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20.兵器能力と

「ふぅー、久々にいい運動した」


 ステラが馬車を引いて3時間。

 目的地である、北女神領の兵隊が全滅した場所に到着していた。


「本当に、一切ペース落とさず走り切りやがった……」


 その無尽蔵ともいえる体力は、超再生ゆえだろうか。


「さってと、物色していこうか」

「おう」


 俺たち用に北女神領の備品と車を盗み、『俺たち用』の装備を整える。

 それがここに来た目的だ。


「フラン、おんぶ」

「……そうだったな」


 チェルシーは両手両足折れている。

 馬車に乗り込むときもそうだったが、誰かが運んでやらないといけない。


「よっと」


 女子一人分の重みが、自分に乗っかる。

 チェルシーは、俺の負担を減らすために、ぎゅっと力を込めて体を密着させた。


「んふふ、ありがと」


 馬車から出ると、そこには死体が六つ。

 それぞれ、額を撃ち抜かれるか、首を切り落とされているかしており、チェルシーに殺されたのは明らかだ。


 すでに消えた薪を囲うように倒れており、手にコップの取っ手が引っかかったままの者もいる。

 チェルシーに襲われる直前まで、楽しく食事をしていたのだろう。


「いったんおろすぞ」

「うん」


 外に倒れていた折り畳み式の椅子を起こし、チェルシーを座らせる。


「いたぞ」


 ステラが近くに止められてあった車の荷台を確認すると、そういった。


「ん? 何がだ? ……ああ」


 中をのぞき込むと、すぐに理解した。


 中には手錠で繋がれた獣人の姿があった。

 ガタイの良い普通の男だが、手足の先は爬虫類の鱗で覆われている。

 もちろん、額を撃ち抜かれて絶命していた。


「こいつがヘクターか?」

「そうだ」


 ミーシャが熱感知できるっつってたし、爬虫類っぽさからしても蛇の獣人だろう。


「先に言っとくけどよ、さすがにこいつは連れ帰れねぇぞ」

「わかっているさ」


 そういうと、ステラが強引に鉄の鎖をねじ切り、肩を貸すような形で持ち上げた。


「体が硬いな、運びにくい」

「手伝うぞ」

「頼む」


 もう片側の肩を持つ。

 ツンと、酸味のある臭いが鼻を通った。


「どこに運ぶ?」

「すぐそばの地面でいい」


 獣人の死体を外に運ぶと、地面に倒した。


「フランとチェルシーは今後使えそうなものを、品定めしておいてくれ。

 私はヘクターを埋葬するよ」

「おう、わかった」


 そう言うと、ステラは素手で砂を掻きだした。

 ステラにかかればまるで地面が豆腐のように削れていく。


「あのさ、北女神領の人たちはここを見たら、チェルシーが全滅させたってことすぐ察すと思うんだけど、獣人の人だけ埋葬したら、むしろ西女神側が銃とか奪って全滅させたって主張されたりしないかな?

 ほら、獣人の人だけ見つからなかったフリしてさ」


 チェルシーが横から言ってくる。


「確かに、無茶苦茶な理論でも、チェルシーの正体を報告できない以上、反論できないな」

「だったら、全員埋めて墓をたてるさ。私なら大して時間もかからない」

「お、おう」


 どうしても埋葬してやりたいらしい。

 まあ、俺たちが持ち帰りたいのは戦功であって、この後、領間の交渉がどうなろうが知ったこっちゃないからな、ペネロペたちが確認できない部分はやりたいようにやればいいさ。


