トラックが異世界に転生しました
ド田舎の開墾村に、新たな命が誕生した
辺境にありがちな半農半兵の家の、次男坊
開墾する土地はまだあるので、将来は畑を持つ事も出来るだろう
幸いな事に長男は父親と同じ魔法の才があるので、魔獣などから畑を守る事もできるはずだ
残念ながらこの次男坊にはそちらの才はあまりないようではあったが、身体は丈夫そうであった
生まれてから、しばらく
ハイハイが出来るようになったこの次男坊、リヒトとは、とにかくじっとしていない赤ん坊になっていた
広くもない家の中をとにかく這いずり回る
それだけならともかく、何かをとにかく運ぼうとするのだ
哺乳瓶から皿、ゴザにズタ袋
床の上に置いておくと、とりあえず自分の背中に乗せる
そして、ハイハイと動き回るのだ
ただ、家人はそれを特に咎める事をしなかった
というのも、リヒトは適当に動かしてほおり出しておく、ということをしなかったのである
きちんとそれが置いておかれるべき場所に、運んでいたのだ
頭のいい子なのかとも思われたが、別にそういうわけでもなさそうだった
物を運ぶ事以外に関しては、特別優れたところが見られなかった
また、おんぶをしようとすると、凄まじく憮然とした様子になることも多かった
持ち上げて運ばれるのも嫌なようで、動かしたい時は「ここにきなさい」というと、嬉々として自分から動くのだ
また、落ち着きがないというわけでもなかった
じっとしていろ、と言い聞かせると、静かにじっとしている
動き回ってもいい、というと、凄まじい勢いで這いずり回りだす
その頃は、家人も「かわった子だ」と思う程度で、特に気にもとめなかった
掴まり立ちを脱し、二本の足で歩くようになると、リヒトは凄まじい能力を発揮するようになった
とにかく、足が速い
そして、物を運びたがるのだが、このとき持ち上げる量が半端ではなかった
大の大人と同じか、それ以上の荷物を運ぶのだ
それだけ力が有るのだが、不思議な事に「運ぶ」以外のことには殆ど興味を示さなかった
たとえば穴を掘る仕事をさせようとすると、憮然とした表情で「そんなのしょべるかーのしごとじゃないかぁー」と不満げにいうのだ
しょべるかーというのがなんだか分かるものはいなかったが、当人曰く、穴を掘る道具なのだという
それでも一応、言われればしぶしぶ仕事はするのだ。
だが、好きな仕事ではないとどうにも調子が出ないらしく、荷物運びの時に見せる怪力は発揮しないようなのであった
また、リヒトは余りに足が速すぎるせいか、止まるのを苦手としていた
人里でならば特に問題はないのだが、困るのは山道やあぜ道だ
時折魔獣などが出るため、警戒しながら歩かねばならないのだが、リヒトは足が速すぎて、大人を置いてさっさと行ってしまう
そのため一人で魔獣に遭遇する事が、たびたびあったのだ
ただ、先にも言ったようにリヒトはとにかく足が速かった
例え魔獣が現れても、捕まる事がなかったのだ
むしろ魔獣がリヒトに集中するおかげで、後から来た大人は楽にそれを退治することが出来た
はじめのうちは危険だから、と注意するものも居たが、実際に目にしたものはそれを言わなくなった
何しろ、リヒトのすばしこさは、尋常ならざるものがあったのだ
ウルフを引き離すほどの脚の速さで、ホーネットを上回る小回りなのである
危ないから止めろ、というのもばかばかしくなるほどだ
街や、それに近い農村ならいざ知らず、村は辺境にあった
魔獣はすぐそこに住んでいるものであり、退治出来るなら子供でも戦うのが当たり前だった
幼いリヒトでも、戦えるのであれば戦力として数えられる場所なのだ
ついでに武器を持って攻撃する事ができれば言う事はなかったのだが、残念ながらリヒトは運ぶ事以外はとことん苦手らしかった
棍棒を振り回しても、逃げ回る魔獣に当てることが出来なかったのである
それでも、ひきつける囮役としては破格の能力を持っている
荷物を沢山運べて、魔獣から逃げ切れる脚力を持つ
これは、大変に優秀なことなのだ
あるとき、リヒトの兄がこんな事を言い出した
「オマエ、いっそ体当たりして見たらどうだ」
「えー。やだよぉー。にもつがめちゃくちゃになるじゃんかぁー」
「きちんと固定すれば大丈夫だろ? それに、お前一人で始末できたほうが早く運べるぞ」
「そっかぁー! にーちゃんあたまいいなぁー! でも、まじゅう、ひきころしたらほうりついはんになるよ?」
「そんな法律ねぇよ。むしろ殺したほうがいいんだよ。国でも推奨されてるだろうが」
「そっかぁー! にほんと、ほーりつちがうんだなぁー!」
翌日、リヒトは嬉々として魔獣に体当たりを敢行した
結果は、凄まじいものとなった
標的となったのはウルフだったのだが、まるで坂道から転げ落ちる台車に轢かれた様に吹き飛んだのだ
高く空中にほおり出され、地面にぐしゃりと落下したウルフは、全身の骨がものの見事に粉砕されていた
ウルフをそんな目にあわせた当のリヒトは、殆ど無傷だった
それどころか、減速することすらせずに走り続けていたのである
危険を察知し、逃げ惑うウルフだったが、走ることに関してリヒトの能力は飛びぬけたものがあった
ものの見事に後方から弾き飛ばされ、リヒトはウルフを一人で退治してしまったのだ
これには、流石の大人達も度肝を抜かれた
ただ、リヒトは少し不満があるようで
「ふろんとがなまみなんだよなぁー。なんか、ばんぱーてきなのがほしいよぉー」
等とぼやいていた
折角の戦力という事で、その願いは兄のアイディアで、叶えられる事となる
金属で作られた、専用のカブトを贈られたのだ
リヒトはこれを、とても喜んだ
こうして、背中に背負子を背負い、大き目のカブトをかぶった少年が、辺境の村に誕生したのである
この後転生した経緯と、兄貴の話しに
兄貴はいいやつ、というか、弟を「操縦」する係りになる感じかな
当人も優秀な魔法使いになる予定




