1話 学校 ◆
学校に到着してから数日後、グラウンドにクラス編成の張り紙が出されていて大勢の人だかりができていた。1、2年生の時は寮の部屋割りとクラス編成はほぼ同じであったらしいが、進級によってクラス編成が変更されるため自分がどのクラスに振り分けられるか各々が確認するためだ。
エリーヌも自分のクラスを確認しようと思っているが、あまりの混雑ぶりに一向に進むことができない。
「こんなに群がって…蟻じゃありませんのに。」
そう言ったのは寮で同室のベルティーユ。身長はエリーヌより高く、やや青みがかかった銀色の長髪にヘアバンドをしていて胸はそこそこある。
性格が少し尖がっている印象を受けるのも男爵家の――歴とした貴族様だからかもしれない。
「そうは言っても…皆早く確認したいだけ。」
ベルティーユと同じく女子寮で同居しているリーズだ。背丈はエリーヌと同程度、やや桃色の入った黒い髪は肩より若干下まで伸ばしていて、年齢は12歳。胸についてはフラヴィより若干大きく、口数の少ない大人しい少女だ。
エリーヌと同じ士爵家の生まれで一人娘のため騎士学校に通っているそうだ。
「皆せっかちだよね~仕方ないな~。」
活発な印象を与えるショートヘアに髪飾りをつけた少女――フラヴィは他人事のように口にしている。
「自分のクラスがどこなのか知りたいですからね。」
エリーヌたちが四半刻も待っていると人が少なくなってきたので、張り紙に書かれている自分の名前を探していく。
「私はGクラスだー。誰か一緒じゃない~?」
フラヴィは逸早く確認したようで、期待を寄せた顔をして三人に尋ねてくる。
「わたくしはBクラスですわね。」
「Fクラス…みたい。」
「私もFですね。」
ベルティーユ、リーズ、エリーヌの三名も自分のクラスを確認したのか順に答えていく。どうやら、エリーヌとリーズ以外は別クラスになったようだ。
「誰も一緒じゃないのは寂しいなぁ~…。でもベルたんはBクラスなんて凄いねー。」
「そ、そうでもないです。…才能があってこそですわ。」
フラヴィの言葉にそう応えるベルティーユだが顔は真っ赤だ。褒められると動揺しているのが手に取るように分かる。――気が強そうな外見と違ってチョロそうだ。
どうやら3年生のクラス編成は成績の順にS、A、B、C、D、E、F、G、H、Iの十クラスに別けられているようだ。
教室の並んだ廊下でベルティーユとフラヴィの二人と別れた後、エリーヌとリーズは三年のFクラスに入る…とそこは多くの生徒たちがそれぞれに談笑していた。話しているうちに仲良くなったのかもしれないし、元々同じクラスだったのかもしれない。
そんな騒がしい教室内の空いている席へ二人は座ると大人しく教員が来るのを待つのだった。
「皆さん静粛に。…これから一年皆さんの主指導員となりますオーバンです。以後よろしく。」
頭がバーコードで、縁の目立つ丸眼鏡をかけた中年の男性が教壇に立つと軽く自己紹介をして、これからの説明を始めていく。
三年生になったにあたって魔宝石の実技を中心にしていく様で、その準備もあり各々魔宝石を準備しているかの確認をして、魔宝石を所持していない者などは学校側から低等級の物を貸し出ししているようだ。
(魔宝石の貸し出しがあるのかよ!と思えば…無くせば退学とか…厳しいね。)
それから新たなクラスになったということで自己紹介などを始めている。改めてクラスを見渡すと男性比率が高い。寮の2:1という比率よりも男性が多い……酷い。何人か性転換してこいと考えてしまうが、それだと元男であってあまり意味がないような気もした。
