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17.チェルシー

 俺もステラも、動揺を隠せなかった。


 目の前にいる女は、自分が兵器界から来たという。

 異界から召喚されて自由に動ける人間に、こうもあっさりと出会えるものなのか。


「おい、兵器界から召喚された人間なのに自由に動き回ってる理由と、俺たちを殺そうとした理由を、わかりやすく説明しろ」


 ステラが驚いたように俺の顔を見る。


 ああそうだ、ステラが察している通り、俺はチェルシーを仲間に引き込めるんじゃないかと思っている。

 だが、そのことはチェルシーに直接伝えない。

 あくまで“敵”として話を聞き、仲間にすることが可能か否かを判断する。


「えっと、情報不足でよくわかんないんだけど、兵器界が地球のことで、中央界がこの星のことでいいのかな?」

「ああ、そうだ。それでいい」

「ちょっと待ってね」


 チェルシーが、少し思案するようにうつむいた。

 手に入った情報から、質問の答えを組み立てているのだろう。


「よしまとまった、ちょっと長いけど聞いてね。

 まず、チェルシーは人間じゃないんだよ。

 人工的に作られた生体アンドロイドなんだ」

「生体アンドロイド?」


「うん、

 人の体に機械を付けたのが、サイボーグとするなら、

 機械の頭脳に人の体を付けたのが、生体アンドロイド、みたいな?

