印者の場所がわかるらしい。

 それはつまり、自分の刻印者かどうかの判別がつくという意味だ。

 偽物の入れ墨を掘ったって意味がない。つーか、見た目がまるっきり獣人だし。


「そうだな、それを明かす前に、一つだけ確認させてくれ。

 フランのこの世界における目的はなんだ? 安全に暮らすことか? 東の女神に復讐することか? 私がそれに協力すると言ったら、私の目的に協力してくれるか?」


 なるほどな、だったら返答は決まりだ。


「俺の目的は東のクソ女神をこの手でぶっ殺すことだよ。協力してくれるっつーなら、俺は何でもするぞ」


 俺はニヤリと笑った。

 もちろん、単純にペネロペに加担するだけでも東の女神を殺せる可能性はあるが、単純に東の女神を殺すだけでなく、俺は俺自身の手で東の女神を殺したい。

 そのためには、ステラと協力するのが得策だと思えた。


「そうか……。はぁぁぁ、よかったぁ」


 それを聞くと、ステラはさらに安堵したようにため息をつく。

 ステラにとって、ペネロペ側の人間に自身の正体がバレることは、死を意味するから当然か。


「で、てめぇの正体は何なんだよ?」

「私の正体は……」


 ステラは少しためて。



「霊獣界フェルガウを治めていた5人の霊獣の一人、青龍。本当の名は――エルフリーデだ」



「は?」


 他国からのスパイとかだと思っていたので、予想を遥か斜め上に行く回答だった。


「それってつまり、どういう意味だ?」

「そのままの意味だ。私はウェルガウにいた幻獣の一人で、先々代の西の女神に召喚され、この“ステラ”へと譲渡された。

 だが、私は普通の霊獣より遥かに強い力を持っていてな。逆に“ステラ”を乗っ取ったんだ」


「あー? つまり、命令を受けているのは“ステラ”だから、“エルフリーデ”であるお前は命令に逆らうことができるってわけか?」

「そうだ」


 そうだって、平然と言いやがる。

 いや、俺の能力が残っていたみたいに、強力すぎる力を持っていたら、ある程度女神の能力に逆らえるのか?


「まあ、一応は納得した。それで、お前の目的は西の女神に復讐することか?」


 そう問いかけると、ステラは少し考えるようなしぐさをして、すぐに語りだした。


「……私は、私を故郷から連れ去った先々代の西の女神が憎い。

 だが、先々代の西の女神は私が殺すチャンスもなく、先代へと女神能力を継承し、死んでしまった。

 だから、私の復讐はもう達成できない。

 だが、これ以上私の同胞が、こちらの世界に召喚され、蹂躙されていくのも見たくない。

 こっちの世界に来てしまった、私が止めねばならぬのだ。

 だから貴様の言う通り、私の目的……いや、使命は、西の女神――ペネロペ様を殺すことだ」


 殺す相手に様付けとか、律儀だな。


「目的はわかった、西の女神と東の女神の抹殺。シンプルでわかりやすいじゃねぇか。

 ま、これからは上司と部下、唯一の友達を越えて、バレたら即死級の秘密を共有する仲間同士だ。

 こっからは2人だけで、二つの国を相手にするんだ。よろしく頼むぜ?」


 俺が右手を出すと。


「! ああ! よろしくたのむ!」


 ステラが握手を返してきた。

 これでステラと握手をするのは2度目だが、本当の意味で手を取り合うのはここからだ。


「ところで、まったく関係ない単なる疑問なんだけどよぉ」

「なんだ?」

「お前って何歳?」

「うっ」


 ステラが痛いところを突かれたみたいな表情をした。


「女性に年を尋ねるのは、その、失礼というかゴニョゴニョ」

「いいから教えてくれよ。ちなみに俺はこないだ18になった」


 先に俺が年齢を明かすことで、断りづらくしてやる。


「そ、そもそも霊獣には年齢という概念がなくてだな、基本的には殺されるか、自ら転生しない限りはずっと生きていられるんだ!」

「で?」


「……千年以上は生きてたと思う」

「千年!!?」


 俺より年上なのは覚悟してたけど、ケタ違いだ。


「う、うるさい! 年齢の話はこれで終わりだ!」


 ステラは恥ずかしそうに宙を払う。


「いやいや、まだ終わりじゃねぇだろ。“ステラ”としての年齢はいくつなんだ?」


 話を無理やり終了させたことがわかっていたので、あえて聞いてやる。


「うぅ、どうしても答えないといけないか?」


 ステラが涙目になって見上げてくる。


「おう、気になる」

「……………………今年で還暦を迎える」

「六十!? ババアじゃねぇか!? つーか、今年引退するのかよ!?」


 ここまで出世していることや、先々代とかの話を聞くに、そこそこの年齢だと思っていたが、まさか俺にトリプルスコア以上決めてくるとは思っていなかった。


「だ、だまれ! 引退などせん!

 わ、私は霊獣としての力が強力だからな、肉体の維持も強く働いているんだ!」

「あー、なんにせよ。労わらねぇとな」

「やめろ! 肉体はまだ十代だ! ぴっちぴちだ! せ、精神だってまだ若いつもりだぞ!」


 もう、ステラの瞳には、瞬きしただけで落ちてしまいそうなほど、限界ギリギリまで涙がたまっていた。


「はははっ! そんなに年齢のこと気にしてんだな! 別にいいじゃねぇか年齢なんて気にしなくても。見た目は可愛いんだしな!

 それに、何歳でも“エルフリーデ”は“エルフリーデ”じゃねぇか」

「うっ、可愛いって……それにいきなり本名を呼ぶのは反則だ! 外では絶対呼ぶんじゃないぞ」


 ステラがわかりやすくたじろぐ。


「ったりめぇだろ、お前じゃないんだし、そんなミスするかよ。ま、改めてよろしく頼むぜ、ステラ婆さん」

「もう――許さんからなぁぁぁぁぁっっっ!!!!」


 最後の咆哮だけ、街中に鳴り響いたという。

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