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11.疑惑

「初任務が決まったぞ」

「お、もうか」


 卒業試験から2日後、ステラの自宅にて告げられた。

 西女神領にとって俺は、強力だが扱いが難しい爆弾みたいなものだろうし、もっと時間をかけて慎重に任務を決めていくものだと思っていた。

 

「ああ、卒業試験の結果次第ではあったが、同伴させる任務はあらかじめ絞り込んでいたんだ」

「そうかよ」


 そこまで決めるためのあの長い会議ね。


「で、初任務はどんな内容なんだ?」

「捕虜交換の補佐だ」


 ステラが淡々と告げる。


「思ったよりまともな任務だな。最初だし、もっとどうでもいい任務かと思ったぞ」


 苦労して捕まえた貴重な敵軍の捕虜と、敵軍に捕まった大切な自軍の兵隊を交換する任務だ。

 失敗は許されないし、敵軍と交渉をする上でさまざまな取引・牽制が発生する、と思う。

 新兵に任せるような任務ではないように思えた。


「フランを同伴させるとなると、同時に私も同伴することになるからな。西女神領としてはこの戦力をむやみに消費したくなかったんだ」

「あー、なるほどな」


 捕虜交換の任務に俺が就くというよりは、捕虜交換の任務に就いたステラのおまけとして俺が付いていくって感じか。

 ニュアンス的に俺にはただの付き添い以上の役割はなさそうだが、ペネロペに近づくためにもある程度仕事ができることは見せつけてやりたいな。


「で、いつからなんだ?」

「明日早朝に、西女神領を発つ」

「あ? かなり急だな」

「ああ、フランが別の女神領からの刺客の可能性を考えて、ギリギリまで情報を抑制していた」

「あー、なるほどなぁ」


 実際俺はペネロペからの刻印を断っているし、“裏切る理由がない”と言うだけで、裏切者ではない保証なんてどこにもない。

 だから俺を疑って、情報を抑制する。

 そこまでは、理解できるんだが……。


「もしかしてステラ、てめぇも今日知らされたとかねぇよな?」


 “今日伝えるように”と、命令されていても、ステラなら事前に俺に伝えてくる可能性が高いとみての質問だ。


「いや、私は会議の時点で知っていた」

「そうか、そりゃよかった」


 なんだ杞憂か。

 ステラにまで情報抑制がされていたなら、ステラまで疑われていることになる。

 逆にそれをされていないということは、まだステラは疑われていないということだ。


「いや、安心はしないほうがいい。うちの情報収集機関は優秀だからな。

 私まで疑われているものとして、行動したほうがいい」

「まあ、用心するに越したことはねぇけどよ、なんか引っかかることでもあったのか?」

「……今回の捕虜交換の相手は北女神領。フランだけでなく、“私も”関係なさそうなところをあえて選んでいる節がある」


 俺が繋がっている可能性が高いのは、超常界から物を召喚できる東女神領だしそこを避けたのはわかるが……。


「“ステラも”ってどういう意味だ? ステラは西女神領で生まれ育ったって“設定”なんだろ?」

「ああ、だが超常能力や魔術能力で操れば、生まれも育ちも刻印も関係なく自由に動かせる。

 だから、東女神領や南女神領が係わる任務は避けたのだろう」


 ステラ(エルフリーデ)と同じルールで、刻印された人間と別の人間が体を操作すれば、命令に背くことができるのか。


「ステラが疑われてるとしたら、どこで疑われたんだ?」

「どこで、と言うなら最初の段階だろうな。霊獣能力は身体能力の強化以外に超感覚や特異体質に目覚める、ということは言っただろう?

