風土の精霊
―広海―
昼食を食べ終わり小屋の外で伸びをした。
さすがにさっきのせいでこれ以上この異空間内を探検する気力はないし外の世界はまだ雨が降り続けている。さてこの後どうしようか。
キュリテのところに行って魔法のことでも聞いてみますか。
「天使の力6番”マンサーチ”」
一つ反応あり、場所は今日いった湖ってあれ、一つだけ?
捜索範囲をさらに大きく広げるけど他はまったく反応がない。
マンサーチは人間を探す魔法で、他のものは反応しない。
マンサーチは人間だけを感知するレーダー能力、今この世界の中にいるのは僕を含めて三人なのだが、自分ともう一人、二人のどちらかの反応が一切ない。
「…悪魔の力7番”オーラレーダー”」
今度は生物から出る特殊なオーラ(こっちの世界で言う魔法)を探ってみると湖のほうで大きな魔力を二つ感知できた。多分2人だろう。
念のためもっと広くの範囲を探ってみたら今回探索した場所とは逆の方向に無数の大きな魔力を見つけた。少し何か気になるけど今日はやめておこう。
湖に来るとキュリテとエールは下着だけになって水の中に入って何かをしていた。
「何やてるの?」
「あ、お兄ちゃん今ちょっと魚を取ろうとしているんです、お兄ちゃんお料理いつも野菜ばかりなので…」
あ、なるほど晩御飯の魚を取ってたわけね
特に魚や肉が取れないから野菜ばっかなのじゃなくて調理と後処理が面倒だからだ。
血抜きや内臓の抜き取り、いらない部位や食べられない部位の処理、ついでに言うと長期間の保存がきかない。
せめて塩でもあればいいんだけど今のところ岩塩も海水も見つかっていない。
「で、調子はどう?」
「それがまだ一匹も…」
おいてある壺の中を見ると確かに水は入っているが魚が一匹もいない。
というかこのツボどう見てもラッキョウを入れていた壺に見えるんだけど・・・
「ねえ、この中に入っていたラッキョウはどうしたの?」
「それならエールちゃんが全部食べちゃいました」
「ぜ、ぜんぶ?」
確かこの壺には一昨日の時点ではこの壺の半分くらいまでラッキョウが入っていたような気がするけどエール恐るべし…
「お兄ちゃんも見ているんだったら手伝ってください」
「ん・・・わかった」
「危ないから湖から出といてね」
「え?ちょ、ちょっと待ってください!」
キュリテが急いで湖から出るのを確認すると水面に手を付ける。
「悪魔の力31番”インパクト”」
大きな水しぶきができ僕の服をびしょ濡れにする。
インパクトは隕石衝突並みの衝撃を与える、それだけの力押しの力だ。
魚たちがプカリと水面に浮かんでくる。ついでにペンギンとエールも…。
なんか今のすんごいすっきりしたな。
「大量大量♪」
「はわわ・・・」
僕はエールを回収すると魚を集めいったん小屋に戻った。
「はあ、魔法ですか…」
魔法を教えてほしいというとキュリテは少し悩みこむ。
「お兄ちゃんなら魔法がなくてもあの力を使えば十分やっていけるような気がするんですが…。
」
「確かにそんな気がしないでもないけどあれって結構制限が多くて」
しかも制限の種類も回復時間も結構バラバラ。
「それじゃあ簡単に魔法のことを言いますと集中する、魔力を込める、願う、しっかりとイメージする、ただそれだけです。まず簡単な魔法をやってみますね。水の精霊様に願います、癒しの光を”アクアライト”」
キュリテが唱えると机の上に電球サイズの青い光の球が現れた。
その光はとてもきれいでみているとなんだか落ち着く。
「まあこんな感じですね、お兄ちゃんもやってみてください」
「水の精霊様に願います、癒しの光を”アクアライト”」
キュリテのまねをして魔法を使ってみると蛍のようなサイズの光ができすぐに消えた。
ちゃんと同じように詠唱したのになぜだろうか。
「ああやっぱり無理でしたか」
「どういうこと?」
「はい、この魔法は一人一人にあった魔法の祈りがありましてひとりひとり祈り方が違うのです。ちょっとお兄ちゃんなりに祈ってみてください」
自分なりに祈るか・・・ならやっぱりちゃんと祈る対象がはっきりとしていたほうがいいかな?
