-6- 会食データ
ここは超一流の高級料理店である。一同が会し、トップ経営者達によるフルコースの会食が始まろうとしていた。経営者達が招かれた名目は懇話会への出席だったが、それは飽くまでも表向きで、実態は高級料理を味わう会・・とでも言える会食だった。
優雅な語り口調で、隣の席に座る経営者と横目で会話をするのは、今を時めく花形企業のトップ経営者、須磨帆である。
「ほう…さよですか。私のとこなど高々、連結で今年も20兆ちょっとですよ」
自慢するでもなく須磨帆はごく自然に話した。
「ええ…そらそうでしょう。いやいや、うちなど、おたくなんかとは、ひと桁違います。フォッフォッフォッ…」
しまった! 自慢させたか…と内心で臍を咬んだのは、それを隣りで聞かされた経営者の柄毛だった。柄毛は仕方なく、下手に出て、須磨帆へ返した。
座る二人の会話をそれとなく真ん中に立って聞いていたのは、ウエイターの羅院である。羅院は、『好きに言ってりゃいいさっ!』と、不貞腐れ気味に思いながら、ゆっくりとメインディッシュの肉料理を笑顔で二人の前へ置いた。
「…」「…」
二人は話すのを止め、正面を向いて動かなくなり、固まった。羅院は内心で『話し続けりゃいいのに…』と内心でまた思った。そういや、誰もがテープルへ置くときには畏まったように固まるな…と羅院は思った。席を遠ざかると、氷が解けたようにまた動きだすのだ。このトップ経営者達も同じなんだ…と、羅院はまた思った。これは面白い現象だ。この所作がすべての客でも同じなら、人間の本能的に定まった一つの動作と考えることができる。羅院は統計データをとってみよう…と決意した。
完




