HEROS ヒーローズ
多少下ネタがあるのでご注意を
HEROS ヒーローズ
「純くん、それ……なに?」
「エロ本以外のなんに見えるんや?」
親友は雑誌から目を離さずにのんきに話す。
「…………さて、と。純くん、ここはどこ?」
「なに言うとるん? ここは学校やろ?」
「うん、そうだね。君は何歳?」
「17歳」
うんうん、よく分かってるじゃないか、自分の現状が。
「なんで17歳の少年が学校にエロ本もってきてるんだよぉ!!」
「道端に落ちとったから。そんなこと言うて、緋色も実は興味あるんやろ?」
「あるわけないだろ! それに、君は僕のヒーローなんだぞ! ヒーローのイメージを崩さないでくれ!」
「……知っとるか? ヒーローはな、エッチ(H)とエロ(ERO)でできとんねん。やから、ヒーローがエロ本読むのは当たり前ーってな」
――――本当に、純くんってやつは……。
こんなやつでも彼は僕の親友だし、“ヒーロー”だ。
「んー、ねんむいなぁ……。自習なんて暇すぎるやろ……」
雑誌に飽きたらしい純くんは大きく伸びをして机に突っ伏す。
「自習の時間だってわかってるならちゃんと自習しなよ」
「ひーいーろ。周り見てみぃ。みーんん好きなことやっとるやろ? やからこうやって話してても何の問題もあらへん。要は自習なんてせんでええんや。先生も課題プリント用意してかへんだしな」
「そういう問題じゃないだろ?」
「固いこと言うなや。そーんなこと言うとると、お前の好きな人、ここで大声で言うぞ?」
「なっ……!」
な、んでっ、お前が、それを……。
驚く僕を見て純くんはニヤニヤと笑う。
「お前の視線見とったらようわかるわ。で、なんや、多恵ちゃんのことが好きなんか?」
「名前をっ、出すな馬鹿っ!!」
反射的に本気の裏拳を純くんに叩きこんだ。
あ、ヤバ。
「ごめん、大丈夫?」
「大丈夫やあらへん……って言うたらどうする?」
「ばーか」
純くんにデコピンを食らわせて教科書に向き直る。
「はぁー。暇やなー。なんならやさしーおにーさんが悩める少年の悩み事を解決したるで?」
「いらん!」
純くんに手伝ってもらったら僕の株は落ちに落ちまくって告る前にフラれるのが目に見えてる。
「そういうなや。まー、えー舞台用意したる。感謝しとき」
「余計なことするなよ!」
「それはしろっていう振りか?」
「違う! 絶対にするなってことだ!」
「ますますしろって振りにしか聞こえんなぁ……」
「したら絶交だからな!」
まったく……。
「了解、了解。緋色の意思を尊重して余計なことはせんとくわ」
「そうしてくれ」
「それにしても、ひひ、あんなに気弱で泣き虫やった緋色がここまで言うようになるとはなぁ」
純くんは楽しそうに笑った。
「るさい。泣き虫とか気弱とか言うな! 事実だったけど!」
「事実ならええやん。…………で、お前は今もあいつらが憎いか?」
さっきとは打って変わった真剣な視線と低い声音。
あぁもう本当に純くんってやつは……。
「憎く――ない! どこの誰かさんが手を差し伸べてくれたから! “ヒーロー”になってくれたから!! だから、あいつらを憎いとは思ってない!」
吐き捨てるように言って僕は教科書に向き直る。
「そうか、それはよかった」
見えないけれどきっと彼は微笑んでいるのだろう。
変態でお調子者で不真面目で、欠点を上げれば数えきれないほど上げられるけど、彼は、純くんは、誰よりも優しい。そして心が強い。
「お前はいじめてたやつのことが憎いやろうけど憎んだらあかん。憎しみなんか持っとっても何のええこともないんやから。困ったときはいつでも俺に言い。どこにおってもすぐに助けに行ったるさかい。な、緋色」
こう言っていじめられていた僕に手を差し伸べてくれた純くんは今でも僕の“ヒーロー”だ。
「んなこと言うのなら、少しはヒーローらしくしてくれよ……」
「なんか言うたか?」
「何も言ってない!」
きっと睨んでまた教科書を読み始める。
“ヒーロー”らしくない彼だけど、真剣なその姿だけは誰よりも“ヒーロー”だ。
そんな彼のように僕はなりたい。
無理だとわかっているから絶対に誰にも言わないけれど。
「ひーいーろ。緋色!」
「ん? あ、あー、なに?」
「なにトリップしとるんや。授業終わったで。次音楽やし、教室移動せんと」
「あぁ、ごめん純くん。ありがとう」
ボーっとしてたみたいだ。がたがたと自習していた教科書類を片付けロッカーに音楽の教科書を取りに行く。
「なにぼんやりしとったんや? 次の時間、多恵ちゃんの隣だってこと思い出して妄想でもしとったんか?」
「ん、あぁ……」
ぼんやりしてちゃダメだなぁ……。ってちょっと待ったぁ!!