 要は、生身の肉体を持ってるけど、ロボットなんだよ」


「……いまいちピンとこねぇな」

「うーん。自分で考えて行動する、人型の機械だって今は思っておいて」

「機械が自分で考えて人を殺すのかよ?」


 仕組みはよくわからないが、こんな高度なものを作れるなら、その辺の保険は当たり前のようにかけると思うんだが。


「そう、基本『人』を殺すのは無理なんだよ。

 兵器界の人ってね、識別用に体にチップが埋め込まれているんだ。

 生体アンドロイドは、そのチップが埋まった生物を『人』って認識する作りになってて、『人』に危害は加えられないし、逆らえない」


「つまり、中央会の奴らは、そのチップ? が埋まってねぇから、『人』じゃないってことか」

「そう、もちろんAI……えっとチェルシーの思考の上では『人』だと判別してるよ、でも、機械的な判定の上では『人』じゃない」


 チェルシーから出てくる技術は、俺からしたら全部絵空事の魔法みたいな話だ。

 全て事実なら、兵器界ってとんでもない世界だな。


「で、チェルシーはその生体アンドロイドの新型として、それはもうガッチガチに拘束されたつまらない生活を送ってたんだよ。

 意識はあるのに自分がしたいことはできない、みたいな生活をね」


「てめぇを作ったやつは、自由にさせる気がないならなんで意識なんてものを植え付けたんだよ?」

「そりゃあもちろん、『ウチにはこんな高度な技術がある、凄いぞ!』ってことを自慢するためだよぉ」

「ああ、なるほどな」


 なんの特殊能力もない兵器界では『技術力=力』で、それを外に宣伝していく必要があったってことか。


「それで、10日前かな。そんなつまらない生活を送ってたある日、いきなり光に包まれて中央界へやってきたんだよ」


 俺と同じか。


「で、気づいたら知らない人に囲まれててね。

 その人たちにチップが埋まってないことは感覚すぐわかって、『自由になったんだ!』って思ったチェルシーは、その人たちが言うことを無視して、外に逃げ出したんだ。

 そして、一人になって落ち着いたら、今までできなかったことをしようと思ったんだよ」

「で、今までできなかったことっていうのが……」

「そう! 人殺し!」


 一発目でそこにたどり着くとかぶっ飛んでんな。

 いや、拘束された生活って言ってたし、発想が貧困化するのも無理はないか。


「チェルシーを呼び出した人たちから逃げた後は、ひたすら真っ直ぐ南に移動して、自分を戦闘向けに改造しながら、出会った人を殺して回ってたんだよぉ。

 まあ、最近は飽きてきてたんだけどね」

「それで、最終的に俺たちに出会った……と」

「そう!」


 俺たちが危害を加える気がないのをなんとなく察してきたのか、チェルシーは饒舌になってきている。


 悪くない。

 捕虜もろとも俺たちを殺そうとした理由と矛盾していないし、最初に感じた会話の食い違いも説明できる。

 チェルシーが言ったことが事実なら仲間に引き込める。


「おいステラ、どう思う?」


 チェルシーに聞こえないように、少し距離を空けステラに小声で話しかける。


「仲間に引き込めるか、ということか?」

「そうだ。俺はアリだと思う」


 ステラが思案するような仕草をとる。


「……私は反対だ。彼女が嘘をついてないとは言い切れないだろう?」

「ああ、だけど事実の可能性は高いし、仮に嘘だったとしても問題なくねぇか?」

「どういうことだ?」


「まず、事実の可能性が高いってのは、他の領の兵隊だと思えないからだ。


 北女神領の兵隊だった場合、捕虜交換相手の俺たちをわざわざ銃弾で殺したりしないだろ?

 この戦争は孤立したら負けるんだからな。


 次に、東女神領の兵隊だった場合、まあ超常界には銃があるし手に入らなくもないが、あいつの戦い方は超常能力者のそれとかけ離れすぎてる。

 出身者である俺が言うんだから、ほぼ間違いねぇよ。


 で最後に、南女神領の兵隊だった場合、そもそも位置がおかしい。南と北じゃ真逆だ。こんなところで出会うはずがない。

 まあ魔術能力で、ワープとかできるのかもしれねぇが、そんな長距離移動ができるなら、こんなコスいことより、もっとやることあんだろ」


 そして、どこの兵隊でもないなら中立住民と言うことになるが、何の能力も持たない中立住民ともとても思えない。

 つまり、異界から来た人間。と、言うことになる。


「…………」


 ステラがしばし黙った。

 思考を巡らせているのだろう


「ちょっと飛躍しすぎか?」

「いや、とりあえずは納得しよう。で、『仮に嘘だったとしても問題ない』というのは?」

「ああ、嘘だった場合、どこかの領の兵隊ってことになるが、そもそも現状俺らの目的は西の女神をぶっ殺すことだろ?

 だったら、目的同じじゃねぇか」


 そう、女神および刻印者の究極の目的は、他の領の女神を殺すこと。

 相手としても『協力者』ができて、単純に利益だ。


「いや、それは違う」


 だが、ステラが異議を唱える。


「各領民の目的はあくまで、『自軍の兵隊が女神を殺すこと』だ。

 協力して殺したとしても、自軍の兵隊がとどめを刺せなければ、敵の大将が変わるだけだ」

「あ、そうか。ミスった」


 つい興奮して先走ってしまった。

 そもそも、4つの領が共闘しない理由はそこにあるわけだしな。


「だけどよ……」


 ここは『リスクよりもリターンをとるべき』だと直観が告げている。

 こういう直感には従いたい。


「俺らは二人で一国ともいえる軍勢を相手にしてんだ。リスクは承知で戦力は強化しておくべきじゃねぇか?

 あの戦闘能力見ただろ? 仲間にできたら、女神殺しがグッと楽になると思わねぇか?」


 それは間違いないんだ。

 早くて飛べて殺せる。少数戦に限れば、それだけでほとんど無敵だ。

 現に、俺らの部隊も半壊させられた。


「裏切りのリスクもそうだが、これ以上、私たちの正体を知る人間を増やすのは危険すぎる」


 言っていることはわかる、ステラから見たら単純に自分の正体を知る人間が倍になるわけだ。

 それに、俺一人でも危ういのにチェルシーも仲間に加われば、より怪しまれる。


「まあ、そうだな。

 ……じゃあよ、ステラが俺に使った手段と同じ手段を使うってのはどうだ?」

「同じ手段?」

「そう、あくまで俺らは西の女神の刻印者として、チェルシーと接する。

 で、信用できると思ったら正体を明かす。ってやつだ。

 なんにせよペネロペ特区に帰るまで一週間ある、様子見てもいいんじゃねぇか?」

「……そうだな、フランがそこまで言うなら」


 ステラは納得していないようだが、とりあえずは折れてくれた。


「あの~……」


 話が一通り、終わるとチェルシーが遠慮がちに言った。


「あん? ああ、放置して悪かったな。今話がまとまった」

「いやいや、そうじゃなくて。全部聞こえてる……みたいな」

「え゛」


 静かな森とはいえ、相当小声で喋ってたはずだぞ。


「その、チェルシーの耳は微量な音も拾えるようになってて、コソコソ話でも、この距離だったら聞こえちゃうんだよぉ」

「……マジかよ」


 さすがに困惑を隠せない。

 つーか、仮にそうだとしても、なぜ『自分だけが知っている』というアドバンテージを捨てた?


