四駅目
宣言された通り、今日の練習で僕は重点的に絞られた。今は戻ってきて反省会の真っ最中。
「琴似、お前でだしが早すぎ。合図来たらサッサと出て、少し引き付けてからスタートだ。駅員がお前を認識して動き出してから走るんだからな」
「はい」
「琴似君、何度も言うけど、出る時の右回り左回り、ちゃんと意識して走らないと本番で間違ったら確実にアウトだよ」
こんな感じで朱里さんや晶子さんから駄目だしを食らう。
そこへ、ドアが開く音がした。
入ってきたのは、……駅長!?
駅長はキョロキョロと辺りを見回し、他に誰も居ないことを見てから僕達の居るテーブルまでノソノソと歩いてきた。
何であんなデカイ図体のくせにトロトロ歩くんだろう?
「駅長さん、こんにちは」
「よう、駅長」
「駅長、今日も見回り?」
女性陣は当たり前のように普通に声を掛ける。
「スミカワシノハ ドウシタ?」
「志乃は婆さんと一緒じゃないかな?さっきケンカして以来一緒に行動してないんだ」
駅長は返事をせず、確認するように頷くだけだった。頷くだけ頷くと、急に首だけを動かして僕の方に向けた。
ピカピカに黄色く光った目に睨まれて、背中が寒くなる。
90度しっかり曲がっていて、正直キモイ。
すると、駅長は急に僕の目の前、息が掛かる位近くまで、その顔を寄せてきた。何時動いたのかまったく分らないスピードで、駅長の奇妙な顔が自分の鼻先まで近づいたのだ。
「うわっ」
驚いて椅子から落ちそうになる。
一体何なんだ?
「オマエ コトニ アキ カワリナイカ」
質問の意図が掴めない。僕が琴似明という名前でいいのか?ってことなのか、僕に何か変わりはないか?って意味なのか……。
頭の中で質問の意図を探っている間も駅長の顔の位置は全く変わらず、まばたき一つしない。
「えっと、はい、琴似です。特に来た時から変化はないです」
仕方なく両方答えることで解決した。駅長はそのまま暫く同じ状態で僕を見ていたが、目の前に顔を突き出してきた時と同様に唐突に僕から離れた。
そして今度は穂ちゃんの顔の前まで首を伸ばした。
「キクスイ ミノリ カワリナイカ」
穂ちゃんは慣れているのか、特に驚く様子も無く、質問にも「特に変わりはありません」と答えた。
皆に同じ質問をするのかと思ったが、晶子さんと朱里さんには何もせず、「モウイク モンダイ オコスナヨ」と言って待合室から出て行った。
「何だったんでしょうか?」
「あれな。ああやって見回りしては、顔面ガン見で質問してくるんだよな」
朱里さんでも駅長のあの行為の真意を知らないのか。
「私、あれやられたことないんだよね。朱里さんは?」
「晶子はないのか。私は一時頻繁に聞かれてたな。志乃も毎回やられてるらしいぞ」
「何か駅長なりの基準があるのかもしれませんね」