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ふぁんたじー・うぉー2

 結局一時間寝ても状況は改善されず

 他の部隊長メンバーと朝食を取ることになった


「大丈夫ですか、団長。体調が優れないようですが」


 オウジに気遣わしげに声をかけるのは、歩く木トレントのモクターン

 常に敬語で紳士的な態度を崩さない好青年だ

 設定年齢は120歳

 トレント族としては若い方らしい


「朝も様子おかしかったからなぁ。もう町に帰れっつーことなんじゃねぇーのか? 神様的な何かからのあんじみてぇーなよぉ」


 口調や態度の割りに、パンを一口サイズにちぎりながらきれいに食べているのは、人馬型アイアンゴーレムのベイリーアワー

 元々は量産型だったらしいが、とある術師が専用に大幅なカスタムアップを施した、らしい

 同系機を指揮しての突撃はかなりのもの

 固有スキルでもある内蔵兵器「スカルクラッシュキャノン」は強力無比だ


「いや。大丈夫。ちょっと頭重いだけだから」


 オウジはそういいながら、自分の額を押さえた

 渡された食事は、膝の上に乗ったまま手をつけていない


「そりゃー、そんなゴリッパな角つけてりゃ頭も重くなるにゃ」


 固焼きのバンをスープに浸しながらいったのは、ケットシーのゴウガシャだ

 魔法を操るのが得意な種族で、見た目は二足歩行の猫そのもの

 どういうわけかサバイバル技術に秀でており、この食事も彼が作った

 性別は一応男でおっさんなのだが、ビジュアル的には真っ黒なマスコット猫だ


「上も下もゴリッパってこと? なにそれオイシイ!」


 なにやら頬を染めているのは、吸血鬼のシャルシェリス

 女性でありながら強力な腕力を誇り、日光の下を歩ける稀有な存在だ

 彼女の配下は特殊で、昼は地上を、夜は空を翔る動死体である

 当人も含めて、その全てが「腐女子」であるというイラン設定つきだ

 ちなみに

 オウジの頭には、やたら立派な角が生えていた

 恐らくゲームの使用キャラについていたような、ねじれたいかにも悪魔っぽい形状のやつだろう

 だろう、というのは、鏡などで自分の姿をまだ確認していないからだ

 顔もゲームと同じなのだろう

 デフォルトから知人の顔グラフィックをいじる職人に作ってもらった、美形系魔王フェイスになっているはずだ

 とりあえず、髪の毛は長くなっていた

 腰の位置まである髪の毛は、今はヒモでくくってある

 やたら銀色で、光を反射しまくりな髪の毛だ

 じっと見ていたら目がやられそうだが、自分の頭上にあるので問題ない


「ていうか、ここどこだにゃ」


 スープに浸したパンをコンバットナイフで食べていたゴウガシャが、周りを見渡す

 金属の骸骨をがちがちと鳴らしながらパンを飲み下したベイリーアワーが、首を傾げた


「どこってとっつぁん。ボケたのか? 昨日、バイナス大河近くの大平原だって自分で言ってたろ」


「だれがとっつぁんだにゃコノヤロウ。超プリティーキュートな私に向って。あほか、周りを見てみるにゃ。昨日と明らかに風景が違うにゃ」


「ああ? ……マジだ。なんだ。どこだここ」


「そういえば今朝方団長が同じような事を……」


「まともなのは団長と私だけにゃのかこの傭兵団は。リストラを考えるべきだにゃ」


 不思議そうに周囲を見回すベイリーアワーとモクターンに、ゴウガシャは呆れた様子でため息をつく

 引き合いに出されたオウジだが、ぶっちゃけ場所が変わったとかそれ以前の状態なので乾いた苦笑いを返すだけだった


「そうです。是非そうすべきです。ベイリーアワーとモクターンではカップリングできません。出来ればもっとこう、優男風の。あ、でも歴戦のおじ様も……団長は受け!? いえ、まって! がんばれば最悪あの二人も擬人化すればいける可能性も微レ存!」


