-3- 立った角(かど)が丸まる
朝から 街の一角の細いT字路で見も知らない同士が揉めに揉めていた。ことの発端は、どちらが悪いとも言えぬ双方のうっかりした道路横断にあった。ちょうどその場の近くを巡回していたのが巡査の番頭だった。
「どうされました?」
番頭は口論している手代と丁稚の二人を窺った。
「あっ! ええところに来てくれはったわ。ちょっと聞いとくんなはれ~」
コテコテの関西弁で丁稚が番頭に訴えた。
「それは、わての台詞やっ!」
手代は興奮気味に言い返した。
「まあまあ、お二人とも落ちついて…」
番頭は二人からコトの次第を聞いた。
「なるほど…。法律的にはオタクが悪いですが、街のルールで考えますとアナタが悪くなる。…まあ、ここは商店が並ぶアーケード街ですからなぁ」
二人の申し分には、双方とも一理あった。番頭は困ってしまいワンワンと犬のおまわりさんのように吠える訳にもいかず、首筋をボリボリと片手で掻いた。
「わては、ええんですけどね。この人が、とやこう言うもんやさかい…」
「それは、こっちでっしゃろがっ! おまわりさん、わてのほうこそ、ええんですわ。この人が偉そうに言うさかい、つい…」
「まあまあ、お二人とも…。要するにお二人とも、ええ訳ですわな。ほな、それでよろしいですがな?」
「それは、そうですけどな。一応、この街のルールでっさかい」
「誰のもんでもない公道は公道でっしゃろがっ!」
「まあまあ、お二人とも…。私の顔に免じて、なかったことにしてもらえませんかね。もうじき本署へ帰れそうなんでね。荒げとうないんですわ、ぶっちゃけたとこ…」
巡査の番頭は帽子を脱いで二人に一礼した。
「そないな訳でしたら…なぁ~」
手代は丁稚の顔を見ながら同意を求めた。
「はあ、そうですわなあ…」
「お二人とも、有難うございます。ぅぅぅ…」
番頭は泣き出した。
「まあまあ、おまわりさん…」
どちらからともなく手代と丁稚は番頭を慰め、立った角が丸まった。
完




