こんなん考えたシリーズ・「おっさんとゴブリンとタマちゃんとダンジョン」
その世界は、いたるところにダンジョンが点在していた
ダンジョンと一口に言っても、その成り立ちは様々
超古代文明の遺産もあれば、魔族が作り出した狩場
異世界から呼び出された人間が何故か能力を与えられて、作ることを強制されているケースもあった
そのくたびれたおっさんは、正にそのパターンであったようだ
「なにここ」
「ここは貴方から見れば異世界になります。初期チュートリアルは口頭とインストールの2パターンが用意されていますが、どうしますか?」
宙に浮く水晶玉になんか良い感じの女性の声できかれ、おっさんは軽いのりで「じゃあ、インストールで」と応えた
インストール、というのは言葉通りの意味で、次の瞬間には脳に情報が叩き込まれていた
ここが異世界で、小さな街の近くで、ゴブリンの掘った洞窟の一番奥で、ここからダンジョンを作らなければならない事
この水晶玉がダンジョンコアで、ダンジョン内で定期的に何かを殺さなければならない事と、それは自分が「購入したもの」以外でなければならない事
ダンジョン内で「何かを殺す」と、その魂の価値によってポイントが得られる
そのポイントを元に、様々なものを「購入」してダンジョンを作る
ダンジョンにある物は価値が有り、ダンジョンコアはダンジョンの規模が広がるごとにに高くなる
そして、ダンジョンコアをダンジョンから取り出されたら、ダンジョンマスターは死ぬ
「恐ろしくオーソドックスで一つもひねりがないなぁ」
「分かりやすくて良いじゃないですか」
身も蓋も無いおっさんの物言いに対し、ダンジョンコアも容赦がない
おっさんはしばらく考えた後、いくつかのことを確認し始めた
「呼び出したモンスターって繁殖可能?」
「もちろん」
「じゃあ、ポイントで改造したのって子供に引き継がれるの?」
「いっそモンスターデザインできますよ? 某PCゲームの生命進化シミュレーションゲームみたいに」
「ウッソマジで。超面白そう。でもいいのそんな生命倫理ぶっちぎりなことして。怒られない?」
「そういったものは所詮人間の世界の話ですし、ここは異世界ですから」
「チョークールじゃないですかやだー」
おっさんはとりあえず、自分たちが現れた穴の先住民、ゴブリンの人たちに挨拶することにした
だが、案の定問題が発生する
言葉が通じなかったのだ
おっさんは仕方なく、初期ポイントを使い「ゴブリン語」を習得した
尚、最初おっさんは一ヶ月ぐらいリスニングすればジェスチャーぐらい可能だろうと思ったのだが、残念ながらなんやかんや問題が合って人間は通常ゴブリン語を発音できないらしく、諦めていた
「とまあ、そんなわけでして。奥に越してきました、山田です」
「はあ、それはご丁寧に」
ゴブリンの人は比較的会話が出来る、知能の高いゴブリンだった
話によるとこの群を率いる、ゴブリンマジシャンなのだとか
ゴブリンは基本的に強い(腕力or知能)が仕切っているのだそうで、彼ぐらいはザラにいる
「でもダンジョンマスターって、この場合私等皆殺しにするとかじゃないんですか」
「そうなの?」
「まあ、最初の獲物的な」
「なにそれヤダ怖い。スズキさんめっちゃめちゃつよそうじゃん」
スズキとはゴブリンマジシャンの本名だ
別に転生者とかではなく、単に好物がスズキ(魚)なので自分で名乗っているのだいう
「いや、とりあえず5属性の下位魔法を操る程度なんで」
「なんですの5属性って。私興味有ります」
「私の場合は、火、水、風、土、光ですかね」
「なにそれ超強い。完全に私詰んでるじゃないですか怖い。助けて」
「いや、べつに戦うつもりは」
「私も無いですよ。え、どうするのこれ、タマちゃん」
タマちゃんとはダンジョンコアのことだ
「いいんじゃありませんか? 別に戦わなくても」
「なの?」
「最終的に目的は、ダンジョンの中で何かを殺すことですから。ゴブリンの人達じゃなくても」
「そうなんだ」
「あ。もしアレなら……」
そこで、スズキは山田にとある提案をした
自分たちの家畜をダンジョン内で殺すのはどうか、といったのだ
タマちゃん曰く、家畜は魂の価値が低いのでそんなにポイントにもならないが、山田の命を繋ぐのには十二分だという
命の重さに卑賤なんてない、とかっこよく山田はのたまったが、この世界ではそうでもないらしくタマちゃんとスズキに白い目で見られるだけで終わった