「うっせぇこのクサレ女ゴラ。心臓と頭吹き飛ばすぞ」


「自分はその、植物ですので。動物的なのは……」


「あーあーあー。朝飯ぐらい静かにくえにゃいのかにゃ。ボニーボリーを見習うにゃ」


 うんざりした様子でゴウガシャが指差したのは、空中に浮いた土偶だ

 更に正確に言えば、180cmぐらいの土偶である

 それが中空に浮いたまま、微動にせず佇んでいるのだ

 土偶の名はボニーボリー

 土鬼族と呼ばれる、意識を持った土の魔物の上位種だ

 人間と意思の疎通も出来る種族で会話も可能なはずなのだが、ボニーボリーは基本的に無口で喋らない

 意思疎通は通常フリップで行われるのだが、理由はその方がかっこいいから、らしい

 率いる兵士ユニットともども、接近戦も遠距離戦もこなす万能系だ


「アイツはおちついてるっつーか、しゃべらねぇじゃねぇーか」


「え、っていうか、本当にここってどこなの? 知らないところにきちゃったって事? 魔術的な何かで」


「夜番はベイリーアワーだったはずだにゃ」


「ああ。だが、別に何も……いや。あった」


 思い出すようにベイリーアワーが手を叩く

 大きな金属音に、近くにいたシャルシェリスが顔を顰める


「昨日のまよなかぐれぇに、ダンナのテントがピカーって光ってたなぁ」


「おまえにゃ。んなことあったら起こせよふつうに。にゃにかんがえてにゃよ」


「んったってよぉ。ダンナのテントが光ってんのてデフォルトじゃねぇーか」


「え、ボクのテント光るの?」


 聞き捨てならない言葉に、オウジが食いつく

 もしかしたら、その発光がこの現象の原因かもしれないと思ったからだ


「そういえば光りますよね、団長のテント。まさかっ! 自家発電で発光現象!?」


「オマエ少し黙れこのシモネタ女!! 脳みそまで腐ってんのか、ああ!?」


「失礼ですね! 確かに不死者ですけどぴんぴんしてますよ! 付いて無いですけどねっ!!」


「ぶっ殺すぞてめぇ!?」


「うっせぇーっつってるにゃろうがこのぼけぇ! まあ、ほれ。団長は夜テントの中で合成とかやってるからにゃ」


 確かに、人が捌けてきた真夜中に合成をしている事はよくあった

 こまめにアイテム強化にいそしむのは、オウジの趣味だった

 言われて見れば、合成のエフェクトは光を発生させていたはずだ

 なるほど、外で合成をしていると、部隊長連中にはそう見えたのか

 そんなあさっての事を考えながら、オウジは頭を振った

 いや、そこじゃない

 問題なのはそこじゃない


「いや、まって。まってまって。それよりもおかしいことない? ボクのこととか」


「団長がおかしいのは今に始まった事じゃないにゃ」


「あ、はい」


 ばっさり斬り捨てられ、オウジはさめざめと泣いた

 この世界はゲームの世界なのか

 そもそも何故オウジの体がゲームのキャラになっているのか

 まったく意味不明だ

 さっきからメニュー画面を出そうとしているが、一向に応答はない

 その割りに、増兵は使うことが出来た

 オウジはぽっと思い立って、平原のほうに向って手を翳す


「ファイヤボール」


 それは遠距離攻撃用の通常スキルの名前だ

 口にしようとした瞬間、オウジの中で劇的な変化が起こった

 自身の身体の中を流れる、「それまで感じた事がないもの」を、「それまでしたはずの無い事」をして「何か」に変質させる

 その「何か」は、「ファイやボール」と口にした瞬間、掌から発射された

 コブシ二つ分ほどの火球となったそれは、一直線に飛んでいく

 そして、おおよそその辺り、と狙いをつけたところで、爆発した

 半径5mほどの爆炎が広がり、大きな音が響く


「どうしたよダンナ!?」


 驚いて問いかけられ、オウジはびくりと身体を震わせた

