4話 奉納祭
日常回。話の進展は一切ありません。
授業が開始されてから初めての休日。朝食を終えた5人の少女がルメールの街にくり出す。空は若干雲が多いが雨などは降っておらず、まあまあ良い天候と言えるのではないだろうか。
祭りということで道行く人は普段より多く、道際には大きなテントの露店が列をなしており進む事が困難であった。奉納祭の開始時刻まで露店を見て回ろうということで、ゆっくりと散策を始める少女たち。朝食を食べたばかりだというのにパンケーキや飴、クレープやワッフルのようなものなど食べていた。
「美味しいです。」
「甘さと香り、それに口の中に入ると溶けるような柔らかさが素晴らしいですわ。」
「甘い…おいしい…もっと。」
「ほっぺたが落ちそうだよ~。」
「あ、甘いものは嫌いじゃないわよ!」
女性にとって甘ければ(スイーツであれば)別腹らしいのは日本でもこちらでも変わらないのかもしれない。
歩いていると、ある露店で目が止まったのか立ち止まる。エリーヌの見つめているものは丸く柔らかいスポンジのような物体が紐で出来た網に包まれており、網からは20~30センチほどの持つためだろう紐も伸びている。
その露店には他にも何かの薄い皮で作られた指より少し大きいくらいの細い袋や硝子で作られた突起状のもの、管の太い輪などの何に使うのか分からない珍しそうな物が沢山置かれていた。
「これは匂い玉でしょうか。甘酸っぱい良い匂いがしますね。」
エリーヌがそう言うと連れ合いの4人も香りを嗅ぐと気分の良さそうな顔をしている。
『あれだけ甘いものを食べたのに、まだ甘い匂いに釣られるって女の子は恐ろしい…。』
露店の奥に座っていた太っている商人のおじさんが表情をニヤリとさせてエリーヌたちに近寄ってくる。
「いらっしゃい。お嬢ちゃんたちはソイツを気に入ったのかい?」
「はい。これは何の匂いなんでしょう?」
人間は興味の尽きない生物だ。疑問を持てば気になるのはエリーヌも変わらない。
「そいつはレモンと蜂蜜を合わせたものだよ。殺菌効果があるとされていて、ある種の人にはよく売れるのさ。」
エリーヌたちは関心したような顔をして、店主の殺菌効果という言葉に医者などが使うのだろうかと考えていた。
「ただ、お嬢ちゃんたちには早…いや、もう使っても良さそうな年頃かもしれないな。」
商人が顎に手を添えて悩んでいる。
「お医者様が使うのではないのですか??」
「これは医者も使うが、基本的には個人で使う道具だよ。使い方を知らないのかい?」
エリーヌの疑問に答えると、商人もさも当たり前のように聞いてくる。
「知りません。」
「知りませんわ。」
「知らない…。」
「判らないよ~。」
「知らないわよ。」
五人の少女が一斉に答えると商人が再度困った顔になったが、何かを閃いたのか笑顔になる。
「じゃ、実際に使ってみるかい?」
その5人が頷くと「恥ずかしいだろうから、外から見えない店の中に行こうか。」と商人に言われ、外からは見えない天幕の中へ連れられた。
「それで、コレを使うにはパンツを下ろしてもらう必要があるんだ。」
そう告げる商人の手には紐が掴まれており、紐の先には先程エリーヌたちが嗅いでいた甘酸っぱい香りのする柔らかい玉がぶら下がっている。
「えっ…パンツを下ろす必要があるんですか?」
驚きの顔をするエリーヌたちを見た商人はいやらしい顔をして涎を若干垂らしていた。
「あるんだ!さあ、脱ぎたまえ!!早く早く!」
理由を告げずに商人はエリーヌ達を急かすと、無知なのか羞恥心がないのか、それとも押しに弱いのであろうか、フラヴィとフレデリークにリーズはパンツを膝上まで下ろしていた。
「そちらの娘たちはいいね。早くこちらに来なさい。…子作りの演習をしてあげよう!!!」
商人の言葉にベルティーユとエリーヌは顔を漫画のヤカンのように顔真っ赤にする。