「い、いきなりなに言いだしてんだ、純くん!! んな妄想誰がするかっ! 普通に考え事してただけだっ!!」
「でも、今お前あぁ、って返事したで?」
「話聞いてなかっただけだっ! この変態ヒーロー!!」
「それカッコいいな、変態ヒーロー。カエルとかに変身して戦うんやろ?」
「それだったら普通に変身ヒーローでいいじゃないか、って論点がずれてる……。もういいよ……」
ため息をついて首を振り、純くんをどつく。
「変態ヒーローただいま参上! ってか」
「うん、それだと露出しているみたいに聞こえるから人前で言うのはやめようね」
「カッコようない?」
「カッコよくない。ただの変態」
廊下を歩く僕たちを見てギョッとしながら教室に逃げ込む一年生を見ると悲しく思うね。
「なんで一年は逃げてくんやろなぁ」
「純くんが、こんな金色の髪してるからだと思うよ。見た目も怖いし」
「地毛やけど……?」
「地毛なんて向こうは知らないでしょ。せめて睨みつけるのはやめてあげなさい」
教科書を純くんの頭に振り下ろして続けざまにアッパーを決める。
「よし」
「よしやないわっ! 俺別に睨んどらへんのになんで殴るねん。アッパーするねん!」
「純くんは、見つめるだけでも十分に睨みつけてるくらいなんだよ。見えないなら眼鏡かけなさい。どうせエロ本暗闇で読んでるから目を悪くしたんでしょ?」
眼鏡を無理矢理かけさせれば目を輝かせた。
「おぉ! よう見える! サンキュ、緋色」
「お礼言うくらいなら最初からかけてなさい」
「考えとくわ~」
ひらひらと手を振って純くんは自分の席にむかい、近くの人と仲よさげにしゃべっている。
羨ましいなぁ、純くんの社交性。誰とでも仲良くできるんだもん。
僕といるときよりも楽しげに話す純くんを横目で見ながら僕も自分の席に着いた。もしかして、僕、純くんに迷惑かけてたのかな。それだったらすごく申し訳ない。
「こんにちは、緋色くん」
「……あ、はい。こんにちは、漕代さん」
不安そうな顔とか見られてないよね!?
「沖矢くんがどうかしたの? さっきからじっと見てたけど」
ぬ、あ、見られてた……。うわー、ヤバいヤバイどうしよう。
「悩み事なら、聞くよ?」
……ありがたいし、白状するかな。
「純くん、他の人と話してるとき、僕と話してるときよりも笑顔だったから、もしかして僕、純くんに迷惑かけてたのかなーと思っちゃって。あ、えと、こんなことでごめんなさい」
「別に謝らなくてもいいよー。緋色くんは気付いてないんだね」
「え、何に?」
「なーいーしょ。そんなしけた顔するくらいならバシッと男らしく本人に白状してみたら? うーん、予想ではね、絶対に迷惑じゃないって即答してくれると思うな」
「そう……かな……」
「ふふ、あとは本人に聞いてみたら?」
可愛く(ウインク付きで)多恵ちゃんは笑った。可愛いなぁ。普通の人がしたらあざといし気持ち悪いと思うけど可愛いなぁ。
「そう、します……。ありがとう、漕代さん」
「多恵でいいよー。そのほうが気楽だしね」
「た、多恵ちゃんはヒーローとか好き?」
「いきなりなに? そりゃヒーローは好きだけど」
ヒーロー、好きだって!!
