宝石
強い日差しが照りつけ、蝉の鳴声が五月蝿くなる頃に佐藤慶太さとうけいたは両親と共に旅行にて地方の寂れた歴史資料館に訪れていた。
「冷房が気持ちいいなぁ…」
外気は30度越えという灼熱地獄であったのと違い、館内は冷房が効いていて快適な空間だった。そこは電灯の明かりは薄暗い印象を与えるが、綺麗に掃除されていて清潔感も感じさせる場所だ。
館内を進む両親に付き添い展示品を鑑賞していくが、大規模な資料館と違い展示品は少なく、途中までは俺の目を引く物はなかった。武者鎧や武具などならまだしも、土器等は守備範囲外であった。
館内を巡るうちに二階に行くと、その一角の硝子ケースには紅い宝石があり、宝石が薄暗い光を放つ異様な光景を目にする。そこに似つかわしくないと思われる異様な宝石に、俺は目を捕らわれていた。
「光ってる気がするけど…演出か何かかな……?」
疑問を抱きつつその薄っすらと宝石を見ていると眠くなるような、心地よくなるような、そんな気分になってくる。
やがて、眩暈を起こしたように視界がチカチカと白くなる。
「最近、寝不足なのかなあ…前日くらい寝ておくべきだったか」
軽く自分に愚痴を吐いていると、徐々に視界が歪んで脱力感に襲われる。そんな中、宝石の光が先程より強くなっているような気がした。
再度、宝石を注視していると、身体を吸い込まれるような感覚に陥った。
――それから数秒も経たぬうちに左手が宝石へと引っ張られる。
「ちょ…!ちょっ!何これ!?」
身体が吸い込まれていることを確信した頃には既に遅く、左腕は展示用の硝子ケースをすり抜け、宝石に吸い込まれていた。勢いは衰えることがなく、俺はかつてないほど焦っていた。
「か、母さん!オヤジ!ちょっとこっちに来てくれ!やべえよ!!」
悲鳴のように叫ぶが、目に映る両親には何の動きもなく、こちらの声が聞こえていない、また、見えていないのかもしれない。
何度も必死に叫ぶが、何の変わりも無く、そのまま俺の全身は宝石に吸い込まれてしまった…
そして、俺は何もない真っ黒な世界に閉じ込められた――。
――「あら?この魔宝石は随分黒いのね?オニキスかしら?」
ふと、若い女性の声が聞こえる。
「はいお嬢様。その様に聞き及んでおります。今回の当家の使者が派遣先にて入手したものを、御党首様の命にて領内で随一といわれる装飾技師に、腕輪として加工させたものであります。」
ナイスミドルなボイスが俺の頭に響く
「誕辰のことなどは、すっかり忘れていると思っていましたのに…。お母様を靡かせたお父様の甲斐性はまだまだ健在だったのですわね。」
まるでアニメで見たような典型的お嬢様の台詞だなと俺は思った。
考えているうちに、黒一色だった視界が晴れてくる。
暗闇にいた時間は、長かったようで短かったのかもしれない。時間の感覚が無く、どれ程の時間が経過したのか俺に知ることはできなかったのだ。
「私の腕のサイズに綺麗に収まるなんて、職人はとても素晴らしい腕前ね。」
「はっ!そう仰って戴けるのは、我らとして光栄であります。」
会話を聞きつつ見ているが、視界には薄っすらと髭を生やしたオッサンが映っている。俺はそんなオッサン見たこともなかった。
一体、俺はどういう状況なのかを、現在見える状況から探ろうとする。
中年の執事らしき男は中肉中背、髪は白髪交じりのオールバックで鼻の下には髭を少し生やしブランド物と思わせる黒いスーツを着たような姿をしている。
また、室内は陽で明るく壁は石造りと思われるしっかりとしたもの、壁に掛けられた油絵のような物やタペストリーらしき物がはっきりと見て取れる。一昔前ような時代を感じさせる。視界の隅に映る箪笥やテーブルなどもアンティーク品のような印象を受けた。
観察するほど、どこかの金持ちの家だろうと思わせられる。
突然、視線が自身の腕に動いていくと、自身を見ているはずなのに女性の服を着ているということに驚きを抱く。