にやけた顔の商人はいやらしく指を動かし近寄ってくるので、ベルティーユとエリーヌの二人は商人を突き飛ばしてからフラヴィたち三人のパンツを無理矢理引き上げて穿かせると腕を引っ張って外へ逃げ出したのだった。
『あ…うん。そういうお店だったのか…』
店を出て改めて見直すと避妊具のお店であったのが看板で確認できた。慶太はこの世界にもそういうのがあるのかと関心していた。
うら若い少女が5人も来て商品の使い方を尋ねられたら、商人も性欲が刺激されてしまうだろう。
自業自得とはいえ商人さんが少し可哀想に思えてきた。
「なんでお店から出たの~?折角、親切なおじさんが教えてくれるところだったのにー。」
「知らなくて結構ですわ!はぁ…貞操の危機かもしれませんでしたのに…」
「貞操?…さっきの…道具?」
『…知らぬが仏なんだろうかね。』
エリーヌは若干困った顔を浮かべて苦笑いをしていたのだった。
そんなことをしているうちに祭りの始まる時刻になっていたらしく近くにある広場へ向かう。辺りは…人。人。人。人。人。人。人だらけだ。見渡す限り広場は中央を囲うように人で溢れていた。
中央には人間や動物の形を模した山車のようなものを体格の良い男たちがロープで引っ張り、その前後にはヒラヒラの服を纏った女性が踊りながら歩いている。奉納祭というだけあって、神様か何かにこの出し物を捧げているのかもしれない。
山車が広場を何周かしたくらいであろうか、観衆は樽のようなものを掲げて山車に向かって投げ始めたのだ。中には建物の中からや屋上から投げている輩もいる。
『えっ?』
沢山の樽は山車に当たると色のついた液体が漏れ出して辺りを浸していった。それでもまだ終わらない。長い時間に亘り山車を壊さんばかりに樽を投げつけ、樽の中身はお酒であったのか…辺りはアルコールの匂いで包まれている。
広場がお酒の海と化した頃に山車に火が着けられて山車が高く燃え上がる。他にも山車があったのか町のあちこちから大きな炎と煙が上がっていた。そんな様子を見ていたのだが、炎は何故かお酒にまで広がってきたのだ。アルコールの純度が高いのだろうか、広場に火の海が広がっていくと周辺の男たちは服を脱いで素っ裸になり火の海へ駆けて行く。対して女性は自分の衣服を可能な限り脱ぐと火に投げ込んで燃やしていた。
ちなみに男たちの股間は女性のように白く靄がかかっていなかった。マンモスさんがぶるんぶるんとしているよ。
『どういう祭りだよ…。』
「献上物を燃やして天界にいる豊穣の神に捧げるという祭りですよ。燃やしたものが多い者程、その年は幸福になれると言われてます。」
しばらく辺りを見ていると変態行為に励んでいる男を確認する。尻の穴に酒瓶を突っ込んで酒を体内に注いでいるようだが、ケツに火をつけようとしているのだろうか。
『こうもんで遊んではいけないと思うんだけど…アレも幸せになれるのかな?』
変態男を示すようにエリーヌに尋ねた。
「えっ……し、知りません!」
『尻だけに?』
「違いますっ!」
男の行く末を見守る前にエリーヌたちはその場を後にしたのだった。
山車が燃やされるのは祭の序章でしかなかった。そう…街の中央にある公爵邸を囲むように通された広い通路にはあらゆる料理が並べられており、それが食べ放題だというのだ。
野菜と果物は春に取れるものだけなのだろうか少なめだが、穀物系は貯蔵しているのかパンやトウモロコシらしきものは量が多いし米もそこそこある。それと肉はラム(子羊)とカーフ(仔牛)、豚と鶏は若い肉ではないようだが沢山ある。川魚もナマズの大きなものや、鯉のようなものまである。日本的な料理は見当たらないが、どれも目移りするほどの料理だった。ちなみにケーキ等のスイーツは置いてない。
今度は炎ではなく腹に収めて神を祝おうというのか?否、単に大食い大会のようだった。一皿に500グラム以上盛るのがルールらしい。
