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X.一方:北女神領、森林

 フランを含む西女神領の一行と、捕虜交換予定地点を結んだ延長線上。

 徒歩で半日ほど進んだ先に、北女神領の一行はキャンプを張っていた。


 北女神領の兵隊は、兵器能力である『通信』によって必要な物資を自軍の女神に知らせ、補充することが可能で、

 『車』という馬などの生物を用いらない長距離移動手段を有しており、

 兵器界は『高速具』も発展しているため、捕虜の見張りも比較的に楽で、

 『テント』も他の領の物に比べると、ずっと簡単に建てられて丈夫だ。


 こうした様々な面で、北女神領の兵隊は遠征に強く、今回のような危険が比較的に少ない任務は、遠足のような感覚で兵隊にとっては一種の気晴らしになっていた。


 もちろん、捕虜の管理や、実際に捕虜交換する瞬間など、任務自体に手を抜くことはない。

 だが、それでも夜などは薪を焚いて、一晩ずつ交代で酒を飲みながら雑談にふけったりもする。


 はずだった……。



 なんだ? 何が起こった?

 北女神領の一行の中で、一番若いラトヴィッジは木に背中をつき小刻みに震えていた。


 一瞬の出来事だった、木に紛れ闇夜から現れた『それ』は上官の脳天を撃ち抜き、先輩の首を切り落とし、姿をまともにとらえることもできないまま、仲間五人と捕虜一人を殺害した。


 『それ』は、また木の陰に隠れたが、このまま見逃してくれたりはしないだろう。

 ラトヴィッジは銃を強く握り、安全装置を外す。


 誰の手先か? 何をされたか? そんなことを考える暇はない。

 殺さねば、殺される。


 極限の集中状態。

 目が、耳が、研ぎ澄まされていく。

 だが、手の震えだけは止まってはくれなかった。


 カサリ。


「うわぁぁぁぁぁぁ!!」


 わずかな木の葉の音に反応して、ラトヴィッジはアサルトライフルを連射した。


「残念ハーズレッ」


 真上から落下するように『それ』は現れラトヴィッジを切り裂いた。

 ラトヴィッジの首は落ち、四色の迷彩服に赤が足される。


 一行を全滅させたことを確信すると、やっと『それ』は立ち止まった。


 女性だ。

 身長は170cm近くあり、胸や尻は大きくグラマラスで、顔立ちも『美人』と称されるタイプのものなのだろうが、銀のショートカットから覗かせるその表情や仕草はやけに幼くアンバランス。

 瞳も人間の持つそれとは少し違い、十字の星を描く独特な輝きを放っている。


 服装は、銀のライダースーツのような身体のラインを主張させる作りなのだが、ところどころに流線型をイメージした機部が入っている。

 その服には隠す場所などなさそうだが、先ほどまで一行を惨殺していた銃や刃の類は見当たらない。


 血で赤く染まった『それ』は月を仰ぐと謎めいた言葉を漏らした。


「ああ、ここにいる人は本当に人じゃないんだ! 嬉しいなぁ!」


 彼女の言葉は、月明かり照らされた森にコダマした。

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