俺には女装趣味はない。
寝てる間にでも誰か悪戯したのか!?そもそもそんな友達もいない。
両親は娘が欲しかったと度々口に漏らしていたが…流石にこんなことしないだろう。
考えても妄想と思われることしか出てこない。
「中々良い出来ね。気に入ったわ」
女性の声が自身の口から放ったように聞こえてくる。
ふと、自分は性転換してしまったのだろうか?という疑問を抱くが、視線に大きな鏡が映ると少々痩せすぎな印象を受けるが、長い金髪の綺麗な女性の姿が映っていた。煌びやかなドレスで着飾っており、自分とはまるで縁を感じさせない高貴な風貌をしている。
町中ですれ違えば、思わず振り返ってしまうような美人だろう。
だが、映った光景の一部分を目にして考えるより先に言い放ってしまったのだ。
『絶壁………残念なほど絶壁だ…』
「…!?………アドルフ何か言いまして?」
「いえ、私は何も…?」
女性は、自分と違う存在であるように反応を示すのを見て、自分と異なる存在であることに確信を持つ。何が起こっているのか状況は分からないが、自分の声が聞こえているかのような女性の反応に再度言い放ってみる。
『胸が残念だね…顔は綺麗だし文句のつけようもないけど…ただ、一部の大きいお友達には大絶賛されると思う。でも、俺おっぱい星人だからさ…』
とても失礼だ。無礼である。自分でもそう思う。
以前であれば、そんなことを口にするどころか女性と会話なんて上手く出来なかった…まるで、酒で酔った時の感覚だ。
「アドルフ?胸がどうとか言いまして?」
「?…どうしましたお嬢様?」
どうやら、執事のオッサンには聞こえていないようだが、女性には間違いなく聞こえているようだ。妙なポジションから悪戯をしている感覚に何とも言えぬ高揚感を覚えていた。
(もう一押しと調子に乗ってみるのも俺の長所!他人には短所といわれるけどね!)
『俺が言ったのよ?ペチャパイ・お・じょ・う・さ・ま(はあと)』
(完璧に決まったぜ!やり遂げたぜ!任務達成だぜ!)
心の中でガッツポーズを決めると、同時に視界が右往左往する。
「どこから言っているんですの!失礼極まりないですわ!!折檻しますわよ!」
あまりの勢いで視界が動き、酔ってしまいそうになる。…流石にやりすぎただろうか。
(ちょっと反省……の前にこのままじゃ吐き気を催しそうだ…汚いものをぶちまけるのは遠慮したい。)
『う、動くのを止めてくれ…酔っちまうよ…さっきは悪かったよ。ちょっと言い過ぎたかもしれない。』
「姿を現しなさい無頼漢!鞭打ちの刑で許してあげましてよ!」
『それはご勘弁を…いや、お嬢さんにされるならご褒美かも?ワリとマジで!』
「私そんなことしませんわよ!使用人にさせますわっ!!」
『えっ!?そこにいるオッサンみたいなのとか?』
「もっと拷問向きの使用人がおりましてよ!楽しみにしてなさい!」
お嬢様はノリが良かった。
「お嬢様…?一体何と会話なさっているのでしょうか?」
「アドルフには先ほどからの失礼な物言いが聞こえないのですの?生半可な裁きでは済まされない内容を言われたんですのよ!絞首刑くらいでもいいですわ」
(え!?さっきより罪が重くなってね?…だが、ここまで言ったら引っ込みがつかないのでこれだけは言わせて貰おう。)
『肉はちゃんと食べた方がいいよ。栄養が足りていないから、痩せすぎて胸が小さいのかもしれないよ』
「ーーッ!」
(アドバイスのつもりが怒らせてしまったよ…どうしよう)
彼女いない暦=年齢である俺は荒ぶるお嬢様を鎮める手段を知らなかった。
「……ふむ……私には聞こえませんが…いつ頃からその様な声が聞こえるのですか?」
「先程からよ!どうしたっていうの?」
息を荒くした女性の言葉を聞いて、執事の男性が考えるような素振りを見せる。