僕は前で手を組んで教会風の祈りの体制をとる。
「水の精霊ウィンディーネに願います、僕たち癒す水の光を”アクアライト”」
今度はさっきのとは違いバランスボールクラスの大きさの光の球が現れ部屋いっぱいを光で埋め尽くす。
ま、まぶしい・・・
きえるように想像すると光はすぐに消えた。
「今のはちょっと加減が必要そうですね…」
魔法の調整は夜まで続き夜は盛大に魚料理を作った。
―魔王―
昨日のごたごたの収拾がつき、私と四天王(ミーア以外)は再び会議室に集まっていた。
「魔王様、昨日のあの巨大な魔力は一体なんだったのでしょう?」
「私もわからん、たぶんあの神が呼び出した何かだろう」
それにしてもふしぎだ、昨日はあんなに馬鹿でかい魔力を感じていたのに今はその存在が死滅したかのように何も感じない。
昨日あの後世界の北のほうを見るとかなり離れているにも限らず、空が歪んで見えた。
魔力が大きすぎると自分の中では収まりきらず、周りにダダ漏れになることがある。そのせいで歪みが発生したり弱い生き物が死んだりするのだ。
だが今見てみると北の空には全く異常がなく、綺麗な青空が続いている。
コンコン
「失礼します」
メイド長のルピシアがお辞儀をして会議室に入ってくる。
「お前はもう動いて大丈夫なのか?」
「はい、元東の魔王の名は伊達ではありませんので」
「そうか、ところで何の用だ?」
「はい、例の異世界の勇者の情報を届けに参りました。」
「ふむ、すまない」
私はルピシアから資料を受け取ると目を通す。
ざっと見てみると勇者の年齢は15~20くらい、男女比は2対3で召喚された場所はどこも有力国、レベルは30~129、魔力量は4人は3桁で一人だけ4ケタ後半まあこんなところだ。
中でも一番注目する勇者が”アサクラ ミカゲ”、最も低いレベルのレベル30にもかかわらず、魔力量が最も高い魔術師系の勇者だ。
勇者の中では最年輩なうえにあまり体が強くないようではあるが、魔法の習得率が異常に早い。多分一番強くなるであろう勇者だ。
だが、これを見てもやはり昨日現れた馬鹿でかい魔力の持ち主は見当たらない。
景色が歪むのは5桁越えの魔力があり、さらにここまで届くとなれば6桁は軽く超える存在でなければ無理だ。
ということは奴は勇者として呼ばれ者ではないということか。
「そう言えばルピシア、世界の端のほうでヒューマンとあったといっておったな?」
「はい、そう申した覚えがあります。」
「そいつからは魔力を感じられたか?」
「いえ、まったく。ですがウロボロスを一撃で肉片に変えるほどの強さを持っていました」
ウロボロスを一撃で?そうなるとかなり危険な存在だ、そいつについても後々調べねばならんな。
コンコン
再びノックが聞こえ入ってきたのは美しいのラミアの女性だった。
「すみません少し寝坊しましたわ」
「「「だれ?」」」
「ちょっとなによあなたたち!」
「あー…私が説明しよう」
「ぬ!魔王様、もしやその蛇女、魔王様の新しい妻か!童というものがありながらなぜそう…」
「違う!それにお前を私の新しい妻にした覚えもするつもりもない!ミーアだよ!ミーア!」
昨日さすがに化粧をしたまま寝かすのには問題があったから少し化粧をとったのだがまさかこんな美蛇だったとは…
「それで体調のほうはどうだ?」
「はい、もう大丈夫です。ところで魔王様、あれはいったいなんだったのですか」
「ああ、あれはだな…ん?」
また大きな魔力を感じ外を見る。すると予想していたとおり北の空の景色が歪んで見えた。
「魔王様?」
「原因はあの空の下にある」
―広海―
次の日の朝、目を覚まして湖まで来る。
タオルを木に掛けると服を畳み湖の中に入っていく。
ひんやりとしていて少し寒いが我慢する。
今度お風呂の代わりになる何かを作ろうかな?
僕は体の隅々までしっかりと洗い(当然のことだけどシャンプーや石鹸はない)湖から上がって体を拭いて着替えた。
ピゥュィー・・・
「メー!!」
指笛を鳴らすとホープがすぐにやってくる。
僕は門を開けるとホープに乗って砂漠に出る、今日は雲一つない晴天が続いていた。
走ること二時間結構すぐに森に到着した。
「ホープ、もういいよ」
止まるように言ったけどまったく止まる気配を見せずさらに進んでいき泉が見えてくる。
「ちょ!ホープストップ!」
「めー」
ホープは言うことを聞かずそのまま走っていき泉に飛び込んだ。
ドポーン!
