2話 転機
室内は広くで壁には壁紙が貼られており天井からはシャンデリアが下げられ、床は綺麗に磨いた木板が張られている。
その部屋には一人の女性が高級そうな机に向かい職務に励んでいると、突然ドアのノックされる音が室内に響く。
「誰です?」
そう答えるのはその部屋の主である女性。
「カロルです。オーバンさんも同行しております。少し学長にお話したいことがありまして参りました。」
「分かりました入りなさい。」
入室の許可を貰うとカロル、オーバン、エリーヌが女性のいる室内へ入る。魔宝技の授業を終えたカロルたちは直ぐ様その部屋へ訪れていたのだ。
女性の身長はエリーヌより高く、髪は胸の辺りで縛り前に垂らしており、顔には細い半円状のレンズをした眼鏡をかけている。年齢は20~30代であろう外見をしている。胸元が開いたスーツのような服装をしていて色っぽい。名をミシェル・レリア・ルメールという。この街の領主であるルメール公爵家の血筋で現学長らしい。
「それで今回は何の用事?」
ミシェルが尋ねるとカロルが魔宝技の授業で起こったことを説明し、彼女はそれを黙って聞いている。
「半刻前に上空に浮かんでいた水は貴女の出したものだったのね……。あれには驚かされたわ。それではエリーヌさんがあの異常な程の魔宝技の技量を見せたということでいいのね?」
カロルとオーバンは頷くが、エリーヌは少し俯いてしまう。授業で見せた実力は自分のものではなく、宝石に宿っている慶太の力であったからだ。
「それでは、手始めに魔宝石を見せてもらえるかしら?」
エリーヌは腕を上げて腕輪に填められている宝石が見えるようにミシェルに近づく。すると女性は宝石を食い入るように見つめていた。
「宝石――オニキスかしら…それ自体は他のオニキスと代わり映えしたものではないみたいだけど。…ただ、魔光が変わった色ね。」
「特殊な魔光ですが、それだけではあのような巨大な魔宝技を使うことはできないでしょう。私は神童の再来なのではないかと考えております。」
神童とは300年近く前にアルメニア神興国に現れた救国の英雄らしい。未だにアルメニアが宗教国として周辺国に根強い影響力を持っているのはその神童の行いにもあるのだそうだ。
「大きく出るわねカロル。だけど…あの魔宝技を見るにその位の扱いでいても良いのかもしれないわね。3年生ということだから、このままのカリキュラムで行くと成長を遅らせる可能性もあるわ。」
ミシェルは暫く考えると何やら思いついたのかポンと手を叩く。
「こうしましょうか。特例として魔宝技の個人練習の許可、あとは上級生の実施訓練の際に参加してもらうこと。…オーバン。実施訓練中に欠席する授業を公欠扱いすることはできるわね?」
「学長は無理を言われますな…。しかし生徒のために便宜を図れというのなら指導員として受け入れるしかありません。生徒の成長を阻害することは指導員として失格ですからな。」
一介の指導員であるオーバンには学長であるミシェルの言葉に苦笑いで返答することしかできなかった。
「それと二ヶ月後に4校共同の闘技大会の選抜会が行われるので参加してもらいましょう。その成績次第では傭兵組合の参加許可を出します。傭兵組合は危険も多いけど実践経験も積めるわよ。」
年に一度、ユベールの各地方にあるルメール騎士学校、デュカス聖騎士学校、セントポーリア魔宝学園、マリュス海兵学校の四校の実力者が一所に集まり闘技大会を行うのだそうだ。トーナメント方式で勝ち残った者は後に騎士として上位の階級につける可能性が高くなるそうだ。
