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男は、地に伏せた。その眼には最早光など灯っていなく、暗いそれは、ただ一つを見つめていた。硝煙を上げる銃口を。銀色の装飾銃を。黒いコートを。そして、まだ成人もしていないであろう、一人の少年を。
あぁ、なんでこんな時代になってしまったんだ。
男は、最後の力を振り絞り、声を上げる。口に、ビチャビチャと雨粒が流れ込んできた。
警察が崩壊し、武器の所持が当たり前になってしまってから、数年。甘い汁ばかりを啜ってきた自分に、とうとう罰が下ったのだろう。
「君……は?」
眼光が遮断され、最早どこにいるかわからないその少年に、声をかける。
「殺し屋だよ、殺し屋。分かってるだろ?」
少年は、にやりと笑う。濡れた前髪に隠れたその瞳は、真っ赤に光っている。そんな光景も、灯の消えかけた男には理解出来なかった。が、殺される理由は、簡単に理解できた。
「あんた、暴れすぎたんだよ。軽犯罪が七つ、重犯罪が十二。よく今まで殺されなかったな。」
少年の声が、だんだん薄れる。薄れたのではない。意識が遠のき始めたのだ。
「君は……怖くないのか?この時代が……。」
「怖いなんて思っていたら、生きていけないさ。」
少年は質問したまま口を閉じない男に、もう一度、その銃口を向ける。
「悪いな。俺も仕事でやってんだ。恨むなら、こんな時代にしちまった政府でも恨むんだな。」
雨空に響く、二つの乾いた銃声。そんなことも、この世界では当たり前となっていた。誰も、銃声を聞いても振り向かない。犯罪者のオアシス、日本。
これは、そんな時代に生きる少年たちの、足掻きにも似た物語。