「さて、俺らは物色するか」

「うん」


 そう言い、北女神領の兵隊や車の中から武器らしいものを一通りかき集める。


 あったのは主に三種類。

 拳銃、自動小銃、狙撃銃。


 どれも、俺が知っているものとは若干作りが違い、体になじむような造形をしている。


「ただの捕虜交換なのに、けっこうガッチガチに武装してきてるな」

「まー、常時武装状態みたいな西女神領の人と係わるんだし、油断はできなかったんだろうね」

「まぁ、そうだな」


 そう言い、拳銃を拾い上げる。


「これって、引き金を引くだけで撃てるのか?」

「安全装置を外さないとだめだよ、横にあるバーをカチッとするの」

「これか」


 言われた通り、安全掃除を外す。


「銃って両手で撃ったほうがいいんだよな?」

「あれ? フランたちの時代だったら片手撃ちが基本じゃない?」


 時代……西暦1950年がどうとかってやつか。


「いや、両手で撃ってるやつが多かったぞ」

「うーん、超常能力が絡んでる分、文化の成長速度にはムラがあるみたいだね~。

 結論言うと、片手でいいよ。両手のほうが安定するけどね。そもそも両手使えるならライフルでいいし」

「あー、なるほどな」


 俺の場合、戦闘中は片手に太刀を持ってるし、もし使うとしたら片手で撃ちたい。


 周囲で的になりそうなものを探す。

 あまりいい目印は見つからなかったので、木の窪みをねらって撃つことにした


「どこ狙うの?」

「そこの窪み」


 そう言うと、すぐに銃を構えて、一発撃った。

 銃弾はしっかりと窪みに命中する。


「おお、ちゃんと真っ直ぐ飛ぶんだな」

「銃の精度は年々上がり続けてるからね。

 というより、今サイト見ずに撃ったよね? どうやって当てたの?」

「チェルシーと戦った時にやったみたいに、銃と木を能力で『マーク』して、銃身と的が一直線になるようにしただけだ」

「そんなことまでできるんだね~」


 立体的に感じ取れる分、普通に狙うよりも早くて正確だ。

 なにより、銃を目線まで持ってこなくていい。


「拳銃いいな、俺がもらってもいいか?」

「そんなのわざわざチェルシーに確認しなくてもいいよ~」


 チェルシーがケラケラと笑った。それもそうだな。


「ちなみに、銃弾とかは作れるのか?」


 ダメ元で聞いてみる


「火薬と金属を用意してくれたら、それっぽいのは作れるけど。機材が足りないだろうから、威力も精度も落ちるよ」

「そうか、だったら弾は節約しねぇとな」


 そう言い、銃に安全装置をかけ、服の中にしまう。


「他のは使わないの?」

「他のはデケェからな。服の中にしまえねぇし、殺すだけなら拳銃で十分だ」

「そっか」

「てめぇは使わねぇのか?」

「え? いいの?」


 まだ完全に信用を得ていない自分が武器を持っていいのか? と、言う意味だろう。


「俺はもうてめぇを信じることにしてるしな、ステラもいいっつったから、いいだろ。

 体の中に入ってた剣と銃もまた返してやるよ」

「やったー! 人生初の仲間ができたー!」


 チェルシーがわかりやすく喜ぶ。


「まあでも、しばらく銃の出番はないかな。遠くから撃って女神を殺しても意味ないんでしょ?」

「ああ、そうだ」

「ホント良く出来てるよね『最後に触った人が次の女神になるルール』。

 それのせいで、ズルが全然できないじゃん」


 良く出来てる、か。


「チェルシーも、中央界が人工世界だと思うか?」

「そりゃまあ。まるっきりゲームじゃん、この世界。

 今でも実は『知らない世界に放り込まれたAIがどんな行動をするのか?』っていう実験の最中なんじゃないかって疑ってたりもするよ?」

「兵器界って実験でこんな世界作れるのかよ?」

「作れるよ。実体がないデータでならだけどね」


 データの世界?

 その中にチェルシーの思考を放りこめるのか? 能力なしで。

 想像がつかない。


「こっちは終わったぞ」


 少しすると、ステラが声をかけてきた。


「クソ早ぇな」


 まだ10分とかそこらだぞ。


「んじゃ、出発すっか」

「ああ」

「うん!」


  ◆ ◆ ◆



 ステラと協力して、車の後方に馬車を括り付け、車に乗り込む

 運転席にチェルシー、助手席に俺。

 後部座席はないので、ステラと捕虜は荷台に乗っている。


「動かせそうか?」

「うん、フランたちが頑張ってる間に、ちゃんとロックは解除しておいたよ~」


 手足が折れてるのによく働いてくれる。


「ところでお願いがあるんだけど、右手をハンドルに縛り付けてくれないかな?

 思ったより時間が取れなかったから、長時間ハンドル握れるほど腕が回復してないんだよ」


 そういや半日で着く予定だったのに、ステラが早すぎて3時間で着いたんだったな。

 だが、ここはどちらかと言うと北女神領内だし、長居はしたくない。


「なあ、運転って俺にもできるか?」


 兵器界の道具の傾向を見る限り、どれも簡略化・自動化されている。

 車もそうではないのかと思っての質問だ。


「んー、無理ではないと思うけど、チェルシーが運転するよ」

「無理じゃねぇなら、わざわざ怪我してるてめぇがやる必要は――」

「いいの」


 俺の言葉をチェルシーが遮った。



「役に立たせてよ」



 チェルシーが珍しく真剣な表情で言う。

 おそらく、不安なんだ。


 ついさっきまで敵だった自分が、なんの前触れもなくポッと出の自分が“仲間”として溶け込めるかどうか。

 だから、距離を少しでも埋めるために、少しでも役に立ちたい。


「……わかった、頼むわ」


 チェルシーの思いを汲み取って、チェルシーに任せるのが仲間か。

 そのチェルシーの気持ちを押しのけてでも、かばってやるのが仲間か。


 その答えは、仲間初心者の俺にはわからなかったが、

 だが、チェルシーが『やりたい』と言ってることを、遮る理由は俺にはない。


「うん、任せといて!」


 チェルシーがにこりと笑った。


 括り付けてある馬車からミーシャの服を取り出し、長く切り裂いた。

 それを使って、チェルシーの腕をハンドルにくくりつける。


「ありがと、それじゃ、いくよ!」


 チェルシーがアクセルを踏むと、車は力強く発進した。


「おお、すげぇパワー。その割には全然エンジンの音しねぇな」

「これはガソリンじゃなくて電気で動いてるからね」


 エネルギーの種類によって、音が変わるのか? よくわからん。


「つーかよ、電気はどんなもん残ってんだ? 町までは行けるよな?」

「うん、大丈夫だよ。

 これ、太陽光で動いてるから、日差しがある限りずっと走れるし、充電分だけでも1日は走行可能だよ」

「……兵器界の技術すげぇな」


 超常能力よりもよっぽど、便利で不思議だ。


「このままずっと真っ直ぐ走ってったらいいんだよね?」

「おう、頼むぞ」

「頼まれた!」


 俺たちを乗せた車は、森の中をどこまでも突き進んだ。

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