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-58- 退化

 木場きば工業では日夜、新製品の受注が舞い込み、社内の開発部は活気に包まれていた。というのも、親会社の深川産業が新製品の考案を木場工業へ依頼したところ、見事、木場工業の技術スタッフが新製品開発に成功したのである。この新製品は世界にもるいのない新技術製品として、世界での特許[パテント]料も含め、多額の当期純利益を計上しようとしていた。木場工業は申すに及ばず、親会社の深川産業の株価もウナギ上りの勢いを見ていた。

「ははは…笑いが止まらんよ、君。なにせ、去年の今頃、君の会社は整理にかけられそうだったんだからな…」

 深川産業の苔木こけぎ常務は執行役員として木場工業へ送り込んだ立見たてみを常務室へ呼び、満足そうに言った。

「はあ、おかげさまで…」

 木場工業にいた立見は、電話で苔木に呼び出され、いそがしい中、態々(わざわざ)、深川産業まで駆けつけたのである。だから、なんだっ! そんな話か…と、立見は顔や言葉には出さないまでも、内心では怒っていた。加えて、深川産業時代に専務派だった立見には、常務派に告られ、どうもていよく左遷させんさせられた…という想いが潜在的にあったから、増してだった。常務派は社内の頭脳派とも呼ばれ、最新の電子機器を駆使して会社をリードしようとしていた。片や大岩おおいわ専務をリーダーとする専務派は職人的技術者集団として技術派と呼ばれていた。大岩自身も元技術者で、立見はその部下だった。俄然がぜん、社内で発言力が強かった常務派だったが、ここ最近、その勢いにかげりを見せ始めていた。すべてを電子頭脳に頼っていた常務派の発想が退化し始めたのである。それは社長のながめも感じていた。取締役会でも、これは! という新機軸の提案がなくなっていたからだった。それに比べ専務派は社内での経営方針を含む新たな技術や発想を次々と生み出していた。今回の新製品開発も、その一つだった。

 人類が機械に頼り過ぎ、その発想力を退化させてしまう・・ということは、確かによくある。ここ最近、世界では歴史を一変させるような画期的な発明や発見が見られないのが、その具体例だ。


                    完

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