X.ステラ:10年前
西女神領では、伝統的に女神には霊獣能力を引き継がせないこととなっている。
なので、女神の寿命は通常の人間と同じで50年から長くても70年程度。
もう現女神もずいぶんご老体で、次の女神候補が決まったらしい。
「この子の名前はペネロペ、今日から君に彼女の世話を任せたい」
男性に連れられてきたのは、まだ5歳くらいの少女。
蜜色の肌に、まんまるな瞳、人見知りなのか男性の後ろに隠れている。
私の次の任務は、次期女神様の教育と護衛だった。
「非常に重要な任務だ、率先して西女神領のために尽くしてきた君だからこそ頼める。任されてくれるか?」
「はっ! 心して承ります!」
復讐のことなどほとんど忘れ、淡々と任務をこなしてきた私に舞い降りた絶好の機会。
ここで、次期女神の信用を勝ち取れば、女神の力を引き継いだのち、たやすく復讐を達成することができるだろう。
護衛も何も関係ない、触れられるほどそばまで近づけば相手は何の能力もない少女だ、たやすく息の根を止められる。
もう忘れかけていた復讐心が、沸々と滾ってきた。
いや、憎しみによる復讐、と言うのはしっくりこない。
使命。そうだ、使命だ。
これは、私の使命。私の感情など関係ない。
必ず、達成しないといけない、私の使命――。
「お姉ちゃん」
男性の後ろに隠れ居ていた少女は、一歩前に出でてきて、私の顔を覗き込んだ。
「よろしくの!」
無垢な笑顔が、私に向いた。




