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HERO  作者: 沙里音
10/15

第十話

 



耕介と裕弥が入って来る。



うっわ、何泣きそうな顔してんの、二人とも似合わねー。


あはは…。



……笑えないよ。

笑えない なぁ。




「カズ!!」




裕弥は俺に勢い良く乗っかってきた。

うおっ!ええッそれはないだろ!




「ゆ…や…重…。」


「あッごめん!」




もー…相変わらず…。



ごめん。

心配かけて。




「…。」




あ…れ、いない。

そりゃ俺が呼ばなかったんだけど。

呼ぶなって言ったんだけど。

 

香澄…そんなんで納得するやつじゃねぇのにな。




「香澄…?」


「あ、起こして来るよ。今寝てるんだ。無理やりにでも連れて…。」


「耕介!」




 

うっ…てぇ……思わず大声出してしまった。



…なんだ、出るじゃん。

だいじょうぶ、うん。




そっか、寝てたんだ。良かった、ちょーど良いじゃん。






「…………いい…から…。」






声。

もっと出て。


なぁ。




「…頼み…ある…ん、けど。」


「え、なに?」


「……声…録音、できる…。」




何を残してやれるかな。



ごめん、会ってもやれねぇで。

ああ 情けない。




「俺持ってくるから!家近いから、すぐ…ッ!」

 



…ゆうや。



ごめ…。

…。




「おれさ…あ……ヒーロー…なんだー…。」


「え?」




裕弥がテープを取りに行ってくれたあと、残った耕介に声をかける。


…耕介にっていうよりも、独り言かも。




「だからさ、…最後までかっこよく…いきてーの。」




こんなの、見せるわけには行かないってゆった。

誓いだったのかも。


うん、ごめんなぁ、香澄…ごめん。



耕介は、ああ、と頷いてくれた。

取った手は やっぱり温かかった。




「…これ…はずして…。」




耕介に、俺の口についてた何か重くて喋りにくいやつを外してもらった。


急に息苦しくなったけど、しばらく沈黙が続いて慣れていった。




「…。」




バンッ、とドアが開いて、裕弥が入ってきた。

おお、早い…。


ごめんなー…めっちゃ走ってくれたんだろーな…。




「…これで、良いか。」


「ありがと…。」




うおっ、テープレコーダーかよ!なっつかしー。

裕弥のおばちゃんちょっと時代遅れだからなぁ、助かった。あは…。




「こう…持って…。」




俺はそれを耕介に持ってもらって、一つ息をついた。



ふう。

苦しい。しんどい。痛い。怖い。



だけどお前のためなら 最後までヒーローになる。




「俺が、ばいばいって…ゆったら止めて……。」


「…うん。」




ヒーローに なる。




「…。」




カチ と音がする。

 

そう、俺はヒーロー。

お前のためにだけ 生きていたヒーロー。




「あー…聞こえてる? 香澄。」




声が出る。

さっきの掠れた声じゃなくて。


あー、俺、この声どーやって出してんだろ。




「なんかいきなりごめんな、会ってもやれねぇで。」




やっぱ俺って超人的なんじゃねーの!?

なんか痛みもふっきれたよーな…。




「湿ったくなるかもだけど、きーて。いっぱい言いたいことあんだよ。」




うん。

いっぱいある。言い残したことばっかり。


あー、もっともっともっと 一緒にいたかったなぁ。




でもそんなことは言ってやんない。

弱音とか絶対、言わない。




 

「お前とはさ、知り合ってから、いろんなことあったよなぁ。」




ちょっと昔話をして、初めて一目惚れだったんだって言った。

 

いっぱいあった。

出会ってから 一年。

ほんとにいっぱい。




「守れなくてごめんな…。」




“ずーっと”


ごめんなぁ あの時は、ほんとにずっと一緒にいたいって思ってたんだよ。



“一緒に いような”




「お前のー、妙に冷めてるところとかさぁ、かなり好きだったわ、うん。」




ほんと。

お前 いっつも冷めてて、さぁ。




「まぁおかげで喧嘩したこともあったけどなぁ。楽しかったけど、良い思い出ばっかりでもないよな。ってか喧嘩のが多かったっけ?」




でも、喧嘩の思い出さえ楽しかった。

ほんとだよ




「けっこう本気で、悩んだこともあったよ。かなり苦しい時期もあったし。」




まぁ誰にだってあるよな。うん。

別れ話とかも、あったっけかなぁ。




「…。」




あ、なんか、しんみりしちゃいそー。




「…うん、生きてたらさぁ、苦しいよなぁ。」




バカ。

弱音は言わねーって、決めたのに。




「だって俺、お前がいなくなったらマジ耐えらんねぇし。」




うわ。こわ。

お前も?


これ、聞いてるとき。




「お前もおんなじ気持ちなんかなぁって思ったら、また苦しー…。」




座っている耕介の顔が、泣いてるように見える。

傍に立つ裕弥の拳は、強く握り締められていた。






「でも、生きてたら苦しいけど、生きてることって すっげー嬉しいよ。」






うん。

死ぬって思ってから気付いてんだけどね。




「だかんな、笑っててな?したら俺も嬉しいから。」




おお!めっちゃヒーローみてーだ!

あはは、なっさけねーヒーローだなぁ。

 


笑ってて じゃなくて、本当は。






俺がお前を 笑わせてやりたかったな もっと。


ずっと一緒にいたかった、…なんて。




 

言わないけどな。

言えないけどな。






「なぁ? 俺は えーえんのヒーローになるから。」






だから 思っていて。



最後までヒーローだったって。

こんなカッコ悪い じゃ なくて。


ちゃんと最後まで。




「ずっと お前だけの。」




笑ってたって。




「今までありがと。お前のおかげでさぁ、すっげぇ楽しかったよ。」

 



けっこー長く喋ったかな。

疲れた。


でも言いたかったのは、生きてってこと。




「あ、初めてゆうなぁ、今まで好きだーってしかゆっつなかったから。」






笑ってて ずっと。



ずっとずーっと。




「寒いって笑うなよ?」




今までも。

今も。

この先も。






「愛してる 香澄。」

 




 

愛してるって こと。




 

「…。」




名残おしー。

お前いま どんな顔してんのかな。


やっぱ俺はいないんだろーな、もうこの世の何処にも。






「ばいばい…。」






カチ と音が鳴って、俺の言葉通り、耕介はテープを止めてくれた。




 

さよなら 香澄。




もう会うことのない“いとしい人”。


俺に、初めてこんな気持ちを教えてくれた人。






さよなら 愛してる。









愛してる。



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