 まさか、試してみたらマジで出た、ともいえない


「い、いや、なんか居たかな、と思って?」


「敵かにゃ?」


 瞬間、オウジ以外の全員の目の色が変わった

 それぞれが放つ迫力のようなものに、オウジは思わず竦む


「たぶん、勘違い、かなぁー!」


 半笑いでごまかすが、声は震えていた

 部隊長たちは一旦納得したように気配を消すが、オウジの心臓はバクバクしっぱなしだ


「なんだよ。おどかすんじゃねぇーよ」


「いえ。警戒し過ぎる事はありませんよ。朝起きたら見知らぬ土地にいたなんて、怪現象に巻き込まれているのですし」


「それもそうだにゃぁ」


 ゴウガシャはぼりぼりと頭をかくと、オウジのほうへ向き直る


「とりあえず私とベイリーアワーあたりで偵察してくるのはどうかにゃ。他の連中が居れば、守りは大丈夫だろうからにゃ」


 ベイリーアワーは人馬型であるだけに、移動力が高い

 ゴウガシャのサバイバル系知識があれば、拾える情報も多いだろう

 しかし

 彼らの設定は、公式の種族設定を元に、オウジが考えたものだった

 各部隊長は、雇うときに名前と設定を決め、レベルが1の状態から育て上げるものなのだ

 変わったゲームで、「文章」として傭兵の過去等を設定しなければ遊ぶ事が出来ないのがファンタジー・ウォーの特徴の一つだった

 定番の「あああああ」などの文字で埋めているものも居たが、大半が何かしらの設定をしていたものである

 オウジもあれこれと考えつつ設定したものだが、こういうじたいになるとは露ほども思っていなかった


「団長?」


「あ、うん。お願い。ボクらはここで陣場ってる」


「たのむにゃ。まあ、こんだけ開けた場所なら、モクターンの兵隊並べときゃまず安全だにゃ」


 兵隊というのは、増兵で増やした兵士ユニットの事だろう

 ここでは、戦争が始まってもいないのに兵士を並べることが可能なのだろうか


「モクターン、増兵よろしく」


「分かりました」


 オウジの言葉に、モクターンは一つ頷いた

 頭部と思しき葉の間に手を伸ばすと、ごそごそとまさぐって拳大の種子と思しき物を取り出す

 それを地面に投げると、すぐに芽が出て、成長を始めた

 見る見るうちに出来上がったのは、巨大なつぼみを持った、根で立ち上がった奇妙な植物だった

 二つの大きな葉が手のようにも見えるが、足は四本出し、とても人間には見えない

 というか、そもそもうねうねと動く根と思しき足は触手のようだ

 ガトリング砲戦花という名前のその植物は、ガトリング砲のような勢いで種子を飛ばす奇妙な植物である

 言わずもがな、モクターン配下の兵士ユニットだ

 ガトリング砲戦花はそのつぼみのような部分をぱっくりと開けると、中央に一つだけ付いてる拳大の種子を地面に落す

 種子は見る見るうちに、ガトリング砲戦花へと成長する

 そこからは、倍々ゲームだ


「よし、私達も出発するかにゃ。メシ食ったら」


「なんだよ。すぐ行くんじゃねぇーのかよ」


「飯をおろそかにするヤツから死ぬのが戦場にゃんだバカタレ!」


「これでゴウガシャさん達が見つけてきた村がゴブリンに襲われるところまでがテンプレですよね」


「マンガの見すぎだにゃ」


 ガトリング砲戦花が増えていく様子を片目で見ながら、オウジは顔を引きつらせた

 何が起こっているかは分からない

 だが、ゴウガシャがいうとおり飯は大事だろう

 腹が減っては戦も出来ず

 それは傭兵にとって致命的だ

 なんにしても、とりあえず


「お家帰りたい……」


 オウジのそんな願いは、しばらくは叶いそうになかった

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