表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
love fool  作者: ヒルナギ
9/19

第三幕 其の一

第三幕


其の一


そこにいるものは皆、場違いな侵入者を見る目でロミオを見た。

そう、このファベーラの裏通りの奥にある広場に相応しいのは、流される血と死を吐き出す銃口の熱であり、愛に酔いしれたおとこの瞳ではない。

対峙しているのは、ティボルトとマキューシオであり、双方に付き添い人がいた。

マキューシオの付き添い人は、ベンヴォーリオである。

ティボルトは、獲物を狙う蛇のような目でロミオを睨み、マキューシオはあから様に舌打ちをした。

「それで、何をいってるんだ、おまえは」

ディボルトは、毒を吐くような口調で、ロミオを問い詰める。

「簡単なことさ」

ロミオは、夢見るような口調で語った。

「争いをやめて、今夜は皆、愛するものの元へ帰ろうといったんだ」

そこにいるものは、全員失笑した。

ティボルトは唾を吐き捨て、腰の銃を抜く。

シルバーホワイトの、美しい銃が姿を現す。

18インチの長大な銃身を持つ、カスタムメイドのその銃は、ロミオの持つ凶悪な銃とは違い優美なスタイルを持っていた。

しかし、その使用する弾丸は460ウエザビーマグナムという、ロミオの銃よりも強大な破壊力のある銃である。

「寝言にしても、間抜けすぎるぞ、ロミオ」

月の光に照らされたティボルトの精悍な顔は、血に飢えた爬虫類のように冷酷であった。

「おれの銃は、貴様の血を見るまで、満足することはない」

ロミオは、薄く笑みを浮かべると、頷いた。

「なるほど、判ったよ」

ロミオは、懐からナイフを出す。

ナイフというよりは、短剣といったほうがいいサイズの刃が、月の光を受け冴えた輝きを見せる。

ティボルトが、嘲笑した。

「ふん、やる気をだしたのかもしれんが、得物が違うぞ」

ロミオは優しく笑みを浮かべたまま、首を振る。

「いや、これでいい」

ロミオはその短剣を振り上げ、一切の躊躇いなく自分の左腕に突き刺した。

短剣は腕を貫き、切っ先を見せている。

ロミオは、物凄い苦痛に襲われているのだろうが、笑みを浮かべたままであった。

マキューシオも、ティボルトも、酷くハレンチなものを見せつけられた紳士のような顔で、ロミオを見る。

ロミオは、額に汗を滲ませたが、涼しげな笑みは消さず一気に短剣を引き抜いた。

金属質の輝きを帯びた血が、放物線を描き月の光を受け煌めく。

「これで、満足したか、おまえの銃は」

ロミオは、夢見るような調子でティボルトに囁きかける。

「足りなければ、次は胸を刺そうか?」

「やめろ」

ティボルトは、生まれてこの方、ここまで恥知らずな行為は見たことがないという顔をして、叫ぶ。

「やめろ、この愚か者」

ベンヴォーリオがロミオに駆け寄り、無理矢理地面に座らせると、治療を始める。

「おまえは馬鹿者だと思っていたが」

ベンヴォーリオは、心底うんざりした口調で、ロミオの傷口を消毒し血止めを塗り込む。

「ここまで、馬鹿とは思わなかったぞ、ロミオ」

「すまない」

ロミオの謝罪を、ベンヴォーリオは鼻で笑い飛ばし、針と糸を取り出す。

「おまえの傷口を縫ってきたせいで、裁縫が上手くなっちまった。全くしまらない」

「すまない」

繰り返されたロミオの謝罪に対し、ベンヴォーリオは睨み付けて答える。

「謝るくらいなら、傷をつくるな」

「くだらなすぎる」

ティボルトは、うんざりしたように言うと、銃を納めた。

そして、振り返り付き添い人へ帰るように促す。

その背中に、マキューシオが声をかける。

「おい、待てよ、この腰抜け」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