「自己紹介ってどうすれば良いでしょう?」
自己紹介の順番が近づいてくるとエリーヌが小声で尋ねてきた。どうやら大勢の前での自己紹介は初めてのようだ。慶太は会社の面接で何度も使ったテンプレを思い出しながら教えていく。
『俺の知ってる妥当な自己紹介は始めに挨拶からの名前、年齢、出身地、趣味、特技と締めの挨拶かな。最初と最後の挨拶はできるだけ丁寧にやると印象がいいよ。』
エリーヌが頷くとすぐに自己紹介の順番が回ってくる。エリーヌは立ち上がり自己紹介を始める。
「はじめまして。本日より皆さんと一緒に学ばせていただきますエリーヌ・ジェスタです。現在は13歳で出身はバルト領です。趣味は読書や食事でしょうか…特技はありません。慣れるまで皆様にご迷惑を掛けることもあると思いますが、出来る限り努力しますのでよろしくお願いします。」
エリーヌは自己紹介の挨拶が終わると着席し、緊張していたのか大きく息をついている。慣れないことをして疲れたのであろうと考えた俺は労いの言葉をかけておく。
『上出来じゃないか…。これでエリーの面接レベルが上がったね。ただ気になったのは男子生徒の視線がエリーのお乳に集中していたことかな。』
俺がそう告げるとエリーヌは俯いて胸を両手で覆い隠していたのだった。――ここ数日の俺の行為で羞恥心が芽生えてきたのかもしれないね。
それから他の自己紹介も聞いていたのだが、慶太の教えたは方法は丁寧すぎたようだ。例えばリーズは――。
「リーズ…といいます。これから…よろしく。」
とても短い…エリーヌに教えたテンプレが社会人向け過ぎたかも知れないとエリーヌに心の中で謝罪した。
自己紹介が終わると本日は解散らしくクラスから開放される。初日は授業は無いようだ。異世界の授業というものに少しばかり興味を抱いていたので肩透かしを食らったのだが、明日の楽しみの一つとして期待しておくことにした。
「エリー。…寮に戻る?」
「ベルティーヌやフラヴィの教室に行ってみません?」
「それも…面白そうでいいかも?」
エリーヌの言葉にリーズも思うことがあったのか、二人はまず教室の近いフラヴィのクラスに行くのだが…
「フラヴィ居ないね。」
「…居ないね。」
『重要なことなので二回言いました。』
そんなわけではない。フラヴィが教室にいないと知って諦めた二人は、ベルティーユの教室へ行くと、そこには一人寂しそうにポツンと座っている少女がいたのだ。
辺りには、同じクラスであろう生徒たちがそれぞれ雑談を交わしており騒がしいくらいなのだが、寂しそうなにしている少女――ベルティーユを見るに何かあったのかもしれない。
「ベル…俯いてどうかしたの?」
「あら…リーズさんにエリーヌさん。そちらも本日は終わりましたの?」
「はい。先程。それでベルティーユは俯いてましたけど…何かあったの?」
「ええ。聞いてくださるのですか?…わたくし、とんでもない失敗を犯してしまって…。」
ベルティーユの話を聞いていると自己紹介で盛大に噛んだだけらしい。気が強そうな外見をしているのに実際は気が弱すぎるようだ。
二人はベルティーユを慰めてから三人は寮に戻ると、室内ではフラヴィが私服に着替えていて三人を待ち構えていた。
「おっそ~い!遅すぎる。何やってたの!こっちは一目散に戻ってきたのにさ~。お腹も減って激おこぷんぷん丸だよ!」
(何故そんな言葉を知ってるんだ!)
