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17.今後の方針

 チェルシーから、銃と剣を取り上げ、今必要と思われる情報を一通り話した。


 この世界についてから始まり、各領の関係、女神能力について、俺とステラの秘密、捕虜交換任務についてなど、隠さず全部だ。


 なに、情報を制限する必要はない。

 意にそぐわなければ、殺すだけだ。


「まず初めに決めないといけねぇのは、このまま捕虜交換するか、しないか。だな」


 こっちの部隊は手ひどくやられたが、それでも俺とステラと捕虜の三人だけでも捕虜交換の続行は可能だ。


 捕虜交換をすれば、『窮地に立たされても任務はやり遂げた』ということで、ペネロペから一定の評価を得ることができるし。

 ここで引き返した場合、『交渉を無視して北女神領に攻撃された』ということで、北女神領を追い込む一手になる。


 捕虜交換をした上で、攻撃の疑惑を吹っ掛ける。なんて手もあるが欲張りすぎか?


「あの~、そのことなんだけど……」


 チェルシーが少々申し訳なさそうに言う。


「たぶん、ここに来る途中、取引相手を全滅させちゃったと思う。

 隊列には、ステラみたいな獣人も交じってたし、間違いないよ。たぶん」

「おいおい」

「だって、そんな大切な人たちだなんて、知らなかったんだもん」


 真っ直ぐ南下してきたって言ってたし、途中で出会ってもおかしくないか。


「……じゃあ、家に帰れると思ってた捕虜には悪ぃが、このまま引き返すしかねぇな。

 問題は、攻撃された証拠である、死体をどうやって運ぶか、だな。

 一週間かけて運ぶには、重てぇし腐る」

「輸送方法に関しては問題ない。町までなら私が馬車を引こう

 証拠としてもそうだが、死体は遺族のもとに届けてやりたいからな。そのくらいのことはさせてもらうよ」

「町までって、1日はかかるし、笑えない重量だぞ」

「そもそも私の体は、馬よりも強靭だ。ミーシャの顔を立てて馬車には乗っていたが、正直走ったほうが楽だった」


 滅茶苦茶、酔ってたもんな。


「死体の処理なら任せてよ。

 言ったものをそろえてくれたら。一週間くらいなら、衛生面を損なわないように処理できるよ」

「ホントかよ?」

「ホントホント、兵器界ではインターネットっていう超巨大な図書館があって、

 そこでいろんな知識を収集してたからね。けっこういろいろ知ってるんだよぉ」


 さっそく役に立つアピール。

 ちょっと鼻につくが、そうでなくては困る。


「ああ、そうそう。

 あと、チェルシーが全滅させた部隊から銃を回収して、死体を適当に撃っといたほうがいいと思うよ。

 チェルシーが作った傷は鮮やかすぎるからね、毒とかで殺したあとに傷つけたとか、疑われかねないし、みんなの服装を見る限り、解剖学は進んでないだろうから、生前に撃たれたか死後に撃たれたかなんてわかんないだろうしさ」


