●ぷろろーぐ
高い場所から落ちたような痛みで目が覚める。
一瞬ベッドから落ちたのかと思って目を開けてみると強い太陽の光が目に痛い晴天の空だった。
そもそもうちにベッドというようなものはなく、全室和室で布団敷いて寝てるんだった。
夢? 一瞬そう思ってしまったけど、この照りつける異様な暑さと背中を焼くような暑さの細かい粒子状の地面はやけに現実的だ。
一旦体を起こして周りを見回してみると、そこには広大なサボテン一つ無い真っ白な砂漠が広がっていた。
そりゃ暑いな、と感心しつつなんでこんなところにいたのか思い出せずにいる自分。
よし、一度昨日あった事を思い出してみよう。
ええっと確か昨日は朝5時に起きて毎朝の鍛練をして、高校に行って倶楽部をして国立図書館で新しく入った本十一冊を読んでから家に帰って夕食を作って食べ終わったら夜の鍛練をして11時にお風呂に入って途中息を荒くして「お兄ちゃん背中流してあげるよ」とか言って妹が裸で入って来たのを撃退し、お風呂を上がって寝巻き(女性用の甚平、男物だとサイズが合わない)を着て人の布団を勝手に敷いて布団の中で来るのを待ち伏せしていた妹を部屋から追い出して部屋の鍵(もちろん南京錠)を閉めて寝た。まあいつもどおりの事しかしてないな。
もし夢遊病が発症して家から勝手に出たとしても、こんな砂漠地帯近所どころか県内にすらない。
となると可能性からして出てくるのはよく僕を古今東西いろんなところに修行という名目で観光に連れて行くうちのどこで生まれたかも知らない恋嫁流という武術の師匠・・・いや、それはないか。
あの人は結構常識をわきまえていて、寝ている間に連れ出すような誘拐まがいなことするような人じゃ・・・多分ないと思う。
最後はーもぉっと私を見てー燃えつくすーように~♪
「ひゃ!」
突然「真夏の夜の夢」が突然なりだして驚く。
母さんが好きでよく聞いていた中で気に入ったからそのまま着信音として登録してある。
昨日後輩にメールを打っていてそのまま眠ってしまったため手に携帯電話を握られている。
というかここ砂漠のど真ん中だよね、どうやって繋がってるんだろう。
電話の通知を見ると電話番号ではなく「地球 日本の一番豪い神」と書かれている、しかも電波は一本も立ってなく圏外と表示された状態で。
当然そんな神とか名前のつくような人を登録した覚えはない。
というか一番豪い神様って誰だよ、というか「えらい」って漢字、間違えてるような気がする。
「はいもしもし?」
「あ、ど、どうも 神の「睦月」と申します。朝倉広海さんでよろしいでしょうか?」
「はいそうです」
「よかった通じたみたいですね・・・あ、ちなみに携帯に表示しました「豪い」は漢字間違いじゃなくってとんでもないって意味です・・・」
あ、間違いじゃなかったんだ。って今はそんなことじゃなくって
「それで神様っていうのは百歩譲ったとして、ここはどこなんですか?」
「えっとそこは「イニノア」と呼ばれる世界のちょうど北端の部分に当たります…」
え、なにそれ? 朝起きたら異世界にいたってどこの漫画?