「・・・」
僕は大の字になって水面に浮く。
なんかこっちの世界に来てこんなことばっかりだな・・・
「メー」
ホープはバシャバシャト犬かきで泳いでいる。
羊毛(?)が水のせいで重くなっていたりしないのだろうか?
僕は泉から上がると濡れた服を脱いで少し絞ってからポーチとともに木に掛ける。
「メー」
ホープは泉から上がると勢いよく身震いをした。すると周りに水滴が飛び水でぬれて重力に耐えられなくなってペチャっとなっていた羊毛(?)は元のふわふわな状態に戻っていた。
なんて便利な羊毛(?)だ…
さてここに長いこといるわけにもいかないということで風の魔法を使って乾かすことにした。
火の魔法で温めた乾かしたり水の魔法でぬれた服の水だけをとろうとも考えたけど火の魔法を使って加減ができず森が焼けましたなんて言うシャレにならないことはしたくないし水の魔法でいきなりそんな高度な技術を試す気にもならなかった。
地面に膝を突き指を組んで目を閉じる。
「風の精霊シルフに願う、服を乾かすそよ風をふかせ」
心地よいそよ風が吹き気にかけてある服が揺れる。
魔法名がなくても発動できるかどうか試してみたけどどうやらうまくいったようだ。
「!」
突然ブワッと風が強くなり服が飛んでいきそうになる。
風はどんどん泉の上に集まっていきつむじ風ができた。
「よばれてとびでてジャンじゃじゃーん!!」
つむじ風の中から黄緑色の髪の妖精が現れた。
「どうも!プリティーキュウトなシルフちゃんでーす!」
「・・・」
なんか出てきた
この場合どうすればいいのだろうか…。
1、「hello」という
2、捕まえる
3、逃げる
4、プチ、する
5、無視する
いや四番はさすがにまずいでしょう、ひととして・・・
1、「hello」という
2、捕まえる
3、逃げる
4、プチ、する
→ 5、無視する
僕は生乾きの服を着てホープを連れて歩き出した。
なんか関わったらめんどくさそう。
「え、ちょっとなんでむしするのさ!?」
シルフと名乗った黄緑髪の妖精はぐるぐると僕の周りを回る。
「メェー」カプッ
「きゃっ!」
あ、食べられた。
しかしまずかったのかすぐに吐き出される。
「うえー、べとべと・・・」
「駄目じゃないか食べちゃ」
「あうーありが・・・」
「そんなの食べちゃお腹壊すよ?」
「ひどい!いまやさしいなとおもったわたしのこころかえせ!」
何かギャーギャー言っているけど無視だ。
「ねえってば」
無視
「ねえってば・・・」
無視無視
「むしのようにむしする、ぷぷっ!」
無視無視無視
「ねえてば・・・」
無視無視無視無視
「ねえってばーむししないでよー・・・」
「・・・」
「もおうるさくしないからとまってよお・・・はなしきくだけれもいいかりゃ・・・」
シルフはぽろぽろと涙をこぼし始めた。
「ごめんなさいごめんなさい、836ねんぶりにしょうかんしゃえれたかりゃうれしくてついついてんしょんあげちゃっただけなんだよ・・・」
シルフはワンワンと本気で泣き出してしまった。
さすがの僕ももう折れた。
「ああもう、分かったから止まるから、話聞いてあげるから」
足を止めてシルフをなだめた。
「わたしシルフっていうのよろしくマスター」
シルフは泣き止むと改めて自己紹介をしはじめた。
「わたしはセイレイのなかでもすっごくえらくてねそれでねすごくかわいいんだよ」えっへん!
「かわいいかわいい」
シルフの頭をなでてやると表情が緩んで「えへへ」と声を出した。
「ところでなんで僕なことマスターって呼んだの?」
「それはじょうおうさまが「わたしたちをよびだしたものをマスター」とするといったからなの。だからますたーは2ばんめのますたーなの」
二番目のマスター?確かに僕の前にこの子をだれかが呼び出していてもおかしくないけどそれにしては異常に少なすぎる。確かさっきこの子は800年くらい久しぶりに呼び出されたといっていた。
つまり前のマスターからずっと誰にも呼び出されることなくずっといたのかな。
「ねえねえマスターほかのみんなのなまえわかるこいる?しってたらよんでみてよ!」
みんなというのは多分ほかの精霊たちのことだろう、知っているかと聞かれたら知っているけど向こうの世界と精霊の名前は同じなのだろうか?
