表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
HERO  作者: 沙里音
14/15

第十四話

 




 

「和俊、寒くないか?」


「暖房きかせてもらえないかしらね、…。」




父さんの声も母さんの声も優しかった。

優しすぎて 怖かった。




「…。」

 



小さく小さく声を出した。


何かが燃え尽きそうなことを感じてた。




「なに?なに、和俊。」




あ、届いてたんだ。

よかった。




「…れ、」




やべー。

また泣きそう。


なんで。






「…れ…最後に、会ってやることも……。」






何処までも 何度でも 思うんだ。

お前のことばっかり。


お前のことばっかり。




「何も…て、やれなか…。」




最後まで元気だったって、思わせてやりたかったんだ。

 

あのテープ聞いて、お前がそう思ってくれると良いな。


でもさ、本音聞いてほしかったのも、嘘じゃないよ。




「…和俊…。」




意地張って、見せらんなくて、会わなかったけど。



会いたかったのも ほんとだよ。




「和俊…違うわ、そうじゃない。」




母さんが、ゆっくりと話す。




「和俊は 香澄ちゃんに、してあげたい事がいっぱいあったのよ。…ね、いっぱいあって…ありすぎて。」




俺は黙って聞いていた。

もう瞬きするのさえ辛かった。






「してあげる事が出来たたくさんのことを、何でもないことのように思ってしまうだけよ。」






『和俊』




「ほら、思い出して?だって私、見たことないもの。」




 

『あのね あたしは』


『和俊だけでいーから』




 

「和俊の隣で、幸せそうな 香澄ちゃんしか、見たことないもの。」






『うん、あたしも 好きだった』




香澄。




「…ね……?




 

香澄。


俺 愛されてた?

ちゃんとお前に 愛されてた?




うん。だったらそれだけで、生まれた意味、あるって思えるよ。


変かな。

 




 

「ん……う、ん。」






なぁ、此処で懺悔なんだけどー。

俺さ、謝らなきゃなんないこといっぱいあんだ。



えっとまずさ、香澄のピアス壊しちゃったの俺なんだ。


お前いつの間にか壊れたってゆってたけど、俺が踏んじゃったの。

痛かったわーあれ。…や、マジごめん。




あと新発売のお菓子、なんて名前だっけ?あれ一緒に食おうって買ったのに一人で食っちゃったことと。

だっておいしかったんだもんさー。



今度お前にも買って…って、今度なんてないんだっけか。 うん。



…あとは、あ、香澄の部屋の壁紙の隅っこに勝手に俺の名前書いちゃったんだった!


見つけたらビビるだろーなー。ごめんっ!




あ、それにこの前借りたCDまだ返してないし。

香澄と付き合ってからも何回か女の子と遊んじゃったこと。

耕介とのこと、疑ったことも。

 


あとさ、約束、守れなくてごめん。


一緒にいるってゆったのにさ。




うん 俺 死んじゃってごめんんな。

最後までカッコ付けてばっかで。


どーしよーもない彼氏だったよな?



よわっちい ヒーローだったよな。






「…ん…。」






俺は思いを巡らせながら 母さんの声に涙を流した。




母親を、生まれて初めて、めちゃくちゃ強いと思った。

良い親に恵まれたと思った。




 

俺は笑った。


泣きながら、笑った。

 

泣き叫びたかったけど、笑ってた。

静かに静かに。


最期は笑っていようと思ってたから。

憶ていてほしいのは、泣き顔なんかじゃなかったから。






母さん きっと。


香澄も同じ事を言ってくれるんじよないかなって 思えたんだ。



なんか 香澄の声みたいだった。

安心した。



ほんと安心した。




「…。」




全部許された、みたいな感じ。




「ちょっと…寝て…いい?ちょっとだけ……。」




 

母さん 俺は、嘘つきで。

どうしようもない息子だったけど。

 

これほど残酷な嘘はないよな。ごめん。



でも俺は、今日ほど嘘つきで良かったって思ったことないよ。




「うん、いいよ。」




最後にそう言って、優しく笑う母さんが見れたから。


ごめんな。最後まで こんなんで。




 

ふ と 笑って目を閉じる。

楽になれた瞬間。







ピーーーーーーーーー







ごめん みんな。




「…ず…とし…?」




そう 覚えていたいのは、泣き顔なんかじゃなかったから。




「和俊…?」




覚えていてほしいのも やっぱり笑った顔だったから。



だからこんなを見せられない。

好きなヤツにはカッコイイところだけ見てほしいって、別におかしいことじゃないだろ?なぁ、香澄。




「ねぇ…、ね……。」




ごめんな、香澄。

お前の中の俺が 永遠のヒーローになるように。




ずっとずっと。



ずーーーっと、ヒーローであり続けるように。

 




 

「いやぁああぁあっ、和俊ぃいいい!!」






いつも陽気な母親の。




叫ぶ初めてのその声は 俺に 届くことはなかった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