そんな疑問もあったが、もうお昼の時刻も過ぎているのだ。フラヴィは空腹でイラつきを抑えきれないのであろう。
そんなフラヴィに急かされ食堂へ向かう一同は女子会のような雑談をしつつ上機嫌に昼食時間を過ごすのだった。
――始業から二日目。本日から本格的に授業が始まる。
本日最初の授業は数学だった。簡易テストを行うということで配られたテスト用紙をみていると…数学ではなく算数であった。慶太は激しく動揺した。年齢が統一されていないとは言え、中学生付近の歳の子たちが必死に掛け算や割り算を行っているのだ。だが、慶太は考え直した。地球にも国や地域によって学業レベルの差はあっただろう…と。エリーヌは数学的なものは苦手なのか必死に考えている。助け舟を出していいものなのか判断に困ってしまうが、初日くらいいいだろうと判断し解答を教えてあげた。
『9×3は27だよ。次の解答は21…銀貨21枚と大銅貨63枚を3人で分けると一人銀貨7と大銅貨21。』
エリーヌは少し考えた素振りを見せるが、慶太に甘えることにしたのか、言われた通り試験用紙にペンを走らせていく。
(これってカンニングになるんだろうか。)
数学の試験が終わると、休憩の時間にエリーヌが小声で話しかけてくる。
「サトウさんは商人をされていたことがあるのですか?」
『えっ。商売なんてバイトすらしたことないけど…何でそう思ったの?』
「とっても計算が早かったですし…大人の方でもあそこまで早くないかと。」
『…俺の世界じゃエリーヌの半分くらいの歳の子がやるレベルだよ。まあ、今回は初回サービスということで次回から自分でやるように。』
エリーヌは頷きつつも驚いていたが、慶太は凄いことだと一欠けらも思ってもいないので、エリーヌの受けた衝撃を理解できるはずがなかったのだ。
次は語学の授業だ。国語みたいな授業で、本を読んでいる生徒の声が子守唄ようで欠伸が出てしまう。
その次は刑法学。窃盗が絞首刑だの詐欺が釜茹で刑だの危ない宗教のように延々と唱えている。寝ていても睡眠学習できそうな授業だった――。
「んぐっ…二人とも遅いよ~。」
「そうです。待ちくたびれましたわ。」
午前の授業を終えたエリーヌとリーズが食堂に行くと、席を確保して待っていたフラヴィとベルティーユが不満の声を上げていた。フラヴィは既に食事を食べ始めていたが、ベルティーユは食事に手をつけた様子もなく律儀に待っていたようだ。育ちの違い故だろうか…。
四人が揃って食事を始めると今日の授業についての話題になり、ベルティーユのBクラスは午前に魔宝技(魔宝石の実技)の授業を受けていたらしく鼻を高くして自慢していた。フラヴィのクラスはエリーヌたちと同じく魔宝技の授業はまだのようで、少し悔しそうにベルティーユに愚痴を溢していた。
そんな話題から、何時の間にか指導員の男性が禿だとか、クラスの男子がデブだとか、不細工だとか…容姿に恵まれていない慶太としては辛い話題になり、女子って恐ろしいと思うのだった…。
辛い(意味深)昼休みが終わり、次は楽しみにしていた授業の一つである魔宝学だ。教壇に指導員のオーバンが立つと授業が開始される。まずは前学年での復習から行うようで本を読み内容を述べていく。
魔宝石のランクはS、A、B、C、D、E、F、Gの8段階あって等級によって効果が跳ね上がったり、体力消耗の効率がよくなったりとあるようだ。
ランク以外にも、宝石により特殊効果があったり、宝石の光る色――魔光によって得意系統が分かれているんだとか。
特殊効果は、例えばアクアマリンだと水系統現象の効果が向上したり、水場だと魔宝技の効果が跳ね上がる効果を備えているらしい。
魔光は青、紫、赤、橙、黄、緑、白があり、青色なら対象の身体能力を向上させることに秀でていて、紫色なら物質を硬くしたり、赤色なら超常現象を引き起こすことに特化しており、橙色は熱や電気などを生体や物質に付与するのが得意で、黄色は物質を動かす…念動力、緑色は物質や生体を様々なものに変質させ、白は全系統が得意なのだがSランクのダイヤモンドでしか確認されていないそうだ。
あと、得意系統でないと消耗が激しく大変なんだとか。そういえば、アランが野盗との戦いで素早い戦闘をしていたが、魔法っぽいことは他にしていなかったなと思い出していた。
