第三話
俺達は普通のカップルより、少し多めに喧嘩してたと思う。
っつってもどれもこれも些細なことなんだけど。
すぐに仲直りしたし。
でもまぁ、色々あって、別れよっかなーって思ったこともある。
だけど俺達は それを全部乗り越えて 一緒にいた。
一番険悪だったのはー…なんだろ、あ、“お前俺のヨーグルト食ったな”事件!?
うん、それだな、それ。あいつめ…俺のヨーグルト…しかも逆ギレするしー。
って、今思うとくだらねーな、ほんと。
もしかして俺らってけっこー平和?
あははー、あんなんで別れるとか悩んでたんだっけー。笑えるなぁ。
…あ、もいっこあった。険悪なの。俺の一方的だけど。
たしかー、付き合い始めて二ヵ月くらいんとき。
「あ、香澄?今どこ?」
暇だったから電話して、どっか遊びにいこーかなーって。
『え?今?』
「あれ?何で小声?もしかしてまた本読んでんのー?」
『うん、図書館だから。あとでいい?切るよー?』
ええ!彼氏がこんな暇してんのにー!?
香澄は本が好き。
なんか、けっこー字のちっちぇーヤツとか部屋にあるし、よく読んでる。
「今ひとり?」
『ううん、違うけど…。』
「なーどっか行かねー?」
『え?』
「つか誰といんの?」
『誰って、鈴木君だよ。』
…。
は!?
「鈴木くんって、え、鈴木くん!?つーか耕介!?ちょっとお前らそこで待ってろな!」
『は?』
「だから行くから。」
『ちょといいよ、何言ってんの。』
「行く!」
『いいってば。』
なんだよそれ!俺がこんな暇してるときにー!!
…って、それはかんけーないけど。
うわー、耕介?よりにもよって耕介と…。
「浮気!」
『だからそんなんじゃないし。』
だからも何もねー!
こんなときにまで冷静だし。冷めてるし!
「とにかく行くからな!!」
『はぁ?ちょ、和俊?』
無理やり電話を切ってやった。
バイク飛ばして図書館に着いたら、階段上ったところに 香澄と耕介がいた。
「何やってんだよお前らは!!」
怒鳴ったら、なんか適当に言い訳しやがった。
俺がそんなんに騙されるわけねー!
「和俊、ほんとに偶然だったし本の話しかしてないよ。」
耕介も、本が好き。
気 合うのかな。
「俺はいいけど、彼女なんだから 香澄のことくらい信用…。」
…は!?
「香澄いい…!?」
耕介は、しまった、っていう顔をする。
「…別に深い意味ないから。呼びにくかっただけだし。」
「呼びにくさとか変わんねーじゃん!」
いつの間に呼び捨てしてんだよ!!
まさか 香澄も耕介とか…。
「ねー、くだらないって和俊ー、もうやめよーよ。」
香澄の言葉に目を見開く。
何だよそれ!
「下らない!?お前なァ、こっちがどんな。」
「もう和俊!」
香澄がいきなり大声だした。
ちょっとたじろぐ俺。
なんだよ!俺はぜんっぜん悪くねーのにぃ!!
「あのね、あたしは!和俊だけでいーから。」
…へ?
「…。」
俺は声も出なかった。
多分耕介も呆然としてて、香澄はちょっと照れてる。
「…じゃあね、帰る。」
俺達に背を向けて、図書館の前の石段を降りていく。
家が近くだから、歩いて…。
「あ、香澄…っ。」
声だけかけて、でもまだ驚いたまんまで追いかけらんなかった。
なんで…別にあんなのふつーじゃん。
もっと凄いのとか、今までいっぱい言われ…。
あ、そっか。
香澄は違う。香澄はあんま言わない。
「…。」
口に手を当てる。
やっべ…嬉し…。
俺。
こんな 惚れてたっけー…。
「…カズ、ごめん。呼び方、嫌ならやめるから。」
なんか歓喜しすぎて、横に耕介がいるの忘れてた。
あ、そっか。呼び方で俺怒ったんじゃん。
なのに今となっては、全然怒る要素なんてないことのように思えた。
「…お前だから、許すんだかんな。」
俺って単純!
「はは。」
「何だよ。」
えー、こんな場面で笑うかぁ?ふつー!
「いや、カズってかなり嫉妬深いんだな。初めてみた。」
…。
あ、…うん、そーかも。
俺もこんなん、初めてかも。
つーかさ。
…なんか俺、何で怒ってたんだろ。
別に大したことじゃなくね?
俺だってさ、女の子と付き合ってたときに他の子と遊びに行ったことあんじゃん。
…香澄と付き合ってからも、二回くらい、あったかも。
「みっともねーよな、かなり惚れてるかも。」
何それ。
自分は良くても相手のことは許せねーの?
それってどーよ、俺。
「確かにみっともねーな。」
「えぇッ、そこはそんなことねーよって言うだろふつー!!」
「はは。でもいいんじゃん?それが恋愛ってやつだろ。」
耕介の話を聞きながら、いつもみたいに話す。
やっぱ俺らって、簡単に壊れねーよなって、思った。
夕方、バイクでゆっくりと走る帰り道。
空が赤くて、なんとなくお前を思い出した。
なんか…。
俺 いつの間にか、こんな好きになってたんだー…。
そう思ったら笑えた。
喧嘩中なのに、幸せで笑ってしまった。
謝りに行こう。
いつもみたいに、きっと冷めた顔で、もーいいよって言ってくれるだろーから。
あ、でもやっぱ耕介は警戒範囲ね!
油断大敵!