 その中には嗅覚が極端に優れているものや、超音波や電磁波、熱などが見える者、動物と会話できるものもいる。

 そういった霊獣能力で、アーノルドの死と私たちの因果関係を調べたのだろう」


 ステラが熊男の証拠隠滅した際に言っていた『気休め』とはこういうことだったのか。


「つーか大丈夫なのかよ?」


 裏切りを警戒されているとしたら、今後動きづらくなるし、ペネロペにも近づきづらくなる。


「理想の状況ではないが、工作がある程度バレるのは仕方がないとも思っていた。

 大丈夫だ、私たちが自ら口を割らない限り裏切者と断定されることはないよ」

「その自信はどっから来んだ?」


 ステラはどうも肝心なところで詰めが甘い。

 共倒れにならないためにもその辺はフォローは俺がしていかないといけない。


「私たちが、他の女神領からの刺客じゃないからだ」

「……どういう意味だ?」


「そのままの意味だ。中央界ウォルテアは長い間、東西南北4つの女神領で戦争をしている。だが、逆に言えばそこ以外に“敵”はいない。能力者もいない。


 密偵を見つける際は、他の女神領の者しか知らない情報を引き出したり、他の女神領の益になる行動を取っているところを押さえるのが常套手段だ。

 だが、私たちにその瞬間はない」


 この世界に存在する4つの勢力、そのどの勢力にも属さないからこそ、西女神領の連中は敵である

確信が持てないというわけか。

 もちろん、その理論にも穴はあるが、ペネロペに近づくまでの時間稼ぎにはなるし、後から強引に調整していくこともできる。


「あー……、まあそれで理解しておくわ。

 ところで今の話と直接関係ねぇんだが、ずっと前から聞きたかったことあんだけど、そろそろ聞いていいか?」

「ん? なんだ?」


「ペネロペはどうやって殺すつもりなんだ? あと、俺の復讐も残ってんだ逃げる算段もねぇと協力できねぇぞ」

「そうか、女神を殺したらどうなるかを教えていなかったな」

「まだなんかルールがあるのかよ?」


 この一週間、暇さえあればステラと喋っているが、いまでも俺の知らないルールがちらほら出てくる。

 世界のルールが違うから仕方がないと言えば仕方がないが、重要なことは先に言ってほしい。


「女神が死んだ瞬間、女神能力は移るんだよ。最後に触れた人間に」

「は?」

「だから、私がこの手でペネロペ様を殺せば、私が女神となり『命令』で刻印者全員を行動不能にできる。退路は心配する必要がないんだ」

「あー、めちゃくちゃ重要じゃねぇか。もっと早く言えよな……」

「す、すまない」


 頭を抱えて、うつむく。

 こういうことがチョイチョイあるから、ステラは詰めが甘いって思わざるを得ないんだよな。


 でも、それはいい情報だ。

 ステラの復讐を成功すれば、この領土と兵隊が丸々手に入る。俺の復讐もしやすくなる。

 ペネロペ殺しのモチベーションが上がった。

 それはともかく。


「つーか、50年近く兵隊としてこの世界にいるんだろ? 退路気にしなくていいなら、殺すチャンス、あったんじゃねぇのかよ?」


 そう、ペネロペとは1度会っただけだが、ずいぶんと信頼関係があるように思えた。

 寝首を掻く位できたのではないだろうか。


「いや、ペネロペ様のそばには最低一人の護衛がいるんだ。それも、凄腕のな。

 ペネロペ様自体は、霊獣能力も持っていないし攻撃が通れば殺せるが、もし初撃がその護衛に防がれた場合、周囲から応援を呼ばれて取り押さえられ、2度とペネロペ様に近づけなくなる。

 だから、チャンスはあったが私一人ではなかなか行動に移せなかったんだ」


 殺せる可能性自体はあったが、失敗したときのリスクを恐れたのか。


「それで、その護衛を剥がすために俺みたいな協力者を探していたってことか」

「ああそうだ。フランがその護衛の行動を一瞬でも止めることができたら、その隙に私がペネロペ様を殺す」


 ステラは自分に言い聞かせるように言う。


「……嘘じゃねぇだろうな?」

「なぜそう思う?」


 ライオネルを一撃で仕留められるステラの身体能力と、ペネロペからの信頼があったなら護衛なんて無視してぶっ殺せそうだと思ったからだ。

 だが。


「いや、やっぱいいわ。今のナシ。

 ちゃんと殺すなら文句はねぇよ」


 俺とステラの協力関係に亀裂を走らせるわけにはいかない。

 くそ、今までずっと孤独だったから仲間との距離感がわからない。


「プランはそれでいい、けどよ。

 そもそも、俺が最初ペネロペと会った時、傍に護衛はいなかったぞ?」

「いや、ちゃんといたさ。霊獣能力の特異体質でな『透明化』が使える奴がいる。そいつが、常にペネロペ様を護衛しているんだ」


 『透明化』、か。謁見室で感じた舐めるような視線はそいつのせいか。


「敵の護衛が透明人間とはラッキーだな。俺は能力の応用で探知ができるから、透明人間とは相性がいい」

「そうだな。もっとも霊獣能力者の中でも身体能力は比較的に高いほうだから、そちらの注意も必要だが……」


 ステラの返答から熱を感じない。


「なぁ、もっとやる気だせよ。そもそもこれはてめぇの復讐だ。

 俺とてめぇが一緒にいる時にペネロペに出会ったら、どこだろうと復讐決行だ。俺がぜってぇ透明人間の動きを止めるから、てめぇはペネロペのぶっ殺せ。わかったな?」

「ああ、わかっているさ。

 必ず……使命は全うする」


 なぜかステラは、寂しそうにそう呟いた。

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