見知らぬ故郷
ここではない、どこか遠くへ行きたかった。
なぜ自分はここにいるのか、どうしてこんな苦しい境遇で毎日を送っているのか。
自分が居るべき場所は、ここではないような気がする。
いっそのこと『異界』へと消えてしまいたかった。
――異界。
……そう、ここではない別の世界。
そこにこそ、自分の居場所があるのではないか。
いつしかその思い込みは確信へと変わり、目指すべき目標となっていた。
異界へと渡る、そんな大それた目標が。
一歩一歩進んできた。嫌なことも我慢して、つらいことも我慢して。
やるべきことをやってきた、そのはずだった。
だというのに、研究は思うように進まず、成果を出せずに伸び悩んでいた。
そんな中で彼がやってきたのだ。
私がこれまで抱いてきた常識を、瞬く間に無価値なものへと貶める思想の持ち主が。
急成長を遂げる学士達を見て、彼の教育方針が効果的なことはすぐに理解できた。
だが、それを認めることは今までの自分の努力が、ほとんど無駄であったことを認めることになる。
それでも、悪魔に魂を売る覚悟を決めてでも、目標を達成したいと考えるならば。
認めなければいけないのかもしれない。
時として危険を冒してでも、常識を打ち破って前に進むことを。
不本意ながら――。






