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21.隠し玉

 おおよそ15時間の走行ののち、俺たち一行は町の傍までたどり着いた。

 車は馬車と違って、休憩なく走り続けられるため到着は予想よりもずいぶんと早い。


「うぷっ、馬車でなくとも乗り物は好かん」


 ステラは車でも存分に酔ってしまったようだ。


「おー、真っ青だ。ここまで乗り物酔いする人は珍しいねぇ。

 乗り物酔いに効くツボ教えてあげようか? ちょっと手を触るねー」


 チェルシーがステラの手首あたりをグイグイと押す。


「大丈夫かよ。こっから馬車引く仕事が残ってんだぞ」


 車で直接町に乗り込むことはできないので、町まではステラに馬車を引いてもらう必要がある。


「マシになってきた……」


 ステラの表情にみるみる血の気が戻っていく。


「……すげぇな。ツボ」


「まあ、さすがにここまで劇的に効果があるものじゃないから、半分以上はプラシーボ効果だろうけどね~」

「プラシーボ効果ってなんだ?」

「思い込みが体調に影響することっ」


 チェルシーがこっそり教えてくれた。

 まあ、確かにステラは思い込みとか激しそうだ。


「つーか、手足はもう大丈夫なのかよ?」


 普通に車から出て歩いていたので一瞬忘れていたが、チェルシーは手足を骨折している。


「心配しくれてありがと、歩く分にはもう問題ないよ。完全にくっついてるわけじゃないけど、負担をかけないように筋肉で支えてるし」

「完治するまではどんくらいかかるんだ?」

「んー、3日あれば前みたいに動けると思うよ?」


 手足をバッキバキに砕かれといて、それをたった三日で治すのか。

 ステラほどではないにせよ、人間離れした再生能力だ。


「まあ、無理やり治してるから、その分体力使うんだけどねー」

「やたら飯食ってたもんな」

「もー、言わないでよっ」


 軽く背中をたたかれた。


 まだ会って1日とかだが、時間に比例してスキンシップが激しくなってきている気がする。

 あれでも、人見知りをしていたのかもしれない。


「さーて、街に行く準備をしないとね! ステラはその間に休んどいてよ」


 チェルシーが車の荷台から折り畳み式の椅子を取り出して広げた。


「すまない、助かる」


 ステラはそこにヨレヨレと座る。


「さてと、準備だな。車隠して、町に着いてからの流れを決めねぇと」

「車はもともと迷彩加工されているし、木の中に隠せば見つかりにくいけど、枝とか足してカモフラージュしたいね」

「なんかこう、未来的な力で透明になったりできねぇのかよ?」

「さすがに汎用車にそんな高価な機能はついてないよぉ」


 チェルシーがケラケラと笑う。

 コレについてないだけで、技術的には可能なのかよ。


「つーか、まずはてめぇの格好だよな」


 チェルシーに目を向ける。


 手足の部分がデロンデロンに切れた、体のラインに沿った銀色服。

 その上、手足には木の棒が括り付けてある。


「あー、確かに目立つねぇ。ステラの服一着貰っていーい?」

「ああ、かまわないぞ」


 少し離れた位置からステラが答える。


「ありがと~。それじゃあ着替えてくるね! あ、覗いちゃだめだよ?」

「しねぇよ、んなこと」


 チェルシーが馬車の中へステラの服をとりに行く。


「……いいやつだな、チェルシーは」


 ステラがしみじみと言う。


「まあそうだな。あれで裏があんなら大したもんだ」


 実際、誘導されているような感じはないし、チェルシーだけが知ってる情報もどんどん寄越してくれる。

 裏があるとは到底思えない。


「つーか、最初はあんな疑ってたのに、受け入れるのはえーな」


 ステラはもうすっかり受けりれモードだ。

 まあ、長期間に渡ってこじれるよりはずっといいが。


「前にも言った通り、私が裏切られた場合のリスクはほとんどないしな。

 それに、私は情に流されやすいんだ。欠点だとわかっているが、どうにも直せない」


 情に流されやすい、か。


 ステラともまだ特別長い期間一緒にいるわけではないが、それはひしひしと伝わってくる。

 そう、それがあるから俺はむしろチェルシーよりも……。


「なあ、ステラ」

「ん? なんだ?」

「てめぇは本当にペネロペを――」


「おっまたせー!」


 俺の言葉を割るようにチェルシーが着替えを済ませて帰ってきた。


「早ぇな」

「うん! 超高速で着替えてきたよ~」

「馬車の中でか? 捕虜もいただろ?」

「まあ、捕虜の人は目隠しも耳栓もしてたからね。目の前で着替えても何の問題もないよ~。

 絵面すっごくエッチな感じだけどね!」

「……うるせぇよ」


 こいつはホントに、何でも思ったこと言いやがる。


