25.後日
「…………!」
目が覚めた。
体が重い、あれからどれだけ寝てた?
土で出来た真っ白い天井、カーテンもない窓。
西女神領内だ。あの後ステラが女神能力を使って納めたのだろう。
「おっはよー」
横から声が聞こえた。
「チェルシー……」
ベッドの隣に座っていたのはチェルシーだ。
俺が目覚めたのが嬉しいのか、にこにこと笑っている。
「俺、どんだけ寝てた?」
「丸一日だね。西女神領は設備も悪いし、このまま回復しないんじゃないかってハラハラしたよ。意識が戻ってよかった」
「……そうか」
ゆっくりと体を起こす。
「まだ、安静にしてなきゃだめだよ!?」
「いや、寝返り打ってねぇせいか、背中がいてぇんだよ」
「あー、傷の位置的に、仰向けにしか寝かせられなかったんだよねぇ」
ボウガンで撃たれた場所と、ペネロペに刺された場所が痛む。
チェルシーの手を借りて、体を起こした。
「体調はどう?」
「最悪だ。傷はいてぇし、体は重い」
「あ、りんご擦ったやつあるけど食べる?」
そういえば、腹減ったな。
「貰うわ。つーか、用意が良いな」
「と、いうよりフランのタイミングが良いんだよぉ。あのまま起きなかったら、無理やり口に流し込むつもりだったんだぁ」
「……なるほどな」
西女神領には点滴なんてなさそうだしな。
「はい、あーん」
チェルシーがリンゴをスプーンですくって口元に近づけてくる。
「……あれ? もしかして租借できる力がない?
しょーがないなぁ、口移しで――」
「いや、食える。つーか喋れんのに呑み込めねぇはずねぇだろ」
「それもそうだねぇ、照れてただけかな?」
「言うな」
そう言いながらも、チェルシーに食べさせてもらう。
本気を出したら自分で食えなくもないが、今はその体力も惜しい。
「そうだ、あの後の何があったかをざっくり説明するね」
「おう、頼む」
弱った体で、ゆっくりゆっくりと食べていく。
「まあ、予定通り女神能力を引き継いだステラが能力を使って事態を鎮静。
女神能力の『命令』は、引き継いだ時点で『ペネロペ』の部分が『ステラ』に差し変わるらしくて、ステラはペネロペと同じ立場に就いたみたい。
ついでに、『命令』を重ね掛けして、チェルシーとフランにも危害を加えないように調整、刻印者たちはチェルシーたちの言うことも聞いてくれるようになったよ。
今回の作戦での死者は、ペネロペとチェルシーが車ではねて谷底まで落ちた人の合計2名。
重傷者はフランを含めて11人。比較的スマートな革命だね」
「そうかよ」
ま、目的を達成できりゃスマートとかどうでもいいけどな。
「ん? あ! 来たみたいだよ?
ご飯の続きはまた後でだね」
チェルシーが何かに反応して言う。
たぶん、小さな音を拾っているのだろう。
「何がだ?」
「まーまー、すぐわかるよ」
チェルシーが、立ち上がり席を外す。
少しすると、扉からステラが入ってきた。
ばつが悪そうだ。当然か。
「フラン、その。調子はどうだ……」
「あん? よく俺の前に顔を出せたな。てめぇ」
こっちはステラが迷ってせいで余分な刺し傷が増えたし、最悪死んでいた。
ステラもそのことは重々承知のはずだ。
「申し訳なかった!!」
ステラが深く頭を下げた。
「謝られたところで傷は癒えねぇよ。
殺意が増すだけだ」
「殺意、か。そうだろうな……。
私の断罪の方法は考えているさ」
ステラが諦めたように、そういうと、服の中からナイフを1本取り出した。
「色々考えたが、これしか思いつかなかった。
私の償いだ。フランが望むなら、私の命と女神能力をフランにやる」
「てめぇは刺したところで死なねぇだろ」
「私が死にたいと思えば死ねるはずだ。それが霊獣界での人の殺し方だったしな」
「そうかよ」
確かに、女神能力があれば西女神領の兵隊を自由にできるし、何なら召喚で増やすこともできる。
復讐には大きく貢献してくれるだろう。
「覚悟、できてんだな?」
ステラからナイフを取り上げると、強く握った。
体は重いし力は入らないが、一振りだけだ。やってやる。
ステラは目を固く閉じる。
俺はナイフを振るい、ステラの肩を突き刺した。
もちろん、こんな傷では致命傷とは程遠く、ステラの再生力の前ではすぐに治ってしまう。
「そんな顔されたら殺す気失せるっつーの。これで痛み分けだ、許してやるよ」
「フラン? どうして……?」
ステラは驚いたように尋ねる。
そりゃそうだ、俺の性格上、今の流れだったら普通にステラを殺してる。
だがな。
「俺に女神能力が渡っちまったら、また霊獣界から搾取が始まっちまうぞ。
それに、ペネロペから西女神領を託されたんだろ?
それはてめぇの1000年も50年も否定する行為だ。
もっというと、それに協力した俺まで否定される。それはぜってぇ許さねぇ」
「そう、か。そうだな……」
ステラは納得したようなしていないような微妙なテンションだ。
罪の意識が抜けきらないのだろう。
「償いてぇなら、償わせてやるよ。こき使ってやるから、気ぃ引き締めろよ」
俺はニヤリと笑った。
そういや、もう女神領にステラの正体隠す必要ないから、呼び方変えてもいいんだったな。
エルフリーデはちょっと呼びづらい。
そうだ。
「よろしく頼むぜ。エルフィ」
「……! ああ、償うさ! よろしく頼むぞ、フラン!」