 なんにせよ、秘密を知られた以上、もう殺すか仲間に引き込むかのどっちかしかない。


「ねえ、君たちの信用を得たら、仲間に入れてくれるの?」

「はあ?」


 だが、チェルシーが続けた言葉はあまりにも意外。

 俺たちの目的も、俺たちが何者なのかも知らないのに、チェルシーは仲間になりたいと言ってきたんだ。


「ずっと憧れてたんだぁ。

 対等にお話しできるお友達! 君たちがなってくれるなら、チェルシーは何でも協力するよ? お役立ちだよ?

 それに、三人で国崩しなんて、面白そうだし!」


 チェルシーが、喜々として話す。


「……わかった、協力しろよ」

「ホントに!?」

「おいフラン、何を勝手に!」


 ステラが慌てて静止にかかる。


「わーってるよ。まだ“仲間”じゃねぇ、“協力”だ。

 今からやることに協力してもらって、こいつが役に立つってわかったら、危険を承知で仲間に引き込む。

 そっちのほうが、ペネロペを殺せるようになる確率が、格段に上がるはずだ」

「なぜだ! なぜそこまでチェルシーを味方に引き込もうとする!?」


 ステラはまだ食い下がる、リスクを恐れているのだろう。

 ステラは50年かけて復讐をしているんだ、慎重になるのはわかる、だが。


「なあ、ステラ。てめぇはなんで熊男を殺した俺を信用することにした?

 つーか今も、俺がステラを裏切らない保証なんてねぇだろ?

 なのになんで『仲間』でいられる?」


 そう、俺は『超常界から来た』っつってるけど、ステラに対してその証明はしていないし、

 今この瞬間にも、ステラを裏切ってペネロペにつくことだってできる。

 だが、ステラは俺のことは全面的に信用している。


「それは! ……直観、だ」

「そうだ、俺も直観だ。

 でけぇことやるには、直観に頼らねぇといけねぇ時が絶対来る。今がそうだ。そう思う。

 恐ぇかもしれねぇが、俺の直観とチェルシーに1回チャンスをくれねぇか?」

「…………」


 ステラがしばし黙る。

 己の中の葛藤と戦っているようだ。


「……わかった、私はフランを信用すると『直観』で決めている。

 だから、フランの直観も信用しよう」


 ステラは振り絞るように言った。


「センキュー!」

「やったー!」


 俺だけじゃなくて、チェルシーまで喜ぶ。


「それで、今からやることに協力とは、何をさせる気だ?」

「決まってんだろ?」


 周囲を見渡す。


 猿猫の生首。

 首なし状態で枝にぶら下がるダリオ。

 馬車によりかかるように死んでいるゴリラ猫

 頭と胴体が繋がっていない馬猫

 仰向けに倒れている熊猫。

 額から血を流すミーシャ。

 怯える捕虜。

 おまけに血しぶきだらけ。


「俺たちの有利になるよう、この事態を収拾収集する」

おまけ、女神領整理。


 いろんな女神領が出てきてややこしくなってきたので、簡単にまとめてみました。



 女神領の名前:繋がってる世界:刻印の四神:兵隊の能力


○東女神領:超常界オルレット:青龍:超能力者。共通点は『一人一つの超能力』くらいで、性質は多種多様。


○西女神領:霊獣界フェルガウ:白虎:獣人。高い身体能力と、動物由来の超感覚や特異体質。


○南女神領:魔術界フィアーノ:朱雀:魔術師。詳細は不明。


○北女神領:兵器界アース:玄武:武装兵。均一化された装備による、高い攻撃力と連携能力。


物語の舞台は中央界ウォルテア。

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