傭兵組合は一般的に14歳以上なら誰でも参加可能であるが、戦場に駆り出される場合は捨て駒のように扱われることが多くとても危険なのだという。高ランクになると騎士になる権利を与えられることがあるため、平民から成り上がりたい者などはお金の掛かる騎士学校に通うよりも傭兵を選ぶ者が多い。
また、その権利を使って騎士になり、後に爵位を賜ったのがエリーヌの祖父であるそうだ。
「学長!3年の彼女には選抜会は少し荷が重いかと。傭兵組合も14歳以上、且つ4学年以上の者ではないと参加できない決まりですよ。」
そう告げるオーバンを呆れたよう見てため息をつくミシェル。
「古い決まりに縛られていては新しいことはできませんよ?お爺様かその祖先かは知りませんが時代にあった教育方針というものがあります。」
無理やりに納得しようと面相変えながらオーバンは唸っている。
「じゃあ今回はこの位でいいわね?何かあったらまた来なさい。」
会話を終えたオーバン、カロル、エリーヌの三人は学長室を後にするのだった。学長室を出た後オーバンに職員室に同行を求められてついていくと、そこで魔宝技の訓練証となる金色のバッジを渡され晴れて魔宝技の訓練が自由となったのだ。
バッジはゴールド、シルバー、ブロンズのランクがあるようで金色のゴールドランクは一人でも練習が可能なようだった。その後職員室を出て指導員の二人と別れたエリーヌは授業が既に終了していたのでそのまま女子寮へ向かうことにするのだった。
「凄いことになっちゃいました…。」
『すまないとしか言えないよ…でも、魔宝の練習が自由にできるのはいいかもしれないね。』
寮の部屋に入るとベルティーユ、フラヴィ、リーズの三人が楽しそうに話しているのが見えた。入室したエリーヌに気付いたのかフラヴィが声をかけてくる。
「呼び出し食らったんだって~?」
「はい。学長と話をしてきましたよ。」
学長室であった出来事を三人に話していく。フラヴィは羨ましそうに、ベルティーユは少し嫉妬のような、
リ ーズは普段通りとそれぞれの面相で話を聞いてくれている。
「魔宝技の訓練が自由にできるのは羨ましいですけど、選抜会に参加するのはご遠慮したいですわね…。」
「なんでー?楽しそうじゃん。それとエリーの魔宝が凄いっていうから見てみたいかな~。こっちはまだ授業が始まらないしさ~。」
「水…とっても…大きかったよ。」
エリーヌは素の自分を褒められているわけではないが、やはり友人だと違うのだろうか笑顔のままだ。
「練習の許可も貰っていますし訓練場で魔宝技を見せましょうか?」
三人が無垢な瞳を輝かせてエリーヌを見てくる。まるでお気に入りの人形を眺めている少女だ。
「間近で…見てみたい…かも。」
「わたくしも見てみたいです!」
「私も~私も~!!」
『エリー!?……いいの?』
エリーヌが了承したのか頷くと3人を連れて室外の訓練場へ向かう。辺りは既に夕日に染まっており少々視界が悪い。
「授業と同じ魔宝技でいいですか?」
訓練場でエリーヌが三人に尋ねる。
「ん~。できれば明るい火とかが見やすくていいかな~。ちょっと薄暗いしさ~。」
「わたくしは授業で使ったもので良いですわよ。」
「凄い…魔宝なら…なんでもいいよ。」
三者三様の返答を聞くとエリーヌは少し考えて慶太にどんな魔宝技を使うか相談してみることにした。
「サトウさん。どんな魔宝技なら使えそうですか?」
『う~ん…。授業で使ったものなら分かるけど…他のものは使ったときもないし危険かもしれないね。それに使う言葉もどんなのがあるのか分からないしねぇ…。』
「では授業で見せた"アクア"と出来そうなら火の魔宝技"ファイア"も使ってみませんか?」
(エリーヌさんは俺に対して無茶を要求なさる。だが、やってやろうじゃないか!!!)
エリーヌがその気であるならば、と慶太は意気込んだ。
『よし、両方やってみようか!しかし順番は火からやろう。水をあとにしておけば火が燃え移った場合の消火の手間が省けるしね。』
慶太の発言にエリーヌは頷く。エリーヌに両手を前に向けてもらい火をイメージする。
(ちょっと試したいこともやってみようかな。じゃ…集中しよう。火は高熱……勢いよく燃やすなら酸素を…大量に…。)
『メ○!!』
「えっ!?ファイア!」
エリーヌの5メートル先に小さな火が灯る。ライターで点けたような火が…。
「随分小さい火だねー。失敗かな~?」
その小さな火は数秒経つと急に青色に変化し、直ぐ様大きな音をたてながら爆発したのだ。
爆発に巻き込まれた四人は数メートル吹き飛んで転がっており、全身が黒くなり髪もくしゃくしゃに乱れてしまっていた。
『えっと………ごめん。違う言葉でも魔宝技が使えるか試したかったんだ…。』
慶太の本音を語るなら「今のはメ○ゾーマではない…メ○だ」をやりたかっただけなのだが、残念なことにイ○系になってしまった。
しかし"ファイア"以外のいい加減な言葉で火を発生させることはできたので一つの試行は成功したとも言えるだろう。
「エリーヌさん!爆発しましたわよ!ちょっと酷いじゃありませんか。」
ベルティーユは前転を途中で失敗したかのような体勢で、スカートがめくれあがり"パンツ丸見え"な状態で怒っているが、少しちびっていて迫力を感じない。ちなみにパンツの色は白だ。
「…ちょっと痛い…。」
リーズは真っ黒な顔をしていて地面にうつ伏せで寝転がり、ジト目でこちらを何とも言えぬ表情で見てくる。
「火が爆発したよぅ~…。火…こわい。」
普段は元気なフラヴィだが、横向けに転倒したまま涙目だ。
「ゴメンなさい…。」
地面に仰向けに倒れていたエリーヌは上半身を起こして三人に謝罪していた。全身がヒリヒリするが、吹っ飛んだとき地面に打ち付けたのか特に尻が痛い。
それから皆に魔宝技を披露するのは練習を積んだ後にということになり、4人は汚れを逸早く落とすため女子寮にある風呂場へと急ぐのだった。
「身体がヒリヒリして痛いですわ…。」
全裸のベルティーユが浴場の洗い場で先程の魔宝の件で愚痴を漏らす。リーズとフラヴィの二人は湯に浸かり身体を癒している。
ベルティーユはエリーヌに身体を洗われているがエリーヌにしてみれば謝罪も兼ねて三人を洗うつもりらしい。背中が粗方洗い終わると前に手を伸ばして優しく腹部そして、胸部を洗っていく。エリーヌの手から時折感じられるベルティーユの柔らかな感触が非常にけしからん。
『なんというか…御免と同時にありがとう。できればベルちゃんのおっぱいを念入りに洗ってあげて欲しい。』
エリーヌは少し怒っているのか、ベルティーユの胸をそれ以上洗わずベルティーユの前に移動すると腕や足を念入りに洗うことにしたようだ。そうなると必然的にベルティーユのあられもない姿が丸見えなのだ。
『股間は相変わらず白くて見えないけど。ベルちゃんのおっぱいは美乳と言ってもいいかもしれないね。乳首も綺麗なピンク色で素晴らしいね!』
その言葉を聞くとエリーヌは途端に石鹸の泡をたててベルティーユの胸へ塗りたくる。
「ちょっ!!!!エリーヌさん!?一体何ですの???」
「あっ!……ごめんなさい。」
慶太にあてつけた行為だったのだが、ベルティーユに怒られてしまいエリーヌは気落ちしてしまう。
「えっ!……ほ、本気で怒ってるわけではないのですわ。…ただ、わたくしの身体で遊ぶようなことをして欲しくないわけなの。」
そう告げても変わらぬエリーヌの様子を見かねたのかベルティーユはエリーヌに戯れるように身体を接して色々な部分を洗ってくる。
「ええいっ!こうですわよっ!…ふふ。降参するまで逃がしませんのよ!!」
「あっ…だめっ……ひゃん!!」
『あっ…!そこはっ…ら、らめぇぇぇぇぇ!!!何て…敏感なのっ!この…身体はっ!!!!!』
ベルティーユの柔らかい手や太腿の感触さらに大好物の胸の感触により、慶太は汚い喘ぎ声を上げながらソー○ランドってこんな感じなのかな…という感想を述べるのだった。
「洗いっこしてるの~?私もやるよー!」
「うん。洗いっこ…する。」
先程まで湯船に浸かっていたはずのフラヴィとリーズの二人もそこへ突如参戦してくる。
『お、お許しくださいお代官さま~!!!あっ、ああっ~!!』
慶太は汚い声を叫びながら女の子同士の洗浄という戦場で様々な感触を味わい、歓喜のあまり昇天してしまうのだった…。
後に石鹸の泡で酷いことになった洗い場を掃除するのが大変だったことは語るまでもない。
其の時、慶太は全身から感じる快楽に夢中で、触覚が胸限定ではなくなっていることに気付いていなかったのだった。
無理矢理感が否めない。