「えっとそれは何かの冗談ですか?」
「あはははは…それならどんなに私も楽ですかね…ごめんなさい現実です」
「・・・」
マジですか、真剣と書いてマジ。
何? その笑えない状況・・・
漫画とかならよくある王道なんだけどいざ自分が体験したいかと聞かれるとすごく悩んでしまうようなこと。
「そう言えばなんでここに僕はいるんですか? 異世界へ移動する術式の練習なんてしていたの去年ですけど、まさかあれ成功したわけじゃないですよね?」
「いえ、特にあなたが何かしたからというわけじゃ…ってそんな事練習してたんですか!?」
「まあとくにすることなかったので、悪魔召喚から師匠に頼み込んで世界遺産巡りまでいろいろやりましたよ」
「ある意味すごいですね! あなたはどこの大富豪ですか! はぁ・・・あなたがそこにいる理由ですけどそれは私のせいなんです、ごめんなさい私が目を離したすきに人間を何人か引き抜かれてしまいましてごめんなさいまさか一県丸ごと引き抜こうとするなんて予想していませんであなたを含めて七人も抜かれてしまいました」
規模でか! 一県丸ごとって何百人いるの!? よく丸々一県分の人間を異世界召喚しようと思ったな、召喚者!
「あ、ごめんなさいそろそろ時間がやばいので一方的にいろいろなこと言います。まずあなたにそちらの世界で使える特別な力を二つ渡します。いわば天使の力と悪魔の力なんですが・・・本当は物を送りたいんですけどいろいろと神様同士にもルールがあって送れません、なのでそちらでいろいろと調達してくださいごめんなさい。その力で世界を滅ぼすなり救うなり好きにしてください、そちらの神が条約違反を犯したので問題ないと思います。それからそちらに連れて行かれたあなた以外の人にも会ったら気をかけてあげてください、まあその人たちはそちらの世界の神から力を受けているらしくあなた以外全員どこかの国に飛ばされています。もしかするとはじめっからその人たちを連れて行くことが目的だった可能性がありますたぶんあなたはほかの人に引っかかって連れてこられたんだと思います。それから、天使と悪魔の力に・・・ゴフッ!」
携帯の向こうから何かを吐くような音が聞こえた。
「え、ちょと大丈夫ですか!?」
「ごめんなさい、これ以上無理みたいです・・・近いうちに変わりの神に頼んでほかの連絡はしますので・・・
バタ、ツー、ツー、ツー・・・・
そこで通話が途切れ、てしまう。
え、ちょっとまって最後もしかして倒れた? 死んでなければいいけど死んでいなくてもしばらくは安静にしないとやばそう・・・無理させてすみません。
あーでも神様って死ぬことあるのだろうか? まあそこは深くは考えないでおこう。
携帯電話を閉じてポケットの中に入れ込む。
まずは一旦整理をしよう。
えっとまあ突然異世界に呼び出されて、着いた先が“イニノア”と呼ばれる異世界の北端の砂漠で、神を名乗る女性が元の世界から電話してきて天使と悪魔の力をくれるといった。
こちら側に飛ばされたのは全員で七人そのうち僕だけがこのどこの国の領土でもないこの場所に呼び出された。
その理由は神様いわく誰かに引っかかってきたということ。
その誰かというのは・・・多分妹だな・・・。
それで持ち物は携帯ひとつ。
街どころか植物ひとつ見えない砂漠。
「あ、あれこれってもしかしてピンチ?」
よくよく考えたら砂漠のど真ん中で何の装備もなくたった一人。
せっかく無理してもらったのにこのままでは干からびてしまい誰かにミイラか人骨として発見されるのがオチ。
まあくよくよ考えていても仕方ないか、確か北端だといっていたから南に向かえば何か見えてくるだろう、それにかけて動くしかないか。
ともかく南だと思う方向に走り出す。
主人公プロフィール
朝倉 広海 14歳
顔つきと名前でよく女と間違われるけれどしっかりとした男子。
体型的な問題で男物ではサイズが合わないのが悩み。
特技は家事全般、結構うどっちつかずの万能系ではあるが、見た目を重視する造形が苦手で美術はいつも評価一。
部活は料理部に入っているのと師匠と呼んでいる人に世界中引っ張りまわされていたので古今東西いろんな料理ができる。
恋嫁流というよくわからない武術を習っていたり、知り合いの教師から巫女修行をさせられたりといろいろなことをさせられていた。
好きな食べ物は漬物類で、家で自分で漬けて地下室に保存している。