エントリーを済ませるとエリーヌたちも並んで椅子に座る。合図と共に大食い大会が開始されると集まった人々は料理を貪っている。始まって30分も経つ頃にはベルティーユとリーズは満腹になったようでギブアップ。
「この料理は出来損ないですわ。シェフを呼んでらっしゃい!」
ベルティーユがどこかの美食倶楽部の息子のようなことを叫んでいるが「十分食べているじゃなイカ!」と物申したくなる。
そんな発言など気にせずにエリーヌとフラヴィ、フレデリークの三人は今迄抑えていた食欲を開放するかのようにガツガツと食事を続けていた…。12皿も行くとフレデリークはギブアップしてしまう…がお腹は妊婦のように膨れていて腹を押さえながらトイレへ向かっていく…大丈夫だろうか。
(元気な子を産めよ。うん…子どもはいい。う○こだけに。)
食べ始めて2時間も経つ頃、辺りは死屍累々と言った方が良いほどうめき声を上げて倒れる人が後を立たなかった。それでもエリーヌとフラヴィは食べ続ける。優勝でも狙っているのだろうか。
審判らしきおっちゃんがやってくると残り5人になっているそうだ。エリーヌは32皿、フラヴィは31皿と化け物じみている…重さで換算するとエリーヌが16キロとフラヴィが15.5キロだ。日本でそこまで食う大食いなど見たこともない。この世界の人々は化け物揃いなのだろうか…。
さらに一時間。その頃にはフラヴィは35皿でギブアップした…終わってみれば小さい身体に17.5キロであるから十分に怪物だ。
エリーヌは41皿目を食べているが勢いは衰えない…私の胃袋は宇宙だと云わんばかりだ。次いで39皿を食べているのが地元のおっさん…かなり苦しそう。あと残っていたらしい後の二人は33皿と31皿でリタイヤしたようだ。
『優勝は近いぞ!頑張れエリー!…ただ勝ってもあまり嬉しくない。』
そう優勝賞品は地元野菜一年分というものなのだ。学校で全ての食事を賄っているエリーヌ達にとって恩恵の大きい商品とは思えない。だが食べ続けるエリーヌ。モリモリ食べる。食う子は育つ。
やがてライバルのおっさんが力尽きた。優勝はその瞬間エリーヌになったのだが…エリーヌはまだ食べ続ける。何でだ…勝ったんだぜ?わけがわからないよ。
暫く審判と観客共々がエリーヌの食事姿を眺めて待っていると、やっと腹が落ち着いたのか食事を終えて口を布巾で拭うと両手を挙げてガッツポーズをとる。まるでアタックなんたらとかいうクイズ番組で見たコ○ンビアだ。
「しゃー!おらー!!」
(キャラが壊れてる!!)
結果は優勝エリーヌ、最終的に45皿も食べていた…。二位は街のおっさんが41皿、三位はフラヴィは35皿、四位はどっかのおばちゃんが33皿、五位ガチムチのおにいさん31皿。賞品も全部食材で順位で量が変わるだけ…という手の抜きようだった。
終わってみればリヤカーを借りてエリーヌとフラヴィの商品である大量の食材を引っ張っている。
『これどうするの?』
山のように積まれた食材の使い道について質問してみる。
「孤児院に持っていくんですよ。」
慈善事業をしているとは恐れ入った。『エリーたちは孤児院の子供らのために頑張っていたんだね!』と言うと…「いえ…お腹が空いていたので…」と返されてしまい空いた口が塞がらなくなってしまった。――だって、大会前に散々スイーツを食っていたんだもの!
孤児院に食材を届けるのも単なる残飯処理みたいなものなのだろう。豚になれ孤児院の子供たちよ。
それから孤児院に行って食材を届けると「毎年ありがとうお姉ちゃん!」と可愛い子供らが言うのである。毎年?と疑問に思ったのだが、小心者の俺には恐ろしくてエリーヌに尋ねることなど出来なかった。
そうして騒がしい祭りを終えた一行であった。
フレデリークはツンデレ台詞の練習用に追加したんですが、台詞を考えると作業が止まる厄介なものでした。
この作品自体が練習用ですが…