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-54- 人を探す

 毎日、会社までの20分ばかりを徒歩で通勤する祭川さいかわは、最近、車以外、人を見ないな…と歩きながら思った。それはなにも今日に始まったことではなく、数十年前から続いている現象なのだが、今朝、歩いていて、初めてそう思ったのである。こいつは馬鹿か? と思われる方も多いだろうが、それはなにも祭川だけが感じたことではない。地球上で暮らす高度文明を築き上げた大部分の人々が、恐らくは何の疑いもなく日々、そうした車社会で生きていて思うことだ。

 雪が降った翌日、久しぶりの快晴で外気も心なしか澄み渡っているように感じられた。祭川はこの日の朝も職場へ向かって歩いていた。

『おやっ? 今朝は余り人を見かけないなあ…』

 そう思えた祭川は、あたりを見回しながらを進めた。だが、歩道の雪を掻く数人以外、やはり人の姿は見い出せなかった。気になり始めると、そのことが得心できないと気が済まないのが祭川の性分しょうぶんだった。気になり始めた祭川は真剣に探しだした。だが生憎あいにく、人らしい人影は見当たらない。実は多くの人に祭川は出会っていたのである。ただ、それらの人々は車を運転中で、ガラス越しでしか見えなかったのだ。祭川は職場へ着くと、自分のデスクに座り、はて? と考え始めた。車には人がいる。人はいるが動いていない。動いているのは自動車という物体だ…と。これが果たして人に出会ったと言えるのかと祭川は思った訳だ。人を探し、直接、話し合えたとき・・その瞬間が真に人に会えたと言えるのではないか…と。

 その日以降、祭川は人を探すことにこだわった。

「はい! いえ、こちらから直接、出向き、詳細はお出会いしてお話しいたしますので。はい! では、そういうことで…」

 祭川は営業1課を飛び出していった。

「祭川さん、最近、妙に出ますねぇ~?」

「そうなんだよ。そのフェチ原因が今一、俺にも分からん…」

 課内では仕事での外出が多くなった祭川に疑問の声が上がっていた。人の姿を探す祭川にとって、そんなことはお構いなしだった。

 人を探す祭川にとって、電話対応は人に会ったことにはならなかったのだ。

 人がたむろする都会や繁華街は別として、車社会となった現在、郊外や田舎で人を探すのが大変なことは最近、よくある。


                    完

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