「昔とある伝てで聞いたのですが、極稀に魔宝石には意思が宿っていると聞いたことがあります。その様な魔宝石には持ち主との会話が可能だとか…そしてその魔宝石はとても貴重とされているそうです。」
「では、魔宝石が失礼な事を言っているんですの?」
「はい。その可能性があるのではないかと…」
(魔宝石って何よ…俺は人間だぞ。佐藤慶太って名前もちゃんとあるし。)
視線は腕輪らしき物を捉えると、手でしっかりと腕輪を掴んで勢いよくを外していく。次第に彼の視界も黒く染め上げられていく。
『あれ…なんだこれ…俺どうなってんの?』
真っ暗な世界で彼の呟きは誰にも届くことはなかった――。
――――辺りには様々な草木が芽吹く時期。そこは葡萄以外は特に産物はなく、辺りは草原や森が広がる…良くも悪くも"田舎"という印象を持たせる場所だ。その田舎はバルト領と呼ばれており、そのバルト領の外れにある町に小さな館があった。
「エリーヌはいるか。」
小さな館の二階にある一室で、初老の男性が軽く叫ぶ。その男性は長身なためか少し痩せた印象を与えるが、服の上からでも筋肉が盛り上がりを感じさせる。男は名をクレマン・ジェスタと言い平民から士爵位を授かるまで成功した人物だ。
「お呼びですかお爺様?」
暫くして、名を呼ばれたであろう少女が顔を出す。彼女は名をエリーヌ・ジェスタ。クレマンの孫でありクレマンの息子ジュリアンの次女である。年齢13歳。セピア色の髪を左右で三つ編みに結って左側にまとめており、身長は年齢を考慮しなければやや小柄、若干肉付きは良いかもしれない。性格はいたって真面目なのだが、それゆえか騙され易いのではないかと祖父であるクレマンは懸念している。
現在、彼女は都市部にある騎士の養成学校に通っており、学校の長期休暇にて自宅に戻っていた。
「ああ、今年から三年ということだから、魔宝技の授業が開始されるのはずだろう。」
「はい。そのように聞いています。」
その返事を聞いたクレマンは、懐から見事な装飾を施された腕輪を取り出す。黒い宝石が填め込まれており、宝石が装飾の派手さに負けてしまっている印象を受ける。
「そうか。では丁度よかった。先月に伯爵殿から当家に…いや、お前に向けてだろうが魔宝石を賜ってな。おそらくは面目を保つということではあるだろうがな。」
クレマンは騎士としては引退しているが、バルトと呼ばれる伯爵家に仕えるジェスタ家は、現在伯爵家の加護下にあり、ジェスタ家の公の場での服飾や装備様々な要素による評価が、バルト伯爵家に対する貴族社会での評価にも繋がることになる。簡単に言うなら、見栄を張っているのである。
「ありがとうございます。お爺様。…ところでこの魔宝石はオニキスのようですが、この様な貴重なものを本当によろしいのでしょうか?」
魔宝石は主に用途等により使い分けられ、高ランクとされるものは、その制限をあまり受けない。オニキスに関しては純粋に高ランクという訳ではなく、その特殊性から貴重とされていた。
「折角いただいたものだから、使わせて貰いなさい。そうでないと伯爵殿から、また小言を言われてしまうかもしれんな…ただでさえ最近は領内の税が減って大変らしい…。」
「ははは…。」
クレマンに愚痴を聞かされて、エリーヌはなんと返答良いのか分からず苦笑いで返していた。
「まあ、今回の用はこれで仕舞いだ。近日には学校へ発つのだろうし、疲れるようなことはあまりするなよ。」
「はい。お爺様。ありがとうございます。」
エリーヌは用事が終った事を確認すると、クレマンの居る部屋から退室する。
自室へ戻る最中、伯爵に賜ったとされる腕輪に填められた黒い宝石を眺めていた。そのオニキスは光をまったく反射せず、とても異様なのだが、初めてオニキスを見た少女は珍しいと思うだけなのであった。