 チェルシーが淡々と言う。


「ちょっと待ってくれ、死体を故意に傷つけるのはやめてやってくれないか?」


 が、それをステラが止めに入る。


「チェルシーたちが疑われるリスクはちょっとでも減らしておいたほうがいいと思うけど……」


 チェルシーもステラが止めに入った意図は理解しているらしく、遠慮気味に言う。


「フランはどう思う?」


 ステラが意見を求めてくる。

 3人いて、二人の意見が割れているため、おそらく俺の発言で、方針が決まってしまうだろう。


 リスクか倫理か。


「死体撃つのはやめておこう」

「あれれ? そうなの?」


 チェルシーが意外そうに首をかしげる。

 まあ、以前の俺だったら確実に撃とうって言ってたしな。


「俺にだって情はある。

 ミーシャやダリオを殺したチェルシーを恨むことはないが、故意に傷つけたいとも思わねぇ。

 それに、霊獣能力はけっこう有能っぽくてな、変に工作すると裏目に出る可能性がある」


 致し方なかったとはいえ、熊男に対する工作は、すでに裏目に出てる可能性があるしな。


「うーんわかった、二人に従うよ~」


 チェルシーはあっさり折れた。


「つーか、解剖学が進んだら、いつ撃たれたとかまでわかんのかよ。

 兵器界って、俺らと比べたらどれくらい進んでるんだ?」


「うーん、なかなか難しい質問……。

 じゃあ、質問に対して“ある”か“ない”で答えてみて」

「お、おお」


 なるほど、化学力が必要なものを上げて、“ある”“ない”の線引きで、文明の差を測るつもりか。


「砂糖は? あ、きれいな粒になってるやつね」

「ある」


「ステラは?」

「ああ、私もか。あるぞ」


「糸車は?」

「ある」

「ある」


「透明なガラスは?」

「ある」

「作れるぞ」


「注射器は?」

「ある」

「知らないな」


 ここでステラ(もとい、西女神領民)は脱落か。


「ガラスを使った鏡は?」

「あるぞ」


「伝書鳩は飼育してた?」

「ああ、つーかあんまり使われてなかったな」


「そうなの? そう言えば銃があるって言ってたもんね」


 ステラとこっそり話してた時に言ったな。


「じゃあ、けっこう飛んで、蒸気機関車は?」

「あった」


「写真は?」

「あったぞ」

「ちなみにカラー?」

「ああ、白黒も多かったが、カラー写真もあった」


「おお、じゃあもっと飛ばして、テレビは?」

「あったぞ、カラーテレビもあった」

「あれ? 思ったより差はないのかな? 電卓は?」

「あったぞ。使ったことねぇけど」


「ワープロは?」

「聞き覚えねぇから、ないんだろうな」

「ちなみに、テープレコーダーは?」

「それも知らねぇ」


「うん、ざっくりわかったよ。

 西暦に換算すると、霊獣界は1000年頃、超常界は1950年頃だね。ちなみに、兵器界は今2148年だから。

 霊獣界より1150年分、超常界より200年分の発展してるね。

 まあ、文化傾向が同じってだけで、全く同じなわけないし、国によって技術力も違うから一概には言えないけどね」


「あと200年で、てめぇ作れるようになんのかよ。信じられねぇな」

「可能性はあると思うよ~。文明の発展は加速してくからね」


 加速していく、か。

 まあ、ここ最近の発展は目覚ましかったし、わからなくもない。


「あと、勘違いしてもらっては困るが、砂糖もガラスも霊獣界にはないからな。

 あくまで西女神領の話だ」


 と、ステラが補足した。


「さてと、死体を連れ帰る準備すっか」


 回収して積み荷に乗せないといけない。


「あ、そのことなんだけどさ。

 ここから町まで1日はかかるって言ったよね? だったらやっぱり、北女神領の部隊が全滅を全滅させたところまでいかない?

 そっちなら半日で着くし、着いてからは車に乗れるから楽チンだよ?

 それに、車もそうだけど備品とかは『チェルシーたち用』に盗めるしね」


 ここでいう『チェルシーたち用』とは、西女神領ではなく、俺たち3人用と言う意味だろう。


「悪くはねぇけど、車ってカギとかかかってんだろ? そんな簡単に盗めるのかよ?

 それに俺は運転できねぇし、チェルシーもその手足じゃ無理だろ?」


 車の運転は、ギアチェンジだのクラッチだのいろいろめんどくさい。


「大丈夫だよ。電子ロックも生体認証もチェルシーならパスできるし、

 運転も、半日あったら、手足を最低限動かせるくらいには回復できるよ。

 チェルシーは細胞の活動を意識的に変化させられるから、集中して治したりとかも出来るんだよ~」


 便利な体だな。


「だが、馬車はどうする?

 目指す町は中立寄りとはいえ西女神領内、兵器界の乗り物で入ったら大騒ぎになるぞ」


「車にくくりつけたら大丈夫だよ。軍用車だし、馬車を牽引するくらいなんともないよ」


 さっきから話を聞く限り、俺の知ってる車と若干違うような……。


「あと、備品回収出来たり、ステラが楽できたりするのはいいけどよ、そんなに死体を連れまわして、腐ったりしねぇか?」

「まあ、気温が高いわけじゃないし、二日程度なら布さえあれば衛生状態は保てるよ。

 臭いは我慢しないといけないけどね」


 ホント、何でもできるなコイツ。


「……決まりだな、それでいこう」


 一息置いて、ステラが言った。


「ん? いいのかよ?」


 チェルシーを疑っていたのに、チェルシーが立てたプランに乗っかっていいのか? と言う意味だ。


「ああ、もう十分役に立つとわかった。

 それに、冷静に考えると私は裏切られたところでなんともないしな」

「まあ、チェルシーには俺らの秘密を漏らすメリットはねぇし、寝首を掻こうにもてめぇは不死だもんな」

「そう言うことだ、警戒するのはフランに任せる」


 俺はそもそも信じる方針なんだが……。


「さてと……」


 ステラは、馬車の馬が繋がれる部分に片手で軽々と持ち上げた。


「行こうか。片道でいいなら飛ばすぞ」


「おう!」

「うん!」

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