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-32- 出鼻(でばな)

 さあ、これからっ! というとき・・この瞬間が世間一般では出鼻でばなといわれている。だから、その機先を制すことは、出鼻をくじくとなる訳だ。

 快晴の天気に、小又こまたは気分よく家を出ようとしていた。施錠し、さあいよいよ自転車を・・と動かし始めたとき、おやっ? と前の道に落ちている捨てられたゴミに気づいた。誰が人の家の前へ…と少し気になった小又は、このままにもしておけないと、自転車を一端、止めた。この瞬間、小又は出鼻を挫かれていた。家の鍵を開けた小又は、塵取ちりとりとほうきを手にして再び外へと出た。無論、そのゴミを掃き取るためである。そして、ゴミを処理したあと、もう一度、施錠して自転車を動かそうとした。そのとき、アレッ? と小又は停止した。さて、自分はこれからどこへ向かおうとしていたのか? と。小又は目的を忘れたのである。小又はふたたび自転車を止め、立ち尽くした。はて? と思い出そうとしたが、思い出せない。

 小猫を背中のリュックに入れて背負い、手にはリードのついた小犬を連れて散歩する近所では評判の風変わりな梳井すくいが家前の小道を通りかかったのは、ちょうどそのときだった。梳井は立ち止った。

「やあ、小又さん、おはようございます。お出かけですか?」

「ええ、まあ!」

 咄嗟とっさのことでもあり、小又は、おはようございます・・とも言えず、唐突に短くそう返した。

「それはそれは…。じゃあ!」

 梳井はふたたび歩き始め、遠ざかっていった。なにが、それはそれはだっ! と少し怒れた小又だったが、いいこともあった。あっ! そうそう、トイレット・ぺーパーだったな…と出た目的を思い出したのである。危ない危ない! 出鼻を挫かれ、運を落とすところだった。買物がトイレット・ぺーパーだけに…と、小又は親父ギャグを頭に浮かべてニタリとし、颯爽さっそうと自転車をぎ始めた。

 家の外で出鼻を挫かれることは、確かによくある。


                    完

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