自分の部屋に着くと、エリーヌは試しにと腕輪を着けて、衣装鏡の前に立ってみる。腕輪の装飾は素晴らしく、まるで王様にでもなって王冠を腕に付けているかのような錯覚も覚える。まるで、女王にでもなった気分でエリーヌは鏡の前で様々なポーズをとり、微笑んでいた。
そんなとき頭の中から声が聴こえた気がした。
『でけぇ…。』
どこからか大人な男性の声が聞こえる。
『素晴らしい……マーヴェラスとでも言うべきだね。』
よく意味は分からないが、褒められた気がしたので気分は悪くない。ただ、その声の持ち主を探そうと辺りを見渡すが、どこにも見当たらないのだ。エリーヌは"彼"を探そうと誰もいない部屋で問うように言う。
「どなたですか?」
『…お!俺の声が聞こえてる?ナイスなおっぱいをした娘さん。』
「…」
身体の一部分のことを指して言われているのは、少女でも察することができた。学校でも、よく男子生徒に視られることがあったのだが、少女故なのか、まだ敏感に感じることはなかったのだ。
そう――胸を。
――――暗闇の中、俺は考えていた。金髪の美人には少々やりすぎたかもしれないし、チャンスがあれば謝ろうと…。そんなとき、突然視界が晴れた。そして、"あるもの"を見た俺は理性を忘れる程に興奮してしまった。勿論、性的な意味で。
そう…そこには俺が長年追い求めていた浪漫おおきなおっぱいが間近にあったのだ。大きな鏡に映る大きな胸がポーズを変える度に、たぷんたぷんと揺れ動く様は…まるで、砂漠で彷徨った挙句に飲料が尽き、絶望して歩いているところにオアシスを発見したか如くの感動だった。
『でけぇ…。』
興奮のあまり慶太は声を漏らしてしまう。
(…やばい。いや、このままでは駄目だろう。もっと褒めちぎってやらなくては!)
『素晴らしい……マーヴェラスとでも言うべきだね。』
我ながら、よく言ったといえる。だが、しかし!言葉だけで語ることは出来ない素晴らしさだ。以前に見た美人とは違う子みたいだが、そんな細かいことなど気にしないおっぱい。
「どなたですか?」
浪漫おおきなおっぱいから発せられる声も幼いが可憐な感じで良い。(好感度MAXになっちゃうね俺!)とかくだらないことを慶太は考えて返答する。
『…お!俺の声が聞こえてる?ナイスなおっぱいをした娘さん。』
「…」
(突然無言になってしまったぜ…どうすりゃいいんだ。そういえば、金髪貧乳の美人さんが腕輪を外したら視界が無くなった気がするぞ…)
『あー、腕輪とかつけたりしてるかな?…だとしたら、俺と会話できるのもソレのおかげかも。』
彼がそう言うと、視線の先に痩せた美人が身に着けていたものとまったく同じの華やかな装飾を施された腕輪が目に映る。
『多分、その腕輪をはめたから、俺と会話できるんだと思うよ。以前に外されたら何も見えなくなったし…。』
(正直に言って好感度を稼ぐぜ俺!好みの子には嘘吐いちゃいけないよね!あ…俺ロリコンじゃねーから!!おっぱいに罪がないだけだよ!!ちなみにもうちょっと育てばドストライクだね。)
彼はそんなことを考えながら、これまでの人生で最も興奮していたのかもしれない。
「宝石の精霊さんですか…?」
(困る質問だ…俺にもどう答えたものか分からんのよね。)
慶太はそう考えつつ、過去に起こった出来事を順に思い出し、質問へ答えようとした。
『うーん…精霊っていうのは、どういうものか知らんけど…俺は人間だよ。人間だった?かは…まだ分からないけど、その腕輪をつけた人の視覚や聴覚を共有できるみたいだね。情報が少なすぎるから現在は何とも言えないけど、手がかりになることがあれば少しは分かるかもしれないよ。』
「えっと…精霊は様々なところに住まい、人に英知を授けてくれる存在といわれています。そういう存在とは違うんですか?」
彼女の言葉に慶太は、自分はそんな大層なものではないと動揺を覚えてしまう。
『英知とか…そんな凄いもんじゃないし…俺、ただの無職だし…。それじゃあ、この国の名前とかは?』