「緋色くんは戦隊モノとか好きなわけ?」
「うーん、そういう意味じゃなくてね、僕は“ヒーロー”が好きなんだ。別に悪を倒すわけでもなく、正義を守るわけでもなく、欠点だらけだけど、誰よりも優しくて人が困ってるのを見るとすぐに手を差し伸べてくれるそんな“ヒーロー”が」
「……沖矢くんのこと?」
「……はい。彼は僕の憧れで“ヒーロー”で、僕は彼のようになりたいんだ」
まだまだ難しいし、理想には程遠いけど。
「いいじゃない、ヒーロー! 応援するよ!」
「ありがとう、多恵ちゃん」
僕はニッと笑った。応援すると言ってもらえたことが単純に嬉しかった。
「緋色ー。行くでー」
「あ、純くん、先入ってて?」
「おーわかったわー。龍、一緒に教室戻らんかー?」
「いいぞー」
うん、やっぱり純くんに僕は見合わない。ヒーローに頼りすぎるのもダメだ。しばらくは僕一人で行動しよう。
こそこそと一人で音楽室を後にし、教室に戻るとさっさと教科書を入れ替えて読書をしてるふりをする。
こうすればさすがの純くんも話しかけにくいよね?
「よーし、授業始めるぞー」
「きりーつ!」
とりあえず、しばらくはそうしよう。
心に決めて室長の号令と共に僕は立ち上がった。
一日中純くんを避けに避けまくってわかったことがある。
純くんには友達がいっぱいいる。そしてやっぱり僕といるより楽しそうだということだ。
「このまま避け続けてれば、純くんも僕を構わなくなるかな。そうしたらいいよね。うん」
結局、僕は多恵ちゃんに言われたように純くんに直接聞くことはやめた。なによりも、否定されることが怖かったから。
「弱虫ー。んなんじゃいつになってもヒーローになれないぞー」
自分にはっぱをかけてみてもむなしくなるだけだった。
うん、やめよう。
「弱虫は弱虫らしくこそこそ生きますかね……」
それからは寂しい日々が続いた。ような気がする。
「ひい「あ、図書館いかなきゃ!」
話しかけられそうになるたびに逃げた。逃げた。逃げに逃げまくった。
僕がいない方がいいから。早く忘れてほしいから。
なのに、なのに。
「緋色っ!! なんで逃げるねん!」
「じゅ、純くん……」
放課後、当番の掃除を終わらせて逃げようとしたところで純くんに捕まった。
「なんで逃げるんや。俺がなんかしたんか! それでお前を怒らせたんか?」
「……純くんは何もしてない。ただ、僕には僕の考えがあって純くんを避けてた」
「なんやその考えって! 言ってみぃ!」
「純くんには関係ない!」
「関係なくないわ! まぁええ、聞き」
不機嫌そうな顔で純くんは僕の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「俺は、お前のことを迷惑に思ったりせん。お前がなんて思ってようとも俺はお前のことを一番の親友や思うとる。それだけはわかってくれ」
「でも、純くんは他の友達と話してるときの方が笑顔だった!!」
「アホか。あんなん上っ面や。それよりな、お前の好きな多恵ちゃんが、今図書館で調べものしとる。重いもん運んだり、高い所の本とろとしたりって結構苦労しとった。手伝ってきたり」
「僕、舞台とか用意するなって言わなかった?」
「確かに言っとったな。でもそんなの関係ない。別に俺が用意したわけ違うし。別にええよ、絶交されても。“ヒーロー”は孤独やさかい」
ずるい。純くんはずるい。なんで、なんでヒーローの話今するのさ! ずるいよ……。
「憧れるんは人の勝手や。そこは何も言わん。けど、無理にその憧れに近づこうとすな。自分のペースでええんや」
そう言って純くんは笑った。
「ヒーローになり、緋色」
トンっと背を押され、僕は駆け出した。
図書館の中に入り、奥の書庫を見ればたくさんの本を抱えた状態で高い本に背を伸ばす、僕の好きな人。
――ヒーローに、なるんだ。
「この本?」
勇気をもって一歩、踏み出した。
Fin.
えっと、とりあえずすみません 深夜テンションです
不快に思われた方申し訳ないです
悪のいないヒーローものがテーマです
主人公は最初語り手だったので、ヒーローの主人公じゃなくて語り手がヒーローみたいな名前だったら面白いなという駄洒落です
最初は沖矢君が主人公でしたが彼は変わらず変態ヒーローです
緋色君が途中ヒロインぽいのは……作者もなぜかわかりません
スルーしておいてください
まぁ、ページ数の加減で超適当ですが、読んでいただけたら幸いです
次回作はたぶん軍人のお話になります
では、このへんで 読んでくださった方に感謝を