X.ステラ:30年前
先代女神が退位されてから、もうずいぶん経つ。
女神の退位、それはつまり引き継ぎのために死ぬということだ。
私が研いできた牙は、その首に届くことなく行き場を失っていた。
もちろん、他の同胞を召喚し、完全な死を与えている現女神も許すわけにはいかない。
それが、頭ではわかっていても、心の奥底から湧き上がってくるあの復讐心は、消え去ってしまっていた。
私はこの世界にどっぷり浸かってしまったのだろうか?
同僚も、上司も、部下も、みんな同胞の命を糧として力を得ている、許されざる存在。
なのに、その中でどこか心地よさを感じてはいないか?
皆優しく、ただ純粋に自国を思う民であることは、ステラとして接し痛いほど理解していた。
だが、エルフリーデとしての最後の意地が、彼らのことを仲間と認めさせてはくれない。
ステラとして仲間と接すれば、エルフリーデとしての意志が、
エルフリーデとして復讐のために動けば、ステラとしての意志が、
私の心に罪悪感を植え付けてくる。
それは、とてもつらく苦しい。
もう解放されたい。もう、十分頑張ったじゃないか。
ステラ、もう私はどうしたらいいかわからないよ。
答えてくれ、ステラ、私はどうしていい。
教えてくれ、また昔みたいに、教えてくれよ……。