物は試しか・・・
「土の精霊ノームに願います、僕の前に姿を現してください」
土が盛り上がっていき褐色で茶色っぽい髪の女の精霊がでてくる。腕がごつごつとした岩のようになっており体に蔦のようなものが巻きつき大事な場所はしっかりとかくしてある。
ノームっておじいさんのイメージがあったんだけど違うみたいだ。
「・・・」
「ど、どうも」
「ノームちゃん、この人が新しい召喚者だよ!」
「・・・ヒューマン?天使?堕天使?・・・混血ではない植えつけられた力、ヒューマン、否、ヒューマンの祖”人間”?、否、別世界の神の力・・・異世界転生者・・・否・・・該当なし・・・異世界訪問者と解釈、契約への問題なしと判断」
ノームの背中に虫のような透明な羽が生が現れ肩の上まで飛び頬にキスをした。
突然手の甲に痛みを感じた。
「っ!?」
見ると手の甲に茶色いバラの花が書かれてあった。その絵はすぐになにもなかったかのように消える。
「契約完了、上位精霊”土のノーム”、あなたを主と認める」
にっこりと笑顔を見せた。
「う、うんよろしくノーム…」
「ああーーー!けいやくわすれてた」
「早い者勝ち」
ノームは勝ち誇ったような顔をする。
それにしてもノームの表情は異様に作り物の人形のように見える、まるで機械のように無機質、なんというか感情がこもっていないみたいなかんじ。
「こうなったらむりにでもけいやくを!」
「不可、無理に契約は死の危険」
「ぶぅーー!!」
さて次召喚しようか
「火の精霊イグニスに願います、僕の前に姿を現してください」
・・・
・・
・
なにもおこらないようだ
もしかして名前を間違ったとか?
「主、上位精霊の召喚にはその属性の媒体が必要となる」
「媒体?たとえばどんな?」
「わたしなら大地、シルフなら風がある場所、私たちの媒体はつながっているためほとんどの場所で召喚できる、でも火と水は溶岩や海がないと無理」
元からここじゃあ無理なのね、そういうのは初めに言ってくれると嬉しかったな・・・。
「ねえマスターこれからどこいくの?わたしたのしいところがいいなー」
「ともかく人がいる場所かな?ここら辺人どころか生物一匹いないんだ」
「え?じゃあこのもこもこは」
シルフハスぴすぴとねむっているホープの上ではねながら言う。
どうやら待たせすぎたせいで眠ってしまったようだ。
「それは例外」
「例外?」
あ、ノームのほうが食いついてきたか、まあこれは見せたほうがわかるだろう。
僕はゲート開き二人に中の様子を見せる。
「わー・・・」
「亜空間?」
「そ、ここからこの子は連れて来たの」
ホープを起こして戻らせると入れ違いでエールが出てきた。
「やあおはようエール、お腹でもすいたの?」
「・・・」ふるふる
エールは首を横に振った
「じゃあ暇だから出てきたとか?」
「・・・」ふるふる
これも違うらしい
「まさか僕に会いたかったからかな」
「・・・」こくこく
え、あ本当にそうだったんだ冗談で言ったつもりだったんだけど・・・。
エールは僕の腰あたりにしがみつきどこか満足そうに目を細める。
「♪」
「ますたーこのこだれ?」
「一緒に旅してる子かな?」
そういえばこの子たちのことなんも聞いてないな。親とかはちゃんといるのだろうか?
「古代武器?、天使?個、否、集合体?・・・・・」
ノームはまた何かをぶつぶつと言い出した。
「ねえシルフ、町の方角とかわかる?」
「えっとねちょっとまってて風にきいてみる」
シルフがくるくると回りだすと黄緑色の光の帯が集まってきた。
「このちかくにまちはある?」
光はシルフの問いに答えるように三角型になり方角を指した
「あっちだって」
「ありがと」
僕らは町に向かって再び歩き出した。
それにしても異常に遠いな・・・。
広海「抹茶スイーツ食べたいな」
リュミエール「・・・」じゅるり