「…ユベール王国って聞いたことはありますか?」
『し、知らん…聞いたこともないよ…アメリカやイタリアとかフランス、ドイツとかなら分かるけど』
「それは国名ですか?」
『そうだよ。聞いたときないかな?ユベールって国を俺が知らないだけかもしれないしさ。』
「どの国も聞いたことがありません。すみません。」
(さっきまで軽蔑してる印象だったが素直で可愛い子じゃないか。いや、辞職したとはいえ、ブラック企業に勤めて鍛え上げられたトーク術が効いているのかもしれない!勢いでこのまま光源氏計画始動してもいいんじゃないかな!いけるんじゃね!いけそうだよね!!)
慶太は思いの外、素直な少女に妄想の限り突き進もうとした。
『いや、謝ることはないよ。有名な国名が分からないとなると…異世界にでも来ちゃったのかな俺?そうなると気持ちはいくらか楽しいし。…ただ、身体がないってのが欠点かな。』
「別の世界から来たかもしれないってことですか?」
『そうそう。そうかもしれないなーと思っただけだよ。何で腕輪なんだよって疑問もあるけど…そういえば、資料館で宝石に吸い込まれたような気が…したような…しなかったような』
彼はそう告げると、視界に腕輪に填められた宝石が映った。
『ん~…俺が吸い込まれたのは赤い宝石だったような…。』
「この魔宝石とは違うんですか?」
『魔宝石?…いや、そんな大層なモノじゃなかったと思うけど…寂れたところにあったしさ。』
(思い出そうとするが思い…出せない…。俺はそんな記憶力がそんなに良くないんだよ!)
「えっと…魔宝石というのは様々な現象を引き起こすための道具ですよ。」
『そんなものは俺の世界にはなかったね…で、まあ…どんなものなの?とりあえず聞いてみたいかも。』
「使用者の体力…一説には気力を使って等色々ありますが、使用者のイメージした現象を発声を鍵にして行使できるようにするものが魔宝石です。様々な制限は勿論ありますけど。」
『詳しい説明ありがとう。…ってかすげえじゃん…魔法じゃん…そんなのあったら、こんな中世みたいな世の中じゃなくもっと発展しててもおかしくないと思うんだけど。』
慶太は思ったことを素直に感想として述べる。
「制限がありますから、御伽噺のような魔法と魔宝石を使う魔宝技とは違いますよ。」
『魔宝技?』
これまでの人生で聞いたこともない言葉が気になった。
「はい。魔宝石を使う技術の略でそうなっています。」
『技なのか…匠の技が光るね。あと、制限とかはどういうのがあるの?』
「まず、引き起こした現象の大きさに比例して使用者の体力を消耗します。それが一つの制限ですね。あとは、魔宝石により火を起こすことや、物を動かすことに特化していたりというものでしょうか。」
『現象の大きさに比例して体力消耗って、大規模な土木工事とかに使えなそうだね。それはきついね。』
「そうですね。建築作業などに大規模な魔宝技を使ったとしても、2、3時間持てば良い方らしいですよ。」
『で、使ったあとはぐったりなのかな。』
「えっと…昔に魔宝技を半日に亘って行使した後に倒れて、そのまま一週間も起きなかったという一例を本で読んだことがあります。建造物などの大規模な作業だと1時間で半日から2日くらいの休憩が必要かもしれませんね。」
『1時間でそんなに寝られたら作業が捗らないよね…まあ、魔宝石の話は…この辺りまででいいかな。とりあえずは、情報を共有できる腕輪を外さないでくれるとありがたいんだけど…。』
(この台詞には訳があるのです。漢なら譲ってはいけない浪漫もあるのさ。)
慶太はニヤリと、いやらしい表情を浮かべながら考えていた。宝石に閉じ込められた慶太は少女からは観察できないため、下種な表情も抑えることなく露にしていたのだ。
「はい。構いませんよ。できる限りは…ですけど」
(しゃーおらー!俺大勝利の予感!!)