ちなみに俺の宿っているオニキスはDランクで特殊能力は次元嚢――所謂、四次元ポ○ットと、多重詠唱とのこと。次元嚢に吸い込まれて今の状態になったのかと疑問に思いエリーヌに聞いてみるが生体は収納できないのだそうだ。多重詠唱も体力が許す限り何重もの魔宝技を行使できるというぶっ飛び具合。そんな優れた二種の能力を備えているため士爵が手に入れることは極稀なのだそうだ。
『俺の魔光は何色なんだろうね。』
「赤黒く見えますし、赤に分類されるのではないでしょうか。」
『ってなると…超常現象を起こすことに特化しているのか…胸が熱くなるな。』
魔宝学の授業を終えると次は授業は楽しみにしていた魔宝技の授業だ。室外訓練場へ移動すると周りには数人の指導員らしき人たちが立っている。生徒たちが訓練場に集まると最初は魔宝石の魔光による得意分野毎にグループ分けを行うようで、指導員のオーバンが魔光を強く発するように指示すると、生徒たちがそれぞれ呪文を口にし所持している宝石が光を放つ。
エリーヌの腕輪にあるオニキスは赤黒い淀んだ光を放ち、リーズの魔宝石――杖に填められた碧いラピスラズリは黄色い霧のような光を纏っているので、二人は違うグループになりそうだ。
「リーズ君は黄色だね。5番のグループへ行くように。…次、エリーヌ君は…これは…初めてみるが、赤なのだろうか…とりあえず3番のグループへ行きなさい。」
オーバン先生が思わせぶりな言葉を口にするが、エリーヌは気にした様子もなく3番グループの集まるところへ移動する。
グループ分けが終わると各班に副指導員が付いて指導を行うようで、3番グループの担当は20代中頃の身長の高いモデルのようなスタイリッシュな女性だった。今夜お食事でもどお?と誘いたくなる。
「これから君達の指導を行うカロルだ。早速だが、赤色の魔光で集まってもらった君達には具現系魔宝技の行使をしてみようか…まず、初歩的に水を呼び出してもらう。水を集めるイメージを固めてから"アクア"と叫んで貰えばいい。」
カロルの言葉を聞くなり、生徒たちがそれぞれ叫ぶと拳程度からサッカーボール大の水の塊が発生していた。
『おおー!!!すげええ!!!!水不足もこれがあれば解決だぜ!!』
慶太が喜んでいるとエリーヌも"アクア"と言葉を発してサッカーボールよりやや小さいサイズの水球を発生させる。エリーヌの息は少し荒くなっており思ったよりも体力の消耗は激しいのかもしれない。
『エリー。俺もできるか分からないけど、やってみていい?』
「はぁ…はぁ……はい。いいですよ。」
エリーヌの許可を貰うと俺は即座に水を呼び出すためイメージする。水は…化学記号でH2O…空気中の水素と酸素をありったけ集めて結合する感じだろうか…。
さらにイメージし易くするためエリーヌに両手を空に向けて掲げてもらう。
『いくぜ!――――アクア!!!』
そう叫ぶと辺りが蜃気楼のように歪み、段々と空気が冷えてくるような感覚があった。それと時を同じくして大量の水が上空に浮いていた。大きさで言うと直径300メートルから500メートルの間くらいだろうか。もっとあるかもしれない。
「えっ?」
『な、なんだこれ…やりすぎた?』
辺りがザワザワしはじめるとモデル体型の指導員であるカロルがこちらへ駆けて来る。
「これを…上空にある大量の水を造り出したのは君か?」
「えっ…違い…」
カロルの問いに途中まで答えたエリーヌは考え直したのか言い換える。
「そうです。私が出しました。」
その解答に慶太が疑問に抱いていると小声でエリーヌが伝えてくる。
「サトウさんのことを黙っていないと不味いんですよね?」
数日前に他人に俺のことを黙っていて欲しいと言ったことを覚えてくれていたようで少し感激した。エリーヌと慶太が小声でそんなやり取りをしているが、続けてカロルは質問を投げかけてくる。
「その割りにあまり息が上がっていないようだが?」
そう言われてみるとエリーヌの息は少し乱れている程度で俺が水を出す前と変わっている風に見えない。
慶太自身も憑依しているような状態とはいえ疲れなど微塵も感じておらず、魔宝技の法則である体力消耗はどうなっているのだろうか。
「そ、そうでしょうか。これでも疲れているのですが…。」
「まあいい。授業が終わったあとに私と…担当のオーバンさんと共に学長室まで来てもらおう。…それと上にある水は散らしておいてくれ。」
