X.ステラ:50年前
「おお――、これは青龍か? まさか四神クラスを召喚できようとは」
なんだここは? なんだこれは?
色? 音? 香? 味? 熱?
うるさい、やかましい、そうぞうしい。
始めて味わうあらゆる感覚が私の思考の邪魔をする。
私の思考……、私? 私は誰だ?
そうだ。私の名前はステラ、今日10歳となり、虎の刻印を受けることを志願した。
違う! 私の名はエルフリーデだ!
霊獣界を治める5人の霊獣の一人で――。
霊獣界? 霊獣界とはなんだ?
そうか。中央界ウォルテアでは、私の世界のことを霊獣界フェルガウと呼んでいるのか。
私はなぜそんなことがわかる?
ステラだ、私の魂とステラの記憶が連結し、私の疑問にステラの記憶が答えてくれているんだ。
ステラ、君は一体何なんだ。
この体の持ち主?
体? 体とはなんだ?
そうか、この精神に連動して動く物体の事か。
物理世界である中央界ではこの体がないと自身を保つことができないんだな。
だんだんわかってきたぞ。
「どうしたステラ、地面にはいつくばって」
声が聞こえた。これが声か。
ちょっと待ってくれ、いくらステラの記憶があっても、まだ立ち上がるのは難しい。
立ち上がるためには、足の裏で地面をとらえて、重力に逆らうように体を起こし、前後左右に倒れないようにバランスをとる……。
く、くそ。難しい。
それはともかく、私はどうして中央界にいるんだ?
なるほど、女神様に召喚されたからか。
女神様とは、今聞こえた声の持ち主だな。わかるぞ。
それにしても、相手の意志も関係なく他の世界から強制的に人を呼ぶとは、なんて強力な力なんだ。尊敬に値する。
ところで私は、いつ霊獣界に帰れるんだ?
ステラの体をいつまでも借りているのは申し訳ないし、まだまだ公務も残っていてな、あまり長居はできないぞ。
え? もう帰れない?
それどころか、本来私は能力だけを搾り取られ、その全てはステラに引き継がれていただと?
つまりなんだ?
女神様は、私の意志を無視して無理やり連れ去り、輪廻転生すら許されない完全なる死を与えようとしたのか?
それも、自身の戦争のために。
ふつふつと怒りが湧いてきた。
女神、女神。顔を上げる、こいつが女神か。
お前の顔、お前の声。覚えたぞ。
私を故郷から連れ去ったことは許せない。
霊獣界と違って、中央界では体を傷つけるだけで簡単に他人を殺せるらしいな。
殺す、殺す、絶対に殺してやる。
そのためにはまず、立ち上がらなくては。