スズキたちの家畜というのは、1mほどの大きさの虫の幼虫だった
デカイコガネムシという直球なネーミングの虫の子供なのだそうで、スズキがこれが好物で育てているのだという
実はスズキさん、かなりのエリートゴブリンであった
大体、クラスに一人はいる成績が妙に良いヤツレベルである
この幼虫に山田は思いっきり引く、かに思われたが
逆に現実味がなさ過ぎて普通に受け入れることが出来ていた
あまりにも動物に触れる機会がなさ過ぎて、逆に何が異常なのか判断が付かなくなっちゃっていたのだ
この幼虫のお礼に、山田はポイントで樽酒を買って振舞った
引っ越し祝いのついでである
だが
この酒が思わぬ効果を生んだ
「あの、ゴブリンさん達が酒飲んでないてるんですけど」
「酒は滅多に飲めないですし、何よりこの酒は美味いですからね」
「そんなに喜んでもらえると、なんか嬉しいなぁ」
山田は典型的な、喜ばれると調子に乗るタイプだった
ついでに、ということで、ゴブリンさん達に武器を送ることにする
ナイフと、スズキさん用の魔法力を高める杖だ
「あ、あの、人間を積極的に襲ったり?」
「逆に私達襲われる側なんで。好き好んで襲いやしませんよ。彼等すごく執念深いですから。あ、すみません」
「いえいえ。私もどっちかというと襲う側になるわけですし、はい」
酒のお返しにと、山田はゴブリン達から食べ物を分けてもらった
別に食べなくても良いらしいのだが、食べられないわけでは無いらしい
ありがたく分けてもらったものを食べ、酒を飲み、その日はそのままゴブリン達と雑魚寝をした
日が空けて、山田はどのようなダンジョンを作るかを考え始めた
タマちゃんとトイメンで考えようとしていたのだが、何故か隣にはスズキもいる
が、誰も突っ込まないので、相談はその三人で行われた
「まず、どんなダンジョンを作るか考えていただきたいです」
「人間誘い込む感じにしなきゃでもないんでしょ? じゃあ、鹿とか誘い込むとか」
「もしあれでしたら、私達ゴブリンが誘い込んで殺すっていう手もありますよ。どうせ狩りしてますし」
「ええ!? いや、そういうプロの方にお願いできるならありがたいですけど! いや、でしたらあの、そのつどお礼をさせていただく形で」
「いえ、折角同じ穴にすんでいるよしみですし」
「いやいやいや、流石にそれはほら、私のほうが申し訳ないというか」
「この杖や剣を頂いたことを考えればそれでもう」
「それはあくまで、お近づきの印ですから!」
「日本人かっ!」
タマちゃんのつっこみでとりあえず遠慮合戦は収まり、一先ずの方向が定まった
得物をとってきて、取れたポイントの何割かをゴブリン達のために使う、という方向で話がまとまる
いってみれば雇用関係なのだが、ゴブリンにはそういった概念が無いらしく、スズキはしきりに感心をしていた
「人間って言うのは色々考えるんですね」
「それを理解できるゴブリンさんってめずらしいんじゃないの、タマちゃん」
「いえ、ゴブリンさんって会話できると賢いですよ?」
「まじか。ゴブリンの見方変わるわ」
とにかく、当面の活動内容は決まった
次の議題は、モンスターだ
「一つ考えたのがね。家畜モンスターを作るっていうのどうだろうか。カーバンクルとか」
「あの、宝石の付いたネズミですね。時々食べますが」
「スズキさんって食通ですよね」
「いや。食道楽が災いして、未だに群が大きくなりません」
「またまた」
「いいからっ!」
タマちゃんに促され、山田はモンスターデザインに入った
身体の一部に魔力を貯める器官をつくり、なんか結晶を作るモンスター
「そんなものつくってどうするんです?」
「売れるかなーって」
「確かに人間相手の商売には利用できますね」
「人間相手の商売ですか。考えた事もありませんでしたね」
「スズキさんなら出来そうですが?」
「残念ながらお互いの言葉を理解できないものですから。生物的な原因で」
言葉が違い、しかもお互いに習得不可能というのは、種族間に大きな溝を作るらしい
ゴブリンは基本的に人間よりおバカで、スズキのようなタイプはそれこそ一クラスに一人ぐらいの割合なのだという
更にいうとその中でもスズキは穏健派で長生きをしているらしく、多くのゴブリンはわりとすぐに死ぬので集落とかもつくらないのだとか
「人間が思ってるのと大体変わりませんよ、ゴブリン。あ、すみません」
