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love fool  作者: ヒルナギ
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第三幕 其の二

其の二


ティボルトは、振り向いてマキューシオを見た。

その口元には、楽しげと言っていいような笑みが、浮かんでいる。

「おまえの相手は、ロミオじゃない。おまえは代理人としておれを承認した。そうだろう?」

ティボルトは、目に面白がっている色を浮かべた。

「ほう」

そして、その瞳には、血に飢えた獣の欲望が透けて見える。

「マキューシオ、おまえはガンビーノと直接繋がりを持ってるつもりなんだろうが」

ティボルトは、その声に酷薄な響きを滲ませた。

「決闘では、そんなものは役に立たないぞ」

マキューシオは、失笑する。

「おまえこそ、決闘ではキャピュレットの名がつくものが勝つようにできてると、信じてるんだろうが」

マキューシオは、嘲りを声にのせた。

「ロミオもおれも、家の名前なんぞ役に立たない無法の荒野で戦ってきたんだ。温室で、大事に育てられたおまえと違ってな」

ティボルトは、頬を赤く染める。

マキューシオは、こころの中でほくそ笑んだ。

ティボルトにあるのは、ロミオへの劣等感である。

あえて実用性が無い、カスタムメイドの銃を持っているところも、その現れだ。

ロミオより強力な銃を持つことが重要であり、それが実戦では役に立たないことなど、ティボルトには意味を持っていなかった。

ロミオの持つ、ソード社製リボルビングオートマティックは、30ー06ウィンチェスターマグナムという拳銃弾としては強力すぎる弾を扱う。

しかし、ガスシリンダーで重たいボルトを動かすことで、強大な反動を殺す仕組みを持っており、使い手を選ぶが辛うじて実戦でも使用可能な銃だ。

一方ティボルトのホワイトホースは、コルトSAAという百年前の銃と同様の仕組みを持つ銃であり、美しく強力な銃ではあるが実用性を著しく欠く。

決闘で、S&W・M19を持つマキューシオと対峙すれば、本来なら勝てるものではない。

おそらく、ティボルトは自分の部下に代理人をさせるつもりであったはずだ。

それは、マキューシオの望むところではない。

マキューシオは、ティボルトを殺すつもりであった。

もし、ロミオが本気でジュリエットと添い遂げるつもりならば、ティボルトこそが唯一の障害である。

ある意味、メデジンとカリという二大カルテルの代理戦争としての様相を持つ、キャピュレットとモンタギューの対立は当主からするとただのポーズに過ぎないものだ。

両家は、対立しているように見せかけることで、メデジンそしてカリとうまくやっていけるから、そうしている。

だから、両家とも表面的にロミオとジュリエットを絶縁したとしても、こころの中では祝福するだろう。

けれど、ティボルトは違う。

こいつにあるのは、ロミオへの憎しみだ。

マキューシオは、挑発を続ける。

「御大層に立派な銃を、腰に提げているようだが」

マキューシオは、あからさまに嘲りの笑みを浮かべる。

「父親の膝から降りたことの無いおまえは、その銃だって撃ったことは無いんだろう」

ティボルトの顔から、表情が消えた。

マキューシオは、満足げに笑う。

本気に、なりやがった。

これで、銃を抜かないわけにはいくまい。

最悪、相討ちでいいと、マキューシオは思う。

「ロミオの犬の癖に、でかい口をたたく」

ティボルトが毒のような憎しみをこめて、言った。

マキューシオは、優しげといってもいい笑みでかえす。

「おや、嫉妬なのか? おまえもロミオに飼われたいんだろ」

「ごたくはもう沢山だ」

ティボルトは、鋼のような固さを瞳に宿らせる。

「おしゃべりをしに来たわけじゃあない、そろそろ始めようか」

「よかろう」

マキューシオは、頷く。

我ながら、不思議である。

自分の恋を考えれば、ロミオがジュリエットと結ばれないようすべきなのに。

なぜ、おれはこいつを殺そうとするのか。

マキューシオは、自嘲する。

なるほど愛は、ひとを愚かにするようだ。

けれど、愛は欲望を超え崇高なものだとも思う。

ティボルトは、マキューシオの笑いを自分に向けたものと思い、怒りで瞳を輝かす。

そして、後ろにいる従者グレゴリーに言った。

「10数えろ、それが終わったら決闘の合図だ」

グレゴリーが頷き、数え始める。

その時、ベンヴォーリオの腕をふりきって、ロミオがマキューシオの前に立ちふさがった。

「やめろ、やめてくれ」

ロミオは、叫ぶ。

マキューシオは、うんざりしたようにロミオの身体を脇にそかそうとした。

「今夜は、誰にも死んで欲しくないし、殺して欲しくない。今夜は、祝福された夜としたいんだ、おれは」

ロミオの声は、絶叫に近づいてゆく。

マキューシオは、首を振った。

「寝言は、寝て言ってくれ。何かを得るなら、何かが失われる。それにおまえがいると、ティボルトが見えない」

ロミオはさらに、叫ぶ。

「おれはほんの子供のころから、望まれるまま、何十人も殺してきた。なぜ、たった一夜の平和すら許されない」

マキューシオは、一瞬胸を締め付けられるような思いにとらわれ悲しげな顔となる。

その時、訃報を告げる鐘のような銃声が轟き、マキューシオは自分の腹で炎が炸裂するのを感じた。


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