4.ようこそハンプールヘ
「こんなものか」
ステラは慣れた手つきで熊男に重りをつけると、湖に沈めた。
まるっきり証拠隠滅。自分の部下っつってたけど、大丈夫か?
「ずいぶん手慣れてんな」
「気休めだがな。今晩雨が降ればいいのだが、そうもいかないだろう」
バレることが前提か?
感づかれても、押し通せる自信があるのだろうか?
「さてフラン。これから私たちの拠点に向かおうと思う。その際、君は私に捕まった体をとらせてもらうが異存はないか?」
「ああ、異存はねぇよ」
俺が、訝しげに見ていると、ステラがフフッと笑った。
「聞きたいことが山ほどあるのだろう。道中私が答えられる限りで、教えてやるさ。その前に……」
そういうと、ステラは上着を脱ぎ始めた。
「え? ちょ!?」
いきなりの出来事に動揺して目線を隠すと、ステラが俺に上着を投げつけてきた。
「その服装は、見ているこっちが痛々しい。それを羽織っておけ」
「あ、おお」
全身すり傷だらけで、服の半分が削れ落ちてるもんな。
ステラに言われた通り、上着を羽織る。おお、温かい、それに女子の匂いがする。
「さて、少し歩くぞ」
ステラが歩き出したので、数歩後ろをついていく。
「とりあえず、知りたいのは、“自分がどういう状況か”と“自分がこれからどうなるか”といったところか?」
森の中を進みながら、ステラが話してくれる。
「ああ、あと“この世界がなんなのか”もざっくり教えてくれるとありがてぇ」
「ふむ、そうだな。順を追って説明しよう。
まず、この世界――中央界ウォルテアには4人の女神がいて、大陸を四分割するように領土を持っている。
領土間は険悪で、中立住民の手を借りないとまともに交易はできないし、基本的に戦争状態だ」
女神が四人も……。クソ女神は東の女神とか呼ばれてたし、東西南北一人ずついるんだろうな。
「女神には共通する特殊能力がいくつかあって、その一つが異世界からの召喚だ。
この世界のほかに4つ異世界が存在し、女神はそれぞれ司っている世界から人や物資を召喚できる。
フランのような超常能力者が存在する世界は、超常界オルレットと呼ばれていて、東の女神の管轄だ」
で、俺はその東の女神に召喚された……と。
「そこで一つ聞きたいが、東の女神が超常界から人間を召喚する理由は、その身に宿している超常能力を奪い取るためだ。フランはまだ超常能力を身に宿しているようだが、理由に心当たりはあるか?」
「あー、俺もちゃっかり奪われてるよ。今の能力は本来の出力の一億分の一、残りカスみてぇなもんだ」
「……なるほどな、単独でアーノルドを撃破できる能力の一億倍強力な超常能力が、東の女神の手に渡ったというわけか」
ステラは身長の割に大きな手を顎に当て、思案するような姿勢をとった。
「話を戻すぞ」
間をおいて、ステラは再び話し始める。
「フランがどういう状況かについでだが、話を聞くに『力を抜き取った抜け殻を西女神領に捨てた』と、いった感じか。東の女神がここに捨てたのは、単なる嫌がらせだろうな」
ステラは、死体が捨てられることは頻繁にある、と付け足した。
「あー、なるほどな」
死体を他人の領に捨てるとか、マジでただの嫌がらせだな。相当仲悪いんだろうな。
「東の女神が憎いか?」
ステラの会話のトーンが少し変わった。
「ったりめぇだろ。この手でぜってぇぶっ殺す」
俺が少し声を荒らげて返すと、ステラはほんの少しだけ嬉しそうに「そうか」、と返した。
敵国に恨みを持っていたら、自軍の兵隊にしやすいと思ったのだろうか。
「そして、今後フランがどうなるかにについてだが、私たちを統治する西の女神――ペネロペ様に、フランを私の部下にできないか打診してみる。刻印を受けるか受けないかは自分で選べばいい」
そのペネロペってやつが、この領土を統治する女神なのか。
刻印っていうのは右手の紋章のことだろう。
「そういや、例えば西女神領の国民なら、全員にその、なんつうの? 虎の印がしてあるのか?」
「このペネロペ特区内にいる人間はそうだな。
だが、領土民全員がそうだというわけではない。
この刻印は忠誠と譲渡の証だ。
女神様は他の世界の生物から奪った力を自身で使うことはできず、刻印と共に譲渡するんだ。譲渡された人間は力を得る代わりに、女神様に逆らえなくなる」
つまり、俺の能力も東の女神が、刻印と共に誰かに渡す……と。
「つーか、てめぇらのその姿も、譲渡された結果かよ」
さんざんスルーしてきたが、さっきの熊男といい、ステラといい。ちょっと人種が違う、では説明がつかない容姿をしている。
「そうだ、まあその辺は刻印の説明の際に、ペネロペ様が直接話してくださるだろう」
今後、そのペネロペとかいう女神に直接会えるんだな。
俺の復讐相手ではないが、女神の弱点とかを探れるかもしれない。
「さてと、見えたぞ」
少し歩くと森が開け、巨大な渓谷が現れた。
渓谷の間にはよく見ると、土で出来た建物や穴を掘って作られた家が無数にあり、大量のつり橋で繋がれている。
それが、所狭しと並べられており、相当な規模であることがうかがえた。
「まだ少し歩くが、とりあえずはようこそ、西女神領の首都、ハンプールへ」
ステラはこちらを見て、微笑んだ。