そのとき、彼はそう考えていたのだが…現実は厳しかった。
『あ…最初に聞くべきことだったけど、君の名前は?ちなみに俺は佐藤慶太、二年前から無職の29歳童貞です。鈴木じゃなくて佐藤だからね。コレ重要なので忘れずに。』
「私はエリーヌ。エリーヌ・ジェスタですサトウさん。スズキが何かは分かりませんけど…。」
『こまけーことは気にすんな。これからよろしくエリーちゃん!早速だけど魔宝とやら使ってみない?』
「学生が無闇に使うと事故に繋がるので、私の学校では指導員が居ない場所での緊急時以外の使用は禁止されているんですよ。」
『あ…そうなんだ…じゃあ、学校までは魔宝技はお預けかな。』
「そうなりますね。」
それからエリーヌと話していたのだが、13歳という若さなのに驚愕した。原因は歳に似つかわしくない胸おっぱいをしているせいである。ロリ巨乳っていいよね。
近いうちに学校に向かうというので、学校の生徒たちを(色々な意味で)鑑賞させて貰えそうなのは楽しみだ。
また、現在いるバルト領はユベール国の南南東に位置しているらしい。比較的内部に位置しているが、現在は戦争が近い場所で行われているようで少し不安らしい。ただ、戦争の相手というのが人間ではなく化け物だというのだ。
詳しく聞いてみようとしたのだが、エリーヌもそう伝え聞いたのみで実物を見た時は無く、分からないそうだ。ファンタジーらしい楽しみが一つできたかなと考え、危機感を抱くことはなかった。
書物も少々拝見させていただいたのだが、日本語や英語等ということもなく、知らない言葉で書かれていたのだが、何故か言葉を理解することができた。
こんな簡単に異国語が理解できるなら、英語の成績もよかっただろうに…と心の底から思う。日本語での会話も成り立つので不思議で仕方がないのだが、現在は考えることが多いので気にしないでおく。
――そんなことを話しているうちに、先程まで室内を明るく照らしていた陽も陰り、夕刻になっていた。石壁は赤く照らされ、日本の家に居た時とは違う風情というものを味わう。暗くなるにつれ、館には蝋燭の明かりが照らされていく。
食事の時間だと老けた女の家政婦らしき人が呼びに来ると、エリーヌは食堂へ向かい長テーブルに並べられた椅子の一つに座る。
既に家族が集まっているようなので、エリーヌに家族を紹介してもらった。
まず、爺様がクレマン・ジェスタ57歳。やや白髪が目立つ印象の頭に、紳士服に軽く装飾を施したような格好をしている。
父親たるジュリアン・ジェスタは騎士の職務でユベールの王都にいるらしく、この館にはいないようだ。
母親のアデールは髪を肩の辺りでまとめ、服装は装飾の慎ましいドレスを身に着けている。そこそこ良い出自らしい。美人で爆乳だった。年齢は35歳…きっと理想の垂れ乳に違いあるまい。
長兄のアランは長身のイケメン…16歳。エリーヌと同じ騎士学校に通っているようで、学校の休暇により一緒に実家に戻ってきたそうだ。イケメン爆発しろ。
長女のフロランスは15歳。ウェーブのかかった髪に、母親の服より少し派手な印象を受けるドレスと、それに強調される巨乳。この家系の女性は大変けしからん胸を備えているようだ。また、彼女は特殊な趣味を持っているせいで、婚約話も破棄されたことがあるそうだ。趣味については何やら口にしたくないらしく、教えてくれなかった。