「で、ペネロペがどうかしたの?」


 そして、チェルシーがすぐに話題を戻す。


「ん? つーか聞いてたのかよ」

「だから言ったじゃん。すっごく耳が良いって。

 二人がチェルシーのこと褒めてたのも聞こえてたよぉ~」

「……そうだったな」


 超地獄耳にはなかなか慣れない。


「ああ、それでペネロペのことなんだけどよ。車の中でずっと考えてたことがあんだわ」

「何をだ? もったいぶらずに言ってくれ」


 俺は少しためて、そのことを口にする。



「もう、ペネロペ殺さねぇか?」



 ステラが驚いた表情を浮かべ沈黙する。

 チェルシーは、俺の次の言葉を待っているようだ。


「俺たちはもう西女神領に疑われてる。

 今後献身的に務めたとして、その疑いが晴れるのは何年後だ? むしろ、待てば待つほど俺たちの疑いは強まっちまうんじゃねぇか?

 だったら、これ以上こじれる前に、速攻で殺しちまったほうが成功率は高いだろ」


「そ、それは……あまりにリスクが高くはないか?」


 ステラが言う。

 突然のこと過ぎて、あまり頭が回っていないようだ。


「これ以上待つほうがリスクが高いって話だ。

 車が手に入った。チェルシーっつー隠し玉もある。

 それが西女神領にバレる前に、多少強引にでも決行したほうがいい」


 少数で大人数を相手取るときは、不意打ち・暗殺が基本だ。

 いまはその条件が整っている。


「何かプランはあるの?」


 チェルシーが否定も肯定もせず、俺の考えを聞き出してくる。


「それなんだが、ステラ。ペネロペは『決まった時間に決まった場所にいる』って習慣はないか?」

「え? ああ。感礼の儀の時なら、必ず謁見の間にいると思うが……」


 謁見の間、俺とペネロペが出会った場所か。


「悪くねぇな」

「だ、だが、感礼の儀中は少なくとも数人……多ければ20人以上の人間がペネロペ様の周囲にいるぞ?」

「問題ねぇよ」


 20人程度なら何とかなる。

 そもそも、全員を相手にする必要はないのだから。


「プランは単純だ。

 感礼の儀とやらが始まる直前、ペネロペが移動しているタイミングで、車で強引にツッコんで周辺の人間をはね飛ばす」


 獣人とはいってもさすがに車の最高速には追い付けない。

 ペネロペに情報が伝達されるよりも先にそこにたどり着けるはずだ。


「で、全員が一斉に飛び降りて、ステラはペネロペ狙い、俺とチェルシーは援護。以上だ」

「……ずいぶんと、雑じゃないか?」


 長年武官を務めたやつのセリフとは思えないな。


「シンプルって言えよ。1手で決めるのが暗殺だ。幸いペネロペには霊獣能力がねぇしな。ステラの力だったら一捻りだろ?」


 今まで霊獣能力者を何人か見てきたが、その中でも間違いなくステラが最強だ。

 それに、俺とチェルシーのサポートが加わるんだ。

 ペネロペにたどり着くなんて、わけないはずだ


「本当にそれで成功するのか……?」


 ステラが疑問を投げかける。


「ま、100%とは言わねぇが、成功率はクソ高いと思うぞ。

 そもそも、その感礼の儀とやらは自陣の中心で行われんだ。攻撃されるなんて夢にも思ってねぇはずだ。

 そのうえこっちは霊獣能力、超常能力、兵器能力と能力のオンパレード。対応しにくいことこの上ねぇ」


 ステラが思案するようにうつむく。


「確かに、逃げることや後始末を考えなくていいなら、たどり着く手段と殺す方法が確立している時点でもう成功してるって言えるしね。

 2150年の装備で、身体能力が高いだけの1000年前の人を殺すなんて、難しくないと思うよ」


 チェルシーが補足する。


 実際俺たちはチェルシーにまともに反撃できないまま部隊を半壊させられた。

 それを、ペネロペ狙いでやろうってわけだ。


「ステラ、これはステラの復讐だ。だから、最終的に決めるのはてめぇだ。

 だが、俺は今しかねぇと思う。俺だって俺の復讐が残ってんだ。適当なことは言わねぇよ」


「…………」


 ステラが黙る。


「まー、50年かけた復讐劇がいきなり終わりそうなんだし、動揺するのは無理ないよね」


 チェルシーが、ステラにフォローを入れる。


 確かにそうだ、50年かけて積み上げた復讐の計画が、俺と出会って一か月未満、チェルシーと出会って1日で完成してしまいそうなんだ。

 急と言えば急。


 だが、むしろステラの動揺は、そんなところではなく……。


「……わかった、やろう」


 少しすると、ステラが決心がついた顔で言った。


「言ったな? いいんだな?」

「当然だ。このままハンプールに着き次第ペネロペ様を……殺す」


 ステラがそう宣言した。

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