「いえ、タマちゃんの言うとおりだと思いますよ」
「スズキさんマジで珍しく無いタイプなの? なんか天才系なんじゃ」
ちょっと不安になりつつも、とりあえず件のモンスターを製造する事にする
出来上がったのは、アブラムシみたいなヤツだった
50cmぐらいの大きさで、背中に魔力結晶を作る
一個を作るのに大体一年
取り外すには殺すしかない
子供を一度に20ほど生むが、そのときに魔力を使う
そのため、子供を生むと魔力結晶が取れない
「一年育てて、子供を生ます個体と取る固体を見定める感じ」
「よいバランスかと思います。エサは植物ですね、大地と植物の魔力を吸収する。良いと思います」
地面の中で育てる事で、そこらへんの魔力を吸収するらしい
魔力は世界に沢山散らばっているらしいので、別にこのモンスターが一万匹一箇所に集まっても枯渇する事は無いとか
「これは。美味そうですね」
「スズキさんマジグルメだから。あ、収穫の時期に成ったらどうぞ、肉は差し上げますよ」
「いや、それは、いいんですか? ではお礼に、色々お手伝いしましょう」
新たな契約が決まった
次に山田が作ることにしたのは、ゴブリン達をお手伝いする生物だ
そこで目をつけたのが、スズキが飼育している家畜だった
ここのゴブリン達はスズキのせい、というかおかげ、というか、昆虫の扱いに長けている
なのでお手伝い生物も昆虫にすることにした
昆虫は基本知能が低いイメージだが、ここは異世界だしどうせ製作する過程でそういったものはいじれるのでぶっちゃけどうでも良い
ゴリゴリ知性のステータス割り振って、犬並にゴブリンになつく生物として設定する
「いくつか種類作るかなぁ」
「それでしたら、真社会生物はどうでしょう」
「なにそれ」
「要するにアリとか蜂です」
兵隊アリや働きありなどの種類がいる、アレだ
色々考え、山田はモンスターを作り上げた
そのなも「ゴブリンコガネ」
女王コガネムシが卵を産むのだが、これらはゴブリンの世話が無いと上手く羽化しない
働きコガネはいるのだが、彼等は卵の世話の仕方を本能的に知らないのだ
羽化した幼虫コガネの世話も、ゴブリンがすることになる
働きコガネの主な仕事は、エサの確保と運搬になる
ここでも、彼等はゴブリンと共同でそれを行う
働きコガネの外見は、長い四本足を持つコガネムシだ
鹿や馬のように発達した足で、かなりの速度で走る事ができる
前脚の部分は小さく、物を掴んだりする事ができた
鋭いつめもついているので、飛び掛って相手を攻撃する事もできる
雑食性なので、草も肉もいけた
体格は大きいが、爬虫類並に燃費が良く、一週間ほど飲み食いをしなくても良い頑丈な体を持っている
それらのステータスを可能にしているのは、卵と幼虫時代にゴブリンがいなくては生きていけない点だ
そのこともあり、彼等はゴブリンを慕い、良く尽くす
ちなみに、女王コガネのビジュアルは人間の美女だった
「なんで。にんじゃなんで」
「どうもダンジョンマスター系統の製作で、真社会のマザーは美女ビジュアルって決まってるみたいです」
世界の意思、とでもいえばいいのだろうか
ほかには、3種類のコガネがいる
巣の周辺や強敵向けの、強力な前脚を持つインファイター「剣士コガネ」
溜め込んだ魔力で魔法を飛ばす「魔術コガネ」
生成した科学物質で相手を焼き殺す「砲台コガネ」
ついでに言うと、どのコガネも基本的にマヒ毒を顎に持っている
ダンジョンに持ってきて殺すためだ
その辺は抜かりない山田だった、といいたいところだが、提案したのはタマちゃんだった
「凶悪そうですな。しかし何故でしょう。食指が湧かないというか、すごく愛らしく見えます」
「なによりです、はい」
どうやらスズキのグルメセンサーに引っかからなかったらしい
女王の排卵は、基本的に自身の意思で行えるようにした
増えすぎても減りすぎても困るから、調整できるようにしたのだ
この辺も割りと細かく設定できた
「でもいいんですか? これで残りポイント僅かですよ」
「その辺は大丈夫でしょう。そろそろ朝発った者達が狩りから戻ってきますので」
「もうゴブリンさん達大好き。いないなんて考えられない」
「ヒモですね」
「違うし。超対価払うし」
魔力結晶が手に入れば、人間と取引をして収入も得られるはずだ
こうして、山田のほぼ雇ったゴブリンさん任せのダンジョン生活ははじまったのである