三女のロザリーは8歳。エリーヌを真似ているのか、三つ編みにした髪をヘアバンドのようにしてまとめている。胸は遺伝で大きくなるだろうが、今は"ぺったんこ"だ。貧乳が好きな人にはたまらないだろう。現在は自宅で文字などを勉強中だそうだ。
次男のエリクはまだ幼く6歳。一丁前に立派な服を身に着けているが、まだ可愛いゾウさんであろう。いつかパン●ースを進呈してやる。
使用人の老けた女性はシャルロット…名前負けすぎる。体格は小柄で少々小太りだ。
エリーヌの紹介を終える頃には、豪華とは言い難いが多くの食事が並べられていた。
「では、食事の時間だ。神に感謝を…」
クレマンがそう口にすると、エリーヌが目を瞑り視界が暗くなると同時に、祈りの言葉らしきものが聞こえてくる。食前にいただきますと言うのは大事だよね。
暫く経つと視界が明け、ジェスタ家の面々がゆっくりと食事を始める。エリーヌも前菜であろう野菜を口に含む…と俺にも味が分かるのだ。
少々塩分が多い印象を受けるが十分に美味い。高級な海外の料理など食べた時は無いが、その域に感じることができる。宝石に閉じ込められた状態なので、食事は諦めていたのだが…エリーヌとは視覚と聴覚だけでなく、味覚も共有しているようで楽しみが一つ増えた。
「アランとエリーヌは近日に出立なさるのですか?」
突然、母親のアデールに声を掛けられた。母親らしく子供のことが気にかかるのだろう。
「はい母上様。王都は多少遠いので明日には発つ予定です。」
「私もアラン兄さんと一緒に出発しようと思っています。」
兄であるアランとエリーヌがそう告げて答える。
「そうですか…また、寂しくなりますね。」
「お母様。立派な騎士になり、当家のために尽くそうとしてくれているのですから、そう言ってはいけませんわよ。」
「アラン兄がいないと稽古が一人でつまんない…。」
「エリーヌ姉さまには、もっとお本を読んで欲しかったの。」
アデール、フロランス、エリク、ロザリーが口にしながら寂しそうに肩を落としていた。別れを惜しんでくれる家族がいるというのは良いことだ。
「そう言って貰えて僕は嬉しいのですが、これも当家存続ためなのです。卒業してからも、爵位を授かるために与えられた任を果たさなくてはいけないしね。」
「そうですね。アランもエリーヌもあまり気負わぬようにして下さいね。」
「はい。ロザリーには次回の休暇に帰ってきたら新しい本をお土産にしてあげるね。」
エリーヌは、妹のことを気にかけて声をかけている。
「うふふ、新しいお本を楽しみにしてるの!」
「いざとなればエリーヌも私と一緒に花嫁修業をすれば宜しいのですわよ。」
「か、考えておきますね。」
フロランスの言葉にエリーヌは少し同様していた。
「…会話はそのくらいにして。そろそろ食事を再開しようか。」
クレマンの言葉を最後に食事を再開する一同。食事を終えるとサロンで家族と軽い会話を交わし、エリーヌは自室へと戻ることにする。
さて…次は待ちに待ったお楽しみ"お風呂の時間"だよねと思ってました。その時までは…残念…。
おやすみの時間でした!!
そうして、慶太はエリーヌと共にした初日を終えたのだった。