やり取りを終えエリーヌはホッと息をつくと、俺に水を散らす言葉の一つ…水を霧状にする"ミスト"を教えてくれたので、水が霧になるイメージを固めて言葉を発すると何故か積乱雲のような巨大な雲となり上空へと昇っていったのだった。
『それにしても…魔宝技を二回も使ったのに疲れを感じないなぁ…。エリーは疲労感とか感じたかい?』
俺の質問にエリーヌは首を横に振って答える。やはり何らかの法則があるのかもしれない。
そんなやり取りをしていると周りにいる同グループの生徒が話しかけてきた。
「さっきの巨大な水は君が出したのかい?」
「何かコツとかあるの?」
「私にもあんなことできるかな?」
「あんな雲をどうやったら作れるのかな?ボクも作れたら楽しくなりそうだよ。」
など質問攻めだ。エリーヌ自身がやったことではないのでエリーヌに答えられるはずもなく、俺もどんな法則があるのか全然分からないためエリーヌに伝えることもできない。
生徒たちに曖昧に答えているとやがて各々がそれぞれの工夫をしようとして水を出したりしていた。
「私もサトウさんみたいに魔宝技が使いたいです…。」
『なんか…ゴメン。……迷惑もかけちゃったしね。』
暫く経つと次の段階に行くようにカロルが指示を出してくる。
「先程は水を出してもらったが、今度はそれを標的に当ててもらう。では先程の腕前を見込んで…エリーヌ・ジェスタか。君から頼もう。」
そう指名されてしまったエリーヌは生徒たちの前へ出て10メートル近く離れた木製の標的へ水を当てるよう指示される。
「当て方はなんでもいい。貫くなり、ただ当てるだけでもいい。」
「はい。…やってみます。」
先程の大事は俺が起こしたことだしと責任を感じたため…
『エリー。よかったら俺がやろうか?』
と心配して声をかけたがエリーヌは首を横に振ると先程のように"アクア"と叫び、バレーボールほどの水を出してから"スプラッシュ"と続けて標的に勢いよくぶつける。その様子にカロルは納得しなかったのか…
「手加減せずに、もっと派手にやってもいいんだぞ?盛大にやってみろ。」
などとカロルに再要求される。エリーヌは少し涙ぐんでいるのが分かってしまう俺は透かさずにエリーヌに伝える。
『今回は俺に任せてくれないか。嫌かもしれないけど、やっちまった責任は取らせて欲しいんだ。』
エリーヌは漏れた涙を袖で拭うと小さく頷く。俺の指示したように片手を標的に向けて伸ばしてくれている。
『攻撃する呪文だかはどういうのがあるのかな?』
「えっと…アクアアローとかアクアスプラッシュとかでしょうか。イメージと言語が噛み合えば発言した言葉通りに動いてくれますよ。」
そう聞いた俺は圧縮した水の矢を巨大な弓――バリスタで飛ばして標的を貫くようにイメージする。
『エリー。標的を人差し指で狙うように指してくれないか。そして俺が叫んだら続いて同じ言葉を言ってくれ』
頷くとエリーヌは人差し指を標的へ向ける。そしてイメージの固まった俺は…
『アクアアロー!!』
「アクアアロー!」
俺とエリーヌが叫んだ。するとイメージが甘かったのか木の幹のような太い水が勢いよく木製の標的を貫きながら吹き飛ばし、さらに遠く後ろにあった石壁まで貫通していた。
「「おおー!」」
生徒たちの歓声が上がるとカロルもエリーヌの肩を叩き労いの言葉をかけてきた。
「素晴らしい。これほどの魔宝技は見たことがないぞ。…ただ場所を選ばぬと被害が出そうだな。」
それから順々にグループの生徒たちが各々の言葉を紡ぎ標的に水をぶつけていくが、慶太のものと違い威力など大してなさそうなものばかりだ。
そんな中で地面に腰を降ろしているエリーヌは悔しそうな表情を浮かべ肩を落としていた。
「私…悔しいです。自分の実力で認められたいのに…。」
エリーヌが嫉妬したように慶太に告げてくる。彼も今回はやりすぎたと自覚していた。
『ごめんよエリー。魔宝技のコツが分かったらすぐに教えるから、それで勘弁して欲しい。』
「ほんとですか?絶対に教えてくれるんですね?」
エリーヌは俺の言葉に凄い勢いで食いついてくる。約束は守るよ。
『ああ、絶対にだ。これでも自分好みの子には素直なんだ。いや…素直になったのかな?小さい頃は好きな子はいじめるタイプだったしさ。』
「ふふ。そうだったんですか。」
慶太はエリーヌの笑顔が戻ったことで良しとするのだった。