王様が魔王様
この世界で最も大きく、最も栄えている大陸があった
巨大な山脈と湖によって二分されたそこには、二つの大地が広がっている
一つは、多種多様な生態系が息づく土地
そしてもう一つは、あふれ出る魔力が毒となり、魔物、魔族などといった魔力耐性の強い生き物しかすむ事ができない大地
豊かな生態系を持つ土地は、エルフ、ドワーフ、人などの種族が住まい
魔力があふれる土地には、魔族と呼ばれる者達が暮らしていた
この二つは古くから激しい対立関係にあり、常に熾烈な戦争状態にある
とくにここ百年ほどは、歴史的に見ても激しい争いが続いていた
今代の魔王が、非常に優秀だったからだ
魔王とは、魔族の中でもっとも優秀なものを示す言葉である
先代の魔王が様々な事を加味し、次の代の魔王を選び出す
選ばれた魔王は、一時的に全ての魔族の頂点に立つ
その後、不服があるものはこの魔王に実力で対決を挑む事が出来る
魔王はこういった挑戦を全て退ける事で、その優秀さを示すのだ
とはいえ、こういった争いが起こる事は殆どない
魔族は力に対して非常に敏感であり、相手の強さを推し量る能力に長けている
魔族同士の順列は、その優秀さによって決まるといっていい
よって、魔王程力があるものが「次の魔王に相応しいもの」を見間違えるはずもないのだ
さて
今代の魔王は、死の床にあった
人類種を滅ぼさんとする戦争の只中で死んでいくのは不本意ではあったが、これも仕方ないだろう
持病の魔尿病の悪化である
こればかりはどうしようもない
ちなみに魔尿病とは、魔力をふんだんに含む食物を長年大量に摂取しすぎると発症する病気であった
人間で言うところの糖尿病が近いだろう
勿論違う点は多いのだが、魔族版のそれと思っておおよそ間違いはない
魔王は死を悟った時、次の魔王の名を側近たちに告げた
側近たちはそれをしかと聞き、魔王の死を看取る
劣勢だった魔王軍を盛り返し、領土を大きく奪い返した優秀な魔王は、死んだ
そして、世界中に向けて、新たな魔王が発表された
宰相「という訳で本日から王様には、魔王様を兼任していただく事になりました」
王様「うん、バカなの? ねぇ。出来るわけないじゃん。私王様よ? 人間の。人間の王様よ?」
宰相「はい、知ってますけど」
王様「なにその「こいつなに当然のこと言ってるの?」みたいな目!? わかるよね!? それ分かってるならわかるよね!? むりむりむりむり!」
宰相「何故ムリと決め付けるのですか。人間は可能性の塊です。出来ないと決め付けてしまえば、そうなってしまう。しかし、諦めずに前を向けば、必ずそこに光が差すのです」
王様「なんかいいこといおうとしてるっぽいけどムリだからね!? 魔王と王様兼任とか聞いた事ないからね!?」
宰相「前例に縛られるのは悪しき慣例です。そんなもの突き破ってしまえば宜しいかと」
王様「いやいやいやいや! っていうか。マジでそんなの無理って言うか、もー、そんな冗談通じるわけないだろうが。朝から何言ってんだよ。本気にしちゃったじゃん一瞬」
竜王「おはよう御座います。魔王四天王の筆頭です」
獣王「にゃーん」
剣王「おはよう御座います。今出社しました」
宰相「ん? 術王さんは?」
竜王「アイツ、今、海戦の最中で」
宰相「ああ、分かりました。記録しておきます」
王様「まってまってまって。だれ!? だれ!?」
剣王「魔王四天王ですけど」
獣王「にゃーん」
王様「知ってるけど! 見たことあるけど写真で!! 何でここにいるの!?」
宰相「魔王様のお住まいの城に四天王が出社するのは当たり前だと思いますが」
剣王「新しい魔王城ですね」
王様「ちがくない!? それ絶対ちがくない!?」
宰相「ちがくなくなくない?」
王様「ちが、どっちっ!? それどっちっ!?」
宰相「とりあえず落ち着いてください。きょうからは王様の業務とともに、魔王の業務もこなす事になりますので、とても忙しくなります」
王様「ねぇ、それ決定なの?」
宰相「とりあえず魔王の業務として、人間を痛めつけ、魔族を発展させていただきたいと思います」
王様「いやいや」
宰相「そして王様の仕事として、今までどおり魔族を陵辱していただければと思います」
王様「したことないよね!? いや、戦争はしてるけど、ソッチ関係した事ないよね!?」
宰相「今後は魔王でもあるので、そういった非人道的な行いもしていただかなければ困ります」
王様「何でちょっと怒ってるの!? どういうことこれ!」
勇者「勝負だ魔王!!」
王様「君なにしてるの!? 魔王討伐に行ったんじゃないの!?」
宰相「魔王様が魔王ですので」
王様「それ本当に有効なの!?」
勇者「覚悟しろ魔王! 王様から頂いたこのヒノキの棒で撲殺してやる!」
王様「それまだ使ってたの!?」
剣王「そ、それは私のオリハルコンブレードをうちくだいた、伝説のヒノキの棒!」
王様「うっそぉ!?」
勇者「死にさらせまおううらぁああああああああ!!!」
王様「ぎゃー!! おそいかかってきたぁー!」
宰相「魔王様。返り討ちにしてください。いっても倒したらまたここに戻ってくるんですけどね。勇者」
竜王「魔王様は王様でもあるからね」
獣王「にゃーん」
王様「良いから助けなさいよ君達ぃいいいい!?」
この後 勇者と王様の追いかけっこは、王様が王様の業務を始めるまで続いた
王様の業務を始めると、王様のゲージは王様側に傾くのだ
王であり、魔王でもある
この二面性を持った王